あまいゆうわく
冬四郎は篠田の分のスリッパも出すと、ぺたぺたと足音をさせて部屋に入った。甘い香りが、だんだんと濃厚になっていき、気分が悪くなりそうな程だった。
「ずいぶんと…」
流石に、こうも匂いがするとどれだけの量のチョコレートを使ったのだと篠田も気になるようだった。篠田がリビングに入ると、どんっとぶつかるようにしてこさめが飛び付いてきた。
「こさめ、凄いチョコレートの匂いが…って…こさめもか…服はどうした?何で着てないんだ?」
一緒に住んでいても、パンツしか身に付けていないこさめを見慣れているわけでもないのか、篠田は顔を背けている。それに顔を赤くしている。初々しい反応を見せられた冬四郎は、意外な物を見たと思っていた。
「おにーちゃんっ」
まだ服を着てもいないむつが、甘えるような仕草で、ぽすんっと冬四郎に抱き付いてきた。ゆっくりと首に腕が回され、むつの顔がすぐ目の前にある。化粧も何もしていない素っぴんではあるが、頬はやや赤くなっているし目は潤んでいて、それだけで色っぽく見える。冬四郎はむつがこんな風に来るとは思いもせず、焦るばかりだった。だが、嫌な気はまったくしない。むにゅっとした柔らかい物がさらに押し付けられると、冬四郎はおずおずとむつの背中に手を回していた。




