あまいゆうわく
「…篠田さん、ご存知でしたか?日本だけらしいですよ。バレンタインに女の子がチョコを渡すっていうのは。チョコメーカーの策略ってやつですよね。海外では、男性が贈り物をするそうで…」
冬四郎がやや、恥ずかしそうにもごもごと言うのを篠田は、きょとんっとした顔で聞いていた。だが、だんだんと口元を引き上げて、笑いを堪えたような顔つきとなっていった。
「ふぅん?宮前君は本命チョコがない代わりに、自分から贈りたいと?まぁ…仕方ないな。宮前君の買い物に付き合って、僕もこさめに何かプレゼントしようかな。そういえば、まだ何もあげた事なかったような…」
「…むつからのチョコなかったら、1つも貰えない事になりますから」
「えっ‼意外だ‼だって、署の女の子たちから…」
「全部断ってます。それに、何か怖いんですよね貰うのが」
「あー水面下での女子の戦いがあるみたいな事は聞いてるよ。渡したのがどれだけ高価なのかとかホワイトデーがどのくらいの物を貰えたかで優劣をつけたがるって…」
「それなら、署員女子一同から、皆さんでどうぞっていう方がどれだけ有り難いか…」
「浮かれていられるばかりの季節じゃないな」
面白そうに笑っている篠田だが、若くして肩書きがしっかりあり、ルックスも整っていて優しい篠田が、どれほど女性から人気があるかを知っている冬四郎は、篠田こそ笑っていられないだろうにと思っていた。




