あまいゆうわく
「なぁ…むつ、何があったんだ?」
「うん…後で説明するから」
むつはそう言って、ぎゃんぎゃんと怒っているこさめと大人しく怒られている篠田の腕を掴んだ。そして、ぐいぐいと引っ張っていくと廊下に出すと、冬四郎を手招きして呼んでから静かにドアを閉めた。
こさめの声が聞こえなくなると、祐斗はくすっと笑った。祐斗が笑うと、菜々は小首を傾げた。
「あ、すみません…篠田さん怒られてるなって思って…宮前さんもきっと…」
「そうかもね。篠田さんは怒られて当然よね」
「それもそうですね。菜々さんも…怒ってますか?全然、こっち見てくれませんし」
「え?」
「いや…あの…篠田さんにはこさめさん、宮前さんにはむつさん…だから、俺には…菜々さんかなって…」
「…怒ったりなんか…」
怒れるような立場ではないから、と菜々がぎこちなく笑うと祐斗は、そうですかと呟いた。
「…菜々さん、偽物の菜々さんが言ってましたけど…自分の事をどう思ってるか、って」
「あの…あれは…その…」
菜々がしどろもどろになると、祐斗は少し困ったような顔をした。その表情を見て、菜々はやっぱりむつの友達でおまけでしかないんだと感じた。




