あまいゆうわく
風呂から上がったむつは、髪の毛をタオルで包むと、首の咬み痕を隠すように、くるくると包帯を巻いた。菜々は気がかりそうに見ていたが、何も言わずにこさめをドライヤーで乾かしていた。
「こさめも菜々も洋服はすぐ洗濯してあげるから、とりあえずあたしの服出すから、それ着といてね。洗い終わったら、コインランドリーで乾燥だけしに行かなきゃ」
「うん、ありがと。借りるね」
むつは3人分の洋服を持って風呂場に戻ると湯船の中に放り込んだ。そして、じゃぶじゃぶとお湯で洗った。牛乳で伸ばしてあるからか、チョコレートは簡単に落ちた。そして、軽く水をしぼって洗濯機に入れると、少し多目に洗剤を入れて、スイッチを押した。
ブラジャーのサイズは合わないからか、パンツだけをはいてキャミソールを着た菜々は先にリビングに出て、おやっと首を傾げた。パンツだけのこさめもやってくると、立ち止まっている菜々を見た。
「どうしたの?」
「綺麗になってるの…」
「………?」
髪の毛をアップにして、すでにサルエルパンツをはいてブラジャーをつけているむつは、2人が揃って首を傾げているのを見ると、首を傾げた。
「2人して、どうしたの?」
「むつ、床が綺麗になってる」
「………?」
むつは菜々の言っている事が信じられず、リビングを見た。テーブルや床に飛び散ったはずの、チョコレートが全く見当たらない。誰が掃除したわけでもないのに、すっかり元通りになっている。残っているのは、チョコレートの甘い香りだけだった。




