あまいゆうわく
はっと顔を上げた祐斗は、何かに気付いたようだった。そして、殺気のような視線を感じた方に目を向けた。そこにはテレビが置いてあるだけで、他には何もない。
祐斗の視線が向けられた事に気付いたむつは、さっと菜々の後ろに立った。
「祐斗君?」
「…菜々さん、俺は…こういう大切な話は菜々さんとしたい。あなたも菜々さんかもしれないけど…そうじゃない。だから、どう思ってるとか答えられません、言えるのは…俺が気になってるのは、あなたじゃなくて、菜々さんだっていう事です。菜々さんを返せ!!」
どんっと祐斗は菜々を突き放した。
祐斗の声がしっかりと聞こえていたむつは、菜々の顔を見た。菜々は、驚いたように目を真ん丸くしている。
「祐斗は答えたよ。次は、菜々だ」
「…むつ」
「ね、分かったでしょ?祐斗がどんな形であれ菜々を大切に思ってるって」
後の事は、菜々に任せたらいいとむつは思った。だが、菜々は祐斗君言葉を聞いても、まだどうしようかと決めかねている。
「でも、むつ…」
はぁと菜々が溜め息を漏らした。風呂に入ったから、身体からはチョコレートの匂いは消えていても。吐く息は甘ったるく、チョコレートそのものだった。




