あまいゆうわく
意外と真面目な篠田の答えを聞きながら、冬四郎は自分はどうなんだろうかと考えた。真っ先に浮かんだのは、むつの事だった。むつがどんな風になったとしても、自分は本当にむつの側に居られるのだろうか。むつが離れていこうとしても、それを引き留める事は出来るのだろうか。ついこの間の、怨霊の時から冬四郎はそればかりを考えていた。
「…宮前君の悩みは、いつもむつさんだな。そんなに思ってるなら…言ったらいいじゃないか。やっぱり妹だからっていうのがあるのかい?」
言わずとも篠田には分かるのか、冬四郎は苦笑いを浮かべて、泡の少なくなってきたビールを呑んだ。
「そこまで…篠田さんみたいな覚悟はありませんから。言えませんよ」
「僕に覚悟があるとでも思うのか?覚悟っていうのは…口に出して伝えた時に、つく物だと思ってたよ。今、宮前君の前で言ったから、こさめの事がどれほど大切なのか思い知らされてるっていうだけだよ」
「…やっぱり、こさめさんが居なくて寂しいんですね?だから、俺を呼び出したと?」
「ん、うん…まぁ…そうなるな…仕方ないじゃないか。こさめは賑やかで、目を放すと何するか分からないから…疲れもするけど。だから、たまに八つ当たりというか…冷たい態度を取ってしまうから、悪いなって思うんだよ」
「…それは、人でも妖でも…誰だってそうですよ。四六時中一緒じゃ息が詰まりますから。休みの時だって、いつも一緒したなくてもいいんじゃないですか?」
「そうだよな…こさめもこさめで、僕以外の人とも過ごして、色々学ぶ機会を作らなきゃいけないだろうから。今日は、ちょっと寂しいけど…いい機会だよ」
「寂しいって事は、それだけこさめさんの存在が大きいって事ですね…はいはい。ご馳走さまです」




