あまいゆうわく
ラッピングをしながら、むつはぶるっと肩を震わせた。チョコレートを使うからと、暖房は切っていたし、換気扇も回しっぱなしで、寒くなったのかもしれない。むつは換気扇を止めると、暖房をつけた。
「むつ、寒いの?」
「うん…ちょっと冷えてこない?」
「かな?あたしは平気よ?むつ、また風邪?あんた、仕事の後は大体、体調崩すらしいわね」
「…祐斗め、余計な事を」
むつは悪態をつきながら、ソファーに置いてあるブランケットを肩にかけた。寒さのせいなのか、首の咬み傷といい肩の怪我といい、ずきずきと痛む。痛み止めでも飲もうかな、とむつは思いながら菜々のホットチョコを飲もうと、マグカップを持ち上げて首を傾げた。
「どうしたの?怪我が痛むの?」
「うん?ん、まぁ…何か、ホットチョコ…牛乳で伸ばしたのに…やけに、てかてかして」
「っ‼むつっ‼」
「きゃああっ‼」
はっとした時には、マグカップのホットチョコが吹き上がるようにして飛び出した。もろに顔にかかったむつは、ぷっと口に入った分を吐き出した。
「菜々!!こさめっ‼」
顔にべっとりとついたチョコレートは、ねばりけがあるようでまとわりついている。むつはそれを拭って、菜々とこさめを見ると、2人も頭からチョコレートをかぶったようになっている。何が起きたにせよ、そんな量がマグカップに入っていたとは思えない。むつは何が起きたのかと、険しい表情を浮かべて部屋の中を見た。だが、こさめも何も警戒している様子はない。
「…菜々はホットチョコを爆発させるようなくらいの料理音痴?何を入れたらこうなるんだ?」
むつが真面目くさった顔で呟くと、菜々がぱちんっとむつの頭を叩いた。
「むーつーお風呂ーっ」
「…とりあえず、そうしよっか」
「お風呂出たら掃除ね」
テーブルや床に飛び散ったチョコレートを見て、菜々は溜め息を漏らしていた。




