1217/1310
あまいゆうわく
理由は分からないが、むつに指示された通り、冬四郎はキッチンからボウルを出してきて、篠田に2つ持たせた。大きいのは、4つもあるはずがなく大きいのと小さいのを2つずつだった。
「…ボウルいっぱいあるんだな」
「勿論。泡立て器もフライ返しも2つはあるわよ?お兄ちゃん家にはないの?」
「ない。あっても大小1つずつだ。まぁいい…それより、こんなの持ってどうするんだ?」
むつは、うんっと頷いただけだった。あまり説明をしないという事は、あまりいい予感がしない。冬四郎は篠田と顔を見合わせて、嫌そうな顔をしていた。だが、むつはそんな2人には構わない。ただ、祐斗、菜々、こさめに危ないからおいでと手招きして、いそいそと離れていく。
「お、おい、むつ…危ないって何するつもりなんだ?俺と篠田さんは危なくないのか?」
「…知らないわよ。2人とも現役の警官。市民を守ってみなさいよ」
ふんっと鼻で笑うように言われると、冬四郎は言葉に詰まった。まだむつの怒りは、どうやら収まっていない。篠田は諦めたような顔で、普段なら指示する側だというのに、むつの指示を待っている。




