ごじつ
むつが話し掛けると、枕元に置いてある人形がもぞっと身動ぎをした。そして、すっくと立ち上がった。
能力が使えないというのに、むつが声をかけると動き出した人形を見て、祐斗と片車輪は驚いていた。だが、むつは驚いた様子はない。そうなるのが、当然といった感じだった。
すっくと立ち上がった人形は、すたすたと西原の胸の上にのぼっていった。そして、ふんぞり返るようにして腰に手を当てた。偉そうなその態度は、ちょっぴりむつに似ていて、祐斗は可笑しくて笑ってしまった。そして、人形はのっぺらぼうな顔で、じろっと人魂たちを値踏みするように見た。西原にたかっていた人魂たちは、びくっとするように動きを止めた。
「むつさん能力戻ってるんじゃないですか?」
『戻ってはないわよ。この子は、あたしの手を離れちゃってるだけ…危ないわね』
「…それを西原さんの所に置いとくつもりですか?それこそ何か影響が出るんじゃないですか?」
『大丈夫よ。たぶん…先輩も祐斗もマイナス要素ばかりを持ってるわけじゃないし…』
他にも何か言いかけたむつだったが、言葉を切った。続きを聞きたいと思った祐斗だったが、むつが言いたくないのであればと思っていた。
『大丈夫…帰省から戻ったら気にしとく。先輩にも伝えておくつもりだし…先輩が大丈夫になったら、供養にでも出してあげたらいいのよ』
むつの言葉を理解しているのか、人形はこくりと頷いた。そして、人魂たちを追い払うように、しっしと手を振っている。その仕草は、人らしく本当は自分の意思があるかのようだった。




