あまいゆうわく
少し酒の勢いを借りて、女性物のネックレスを選びプレゼント用にして貰った冬四郎と篠田は、少し早いがとむつのマンションにやってきた。
「篠田さんでも、こういう物を選ぶのは苦手だったんですね。女性の事に関しては、誰よりも慣れてるイメージでしたが…」
「まさか、まさか…慣れてるはずないだろ?こんな風にプレゼントなんて…学生の時以来だよ。それも、前は彼女が選んだのを買っただけだったし」
「…学生の時以来、彼女なしだったんですか?」
「…そういう事。もう何も聞くな、命令だ」
意外だと言いながら、冬四郎はむつの部屋番を押した。ピンポーンっと鳴り、少しすると、がちゃっと音がした。
『はい?』
「あ、むつか。ちょっと早いけど…上がってもいいか?篠田さんも一緒だし」
『ん、どうぞ』
オートロックが開くと、冬四郎と篠田はエレベータに乗り込んでむつの部屋の前まで行った。ドアを開けずとも、ぷんっと甘い香りがしてきている。そうとうなチョコレートを使ったという事だろうか。少し躊躇ったが、冬四郎はドアをノックした。すると、待ち構えていたかのように、むつがドアを開けた。やけに機嫌がいいのか、満面の笑みだった。だが、冬四郎も篠田もぎょっとして、立ちすくんだ。
「…何?どうしたの?」
「いや…お前…服はどうした?」
「あ…着替えてる途中で…とりあえず入って。開けっぱなしだと寒いし」
むつが部屋の中に入っていくと、冬四郎と篠田はとりあえず入ってドアを閉めた。髪の毛をアップにして、首には包帯を巻いているむつの後ろ姿を見ながら、冬四郎は顔をしかめていた。
「…僕は何も見てないから」
冬四郎のしかめっ面を見た篠田は、言い訳をするかのように呟いていた。




