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七市屋探偵事務所~オーパーツ回収なんでも屋~  作者: paranormal
第1章 サイボークと少年
5/7

斬り裂き魔と行方不明の弟 後編

 日は沈み、歓楽街は街灯を照らしだして煌びやかな夜の街を演出する。

 それはまるで煌めいてる星粒のようだった。

 その夜の歓楽街を七市勇気は一人歩く。

 歓楽街西側は街のターミナル駅の裏側に位置しているが今は夜と言うこともあり歓楽街ならではの夜間営業施設が栄えだす時間であるために人が多く徘徊していた。

 日中はそこまで多くもないので『斬り裂き魔』が襲いやすい時間ではあった。

 七市勇気が得た情報では被害者の多くは日中に人通りの少ない道で襲われている。

 ということは、今『斬り裂き魔』に遭遇するか否か。

 それは出会わないことの方がありえた。


「タイミングが悪いな」


 道中に店の看板娘らしいお姉さんがたびたび声をかけてくるが勇気はうっとうしそうに無視して歩き進めていく。

 酒を飲んでがやがや騒いでるおっちゃんどもがうらやましくさえ思えた。


「のんきなもんだ」


 世の中が騒ぎになっていてもこの者たちは平和に暮らしていくのだろうと思うと勇気は嘆きたくなる気持ちだった。

 いずれ、身にかかることだってこの場所ではあるかもしれない。

 ここは『オーパーツ』が存在しているのだ。


「おい、聞いたか?」

「なんだ?」

「ここであったんだとよ、通り魔事件」

「あー、例の事件か」

「そうだ。その犯人がこの近辺で目撃されてるんだと。ほら、ちょうどあのあたり」


 勇気は屋台の酒場で飲んだくれた二人の親父の会話を盗み聞きしておっさん一人が指さした曲がり角の付近を見た。

 店の壁に斬撃痕があった。

 その店は閉店しており何かあったことを物語る。

 勇気は近づいていくとその角を曲がって進んでいく。

 だんだんとひと気が薄れていき、裏路地に入ったのだとわかった。


「襲うならもってこいの場所か」


 勇気はポケットに手を突っ込みグローブを取り出して装着した。

 漆黒の防刃防弾性の貴重な仕事の装備だった。

 地面を触って目を閉じる。

 勇気は頭の中でそこで起っていたことが見えるかのように構築されていく。

 『七市家』に伝わる能力の一種で物やその場所に触れることで物の記憶や経験を見ることができる。


「確かに『意識刀』らしいか。この先だな」


 歩みを進めていくとひと気は完全になくなり、殺風景な空気だけが充満し始め、不気味な寒気が背筋を伝う。

 気づけば周りには閉店した廃屋の建物ばかりが集中していた。

 どうやら、閉鎖された商店街の方に歩いてきてしまっていたようだった。

 まわりは廃屋の建物に道路わきにこの廃墟の商店街の天蓋アーチの柱や建造物の柱がくまなくある。

 勇気はその通り道で立ち止まるとわずかに感じる背後にそっと視線を送った。


「どちらさんかしらねぇけどオレは男に興味はないぜ」


 ぼんやりした虚ろげな瞳をもつ少年。

 少年の姿は長いこと放浪していたのだろうことが窺えるように裸足で衣服はぼろぼろのシャツとジーパンだった。

