あこがれとそうぐう
9月も半ばに入り、残暑も少しずつ遠退きもう半袖じゃ季節外れかな、と思わせるそんな空気がしていた。
季節は移り変わると言うのにここ、よろず屋では相変わらずだった。仕事が全くないわけではないが、忙しいわけでもなく、暇な時間が多かった。
そして、先程からよろず屋の奥のスペースから、うーん、うーんと唸る声が聞こえてきていた。
一人デスクで事務処理をしていた女は、眉間に皺を寄せながら奥を振り返った。アーモンド形のくりっとした目が不機嫌そうに細められた。年齢は20代だろうか。顔の感じは幼そうだが、妙に落ち着いた雰囲気だった。
再び低い唸り声がした。だか、声のするそこはパーテーションで仕切ってあって見えない。
女は背もたれをきしませて寄りかかると顔を上に上げた。長く艶やかな黒髪の毛先が、ちらちらと床をこすっている。そして、両腕をぐっと伸ばして上体を反らした。
薄いブルーのシャツの上からでも、はっきり分かる大きな胸が大きく上下している。上体を起こし、かけていた縁なしの眼鏡を外すと、立ち上がった。
パーテーションの影から、顔を覗かせると男が二人向き合っていた。
「それは、今、どんな様子なの?」
女にしては少し低いが、ゆったりとした話し方だった。