あまいゆうわく
そろそろと篠田の隣に腰を下ろした冬四郎は、こさめが猫から猫又という妖になった時から知っているだけに、家出をされればさぞ心配だろうと篠田を気遣っている。
「あ、いや…そうじゃないんだ。こさめはむつさんと遊んでるから。俺が手持ち無沙汰になっちゃったんだ…」
「…はい?」
「むつさんは休みを取ってくれて、こさめと遊んでるよ。だから、俺は宮前君に遊んで貰おうかなと…いいかな?」
こさめが居なくて寂しいというのは、本当のようだった。相手になって欲しくて呼ばれたのだと分かった冬四郎は、ほっとしつつ、ただの仕事仲間以上に思って貰えている事が嬉しかった。
「勿論ですよ。ですが…何します?おっさん2人で昼間から…」
「そうだな…とりあえずご飯にしないか?」
軽く呑みながら、と篠田がグラスを持ち上げる仕草をして見せた。昼間から呑む事なんかあまりない冬四郎は、たまにはそんな休日も有りかもしれないと頷いた。
「山上さん、じゃあ俺たちはそろそろ…」
「呑みに行くのか‼俺も行きてぇなぁ‼何でむつ休んだんだよ…」
休みが取れるようにとこさめを使った事を、ほんの少しだけ後悔もしたが、それぞれが好きな休日を過ごせるならいいかと思った。
「早く終わったら連絡するからな‼」
「分かりました。待ってますよ」
篠田は冬四郎と出掛ける事を楽しみにしているのか、爽やかな笑みを浮かべて出ていった。




