ごじつ
『祐斗、近付いてみない?』
「そしたら逃がしちゃう事になりませんか?」
『逃がしちゃって、明日も先輩の様子が変だったら…あたしが様子見に行くから』
帰省しており、明日は大晦日だというのに西原の為に戻ってくるときっぱりと言い切ったむつに、祐斗は嬉しく思っていた。だが、その為に折角久しぶりに家族と過ごしているむつをこちらに来させたくないとも思った。
「いえ…今夜何とかしたいです。俺が…俺が西原さんと一緒に居て、気付いた事ですから。だから、むつさん協力してください」
『…分かった。電話越しだけどね。出来る限りの協力はするから、先輩の事お願いね』
はいっと返事をした祐斗は、むつにばかり頼っていてはいけないと強く思った。そして、耳に意識を集中させた。電話越しの、むつにも何かしらのノイズが聞こえているとなれば、すぐ近くに居る祐斗に聞こえてこないはずがない。
むつは近付いてみたらどうかと提案してきたが、祐斗は近付くつもりはなかった。相手が何物なのか分からないが、ここで逃がしてしまっては意味がない。こちらに気付いていたとしても、このままここで様子を見てから出方を考えるべきだと思っていた。それは言わずとも、むつにも通じているのか、むつは近付かない祐斗に対して何も言わなかった。