 まるで、自我はなく、薬物中毒患者の末期症状に似ている。


「あぁ……」

「こりゃぁ、参ったな。中身はどこのどなたか知らないがどうやって戦意喪失させましょうか」


 頭皮を掻きながら困り顔を浮かべる。

 『意識刀』に操られた少年が襲いかかる。

 おおよそ、少年は西司の身体だが中身は例のサイボーク少女だと思われたが意識そのものが『意識刀』の斬り裂き本能に誘引されてただ斬り裂くことしか少年にはない。

 否、この場合は少女と表現すべきか。


「うぉっと」


 勇気は刀の軌道を避けた。

 空ぶった『意識刀』は地面を斬りつけ火花が散った。

 間合いを取った勇気は一度深呼吸をする。


「なぁ、あんた、あんたも帰りたいだろう。なら、その刀に負けるな。どうにかして斬りたい衝動を抑えるんだ!」

「うごぉあ!」

「うぉ!」


 突貫した斬撃がわずかに勇気の頬を切り裂いた。

 頬が裂け血が飛び散る。

 相手は意味深にこちらを見つめていた。

 『意識刀』の意志がまるでそうしてるように見える。

 しかし、勇気の意識は『意識刀』に乗っ取られることはなかった。

 それは『七市家』の特有の能力ともいえる身体能力だ。

 相手の握る『意識刀』が異常な光景を少年の身体を通して見て衝撃を受けたように微振動を起こす。


「はは、不思議なんだろう『意識刀』。俺は『オーパーツ』の能力は効かないんだよ。おい、中身の誰かさん聞こえるか! 中身のあんたが抑え込めればみんな傷つかずにすむんだ! いいか、それはまやかしの衝動に過ぎない。つよく愛する者を思い浮かべて衝動を押さえこめ! その衝動にこのまま飲み込まれればあんたの愛する人を傷つけることになるかもしれないんだぞ!」

「うが……ぁあ……あぅ……」


 手が止まった。

 勇気は駆けだして『意識刀』に手を伸ばす。

 ピクリとその時少年の身体が動いて刀を振りあげた。


「がぁ!」


 動きを目で追っていた勇気は反射的に回避行動に転じ胸元を斬りつけられた程度で済む。

 しかし、深く斬り裂かれ血がひどく流れ腕にまで伝い手からぽたぽたと血の雫が地面へ落ちる。


「こりゃぁ、ミスった」

「うぅう!」

「怒ってるのか? あはは」


 刀をぶんぶんと子供がおもちゃを振りまわすかのように振り、こちらにゆっくりと歩み寄ってくる。

 勇気は周囲を観察した。

 地形を見て、ある作戦が思い浮かんだ。

 一歩、二歩、三歩と相手が足を踏みしめた時、勇気は横へ駆けだした。

 相手の右側に沿って駆けだしていく。

 相手は追随する。


「そうだ、それでいい!」


 そのまま、少年が踏み込んだところで勇気は身をひるがえし、柱を掴んだ。

 刀の軌道は後を追い勇気の胴を真っ二つにする軌道上にまだある。

 それを観察しつつ遠心力を乗せた速さで柱の陰に身を隠しながら刃に勇気は手を添えた。そのまま両手で刃を挟み込むと柱に刃を食いこませ自らは柱の陰に隠れている形だったので斬撃からガードする立ち位置になった。少年の身体は振りあげた力にそのまま押し流されて刀は手からすっぽ抜けて勢いをつけすぎて勢いのままに廃屋に突っ込んだ。

