1202/1310
あまいゆうわく
菜々は吐いた息が、白く重たい物のように見えた。むつはそれを見ながら、室内の温度がそこまで下がっているのだろうかと不思議に思った。むつが、はぁと息を吐いてみても、白くはなっていない。
まだ、うじうじと悩んでいる菜々が息を漏らした。その吐き出された息が、むつたちを阻んでいる壁に吸い込まれるようにして消えていく。それを見ていたむつは、成る程と納得していた。
これなら祐斗も気付いて当然だ。
「菜々…?」
「むつぅ…」
うつ向いている菜々の肩が、細かく震えている事に気付いたむつは、そっと顔を見た。
「何かさ…何でもはっきりしなくていいと思うよ。今、どうしたい?先の事なんて、後から考えようよ。こさめも怒られるなんて気にせず、バイト始める気だよ?菜々は?今…今どうしたい?あたしはお兄ちゃんの横っ面殴り飛ばしたいんだけど」
「こさめも、直弥をぶん殴りたい」
むつとこさめは顔を見合わせて、ねーっと言っているが、その声は低い。目に涙を溜めていた菜々は、きょとんっとした顔で2人を見ていた。




