あまいゆうわく
「そっか…」
菜々はそう呟いて、また牛乳を足してゴムベラをゆっくりと動かした。むつは能力の事を常に気にしている。それは、付き合いの長い菜々には、よく分かっていた。それがネックになって、人付き合いが嫌になっていた時があるのも、よくよく知っている。本当に好きな人が出来た時、それがネックにならないはずがない。こさめもそうだ。自分でも言っていたが、こさめは人ではない。それでも篠田を好きだと言い切っているし、篠田もそんなこさめを受け入れている。それは、篠田という人物の心の容量が大きいから、受け入れられているのだろう。
むつとこさめの事を考えると自分の悩みは、さほど大きな物のようには思えない。だが、やはり悩んでしまう。相手にどう思われているか分からないから、余計にそうだ。
祐斗はわりとこまめに連絡をくれるし、色々と話してもくれる。アルバイトの事から学校の事まで。祐斗にとって自分はむつの友達であり、むつ以外に相談できるだけの姉のような存在なのではないだろうか。そうやって考えていくと、自分はやはり祐斗の事が気になって気になって仕方なくなる。
自分は、どうしてしまったのだろう。どうしたいのだろうか。答えの出ない悩みを、ぐるぐると考えながら、菜々は重たい溜め息を漏らした。