 勇気の作戦勝ちだった。

 横に走ったのも少年の身体を傷つけるわけにはいかず出来るだけ攻撃をせずに彼から無抵抗で『意識刀』を奪い取る手段であった。

 この作戦によって廃屋をクッション代わりにし少年をそちらに吹き飛ばし刀は柱に食い込んだ。

 廃屋のフェンスに激突した少年の身体は意識を失い気絶していた。

 勇気は『意識刀』を柱から引き抜き、すぐに懐から収納袋を取り出して中にしまいこんだ。


「さてと、どうにか回収でき――」


 その時、勇気の足を一発の銃弾が射抜いた。

 その場で勇気は膝をつき刀を手元から放り出す。

 膝を押さえてうずくまる勇気の前に肥満体質のトレンチコートを着込んだ五〇歳くらいの丸頭に黒髪の男が近づいた。

 その人物は見覚えがあった。

 たしか、西司にレポートや資料などを手渡していた片倉教授と言う男だ。


「な、なんであんたが……」

「いやはや、まさかこのような道具の収集家がワシ以外にもいたとは驚きましたなぁ。ハハッ。これは貴重なものですのでこちらにかえさせてもらいますよ」

「て、てめぇ! そいつはウチが元々保管していたもんだ。なにが返させてもらうだ。ふざけんじゃねぇ」

「ほう、なおのこと興味深い」


 そういいながら彼は勇気の額に銃口を突き付けた。


「ですが、これは私のものです。私が見つけたのですからね。いやぁ、それにしても貴重な実験もできましたよ。西君には感謝をしなくては」

「実験? そうか、てめぇか。西司の弟に『意識刀』を手渡した野郎は」

「ん? いしきがたな? それはこれの名前かな?」


 彼は含み笑いをもらすと面白そうに収納袋からそれを取り出し自らの手に握る。


「おおう! これはこれは確かに何か煮えたぎってきますよ」

「て、テメェ何をする気だ?」

「あなたは何かいろいろと情報を掴んでいるみたいですし今一度あなたに乗り換えてこの道具についてより深く探るとしましょうか」

「あはは……だったら、それは無駄だ!」


 勇気は片倉教授の膝を蹴りあげて、片倉教授が苦悶をあげて背を折り曲げて力を緩めたところで『意識刀』を奪い取り返す。


「こいつぁ返してもらうぜ」

「ちっ、あなたその道具に支配されていないんですね。ますます貴重な人のようだ。私の研究にほしい人材です」

「男に研究材料にされる趣味はない」

「ふっ、ならば力づくでも」


 片倉教授がまたしても拳銃を手にして引きがねを引き絞ろうとする。

 勇気は近くの木材を手にする。


「そんなものでこの道具にはかないません!」


 銃弾が放たれると同時に勇気は木材を投げた。

 木材に銃弾が当たって粉砕し銃弾が勇気に当たらずに終わる。

 片倉教授は悔しげに奥歯をかみしめて何度も銃弾を撃ち続ける。

 勇気は銃弾を回避しながら柱の陰へ避難する。


「なぁ、教授さんよぉ、『オーパーツ』はどこで回収したんだ? それも二つも」

「おーぱーつ? たしか、超常現象研究者が提唱した古代の遺物でしたね。もしや、これがそれだと?」

「ああ、そいつは『オーパーツ』だ。一般人が扱っていい代物じゃない。そんなものをどこで回収した?」

「なるほどなるほど。『オーパーツ』ですか、くふふ」

「笑ってねぇで質問に答えろ!」

「答える義理はありません。あなたはこれを回収するために来たのですね。いやぁーそれならなおのこと返せません。より重要なものであるということですか。さらにはこんなものが他にもあるということ教えてくれて感謝しますよ」


 教授は拳銃を手にしてどんどん近づく。

 勇気も柱から出れば危うい状況だった。


「さぁ、勝ち目がないのですから出てきたらどうですか?」



 勇気は体質上『オーパーツ』の能力は効かない。

 だが、あくまで能力のみで物理的攻撃は効いてしまう。

 そのために先ほどの『意識刀』での切り傷に名称不明の『オーパーツ』らしい拳銃の銃弾を受けて負傷していた。

 彼の言うようにどちらにしても勇気の勝ち目は薄い。


(どうやって奪い取る?) 


 決して戦うことは避ける勇気には苦渋の選択が強いられる状況だった。

 話で解決できる相手でないのもまた事実だ。

 それでも――


「なぁ、教授さんよぉなにが望みだ」

「ん?」

「なにが望みか聞いてんだよ」

「望みですか。未知なる古代の文明を研究することです。そのためにはあなたのような男とこの『オーパーツ』が私の当面の望みとなったんですよ」

「それは目的だろ」

「私にとっては望みも目的も同じ」


 後頭部に突き付けられた銃の感触に勇気は手を挙げて降伏する姿勢を取った。


「抵抗するのをやめたのですかな?」

「いいや、交渉したいだけだ」

「交渉とは笑わせますね。私の邪魔をする男と交渉する筋合いはないですね」


 勇気は彼が引き金に指をかけたのを音でわかった。

 無理な望みだったことの後悔を感じて目をつぶりすばやく後ろへ振り返る。

 引き金が引き絞られて銃弾はわずかに目元をかすめた。

 片目をふさがれてなお彼のもつ拳銃に手を伸ばし掴む。

 追撃でその懐に拳を叩きこんだ。

 でも、彼は肥満ゆえに脂肪が衝撃を吸収する。


「手を離せ!」


 片倉教授の肘落としが勇気の肩に叩き落とした。

 勇気は肩の骨が外れ脱臼を起こしてうめき声を上げる。


「わからないのか! それは危険なんだ! 一般人のあんたが使えばとんでもないことが身に降りかかるぞ!」

「くくっ! 知ったことですかぁ!」


 銃を振りあげて勇気の額に叩きつけた。

 勇気はその時にサイレン音を聞いた。


「ちぃ、さっきの負傷者がもう見つかったのですか。運が良かったですねあなた。次に会うときはその刀を回収に向かうから持っていてくださいね。くくっ」


 片倉教授はそのまま走り去っていく。

 勇気は肩を押さえながらその場に倒れ意識を無くした。

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