生き倒れの男少女サイボーグ
ヒロイン二人目の登場です。
ここから第1章の始まりです。
あれから数日がたった。
『謎のピエロ』による事務所内のオーパーツが紛失された惨事。
それによってひき起こってしまった街の騒動。
さらには街に『人として擬態』し潜んでいた妖怪たちが擬態できない現象に陥り街はパニック状態で七不思議の増殖。
『私見たんです! こーんな長ーい身体した人!』
『俺は蛇みたいな女を見た! 美女なんだけど下が蛇でビビった!』
『――と各地では不可思議な生物の目撃情報が相次いでいます。さらには不可思議な現象も相次ぎ、街は混乱状態です――』
テレビから漏れ出るニュースの音声。
テレビの音をきって、過去の参考文献をソファに寝転がりながら読み進める七市勇気。
過去の詳細な『七市家』と妖怪の一族で知られる『九条家』の因果が書かれていた。
読み進めていくうちに勇気は人生の過去を振り返る。
九条アイリスと勇気の関係。
その関係は一言で表すならば『幼馴染』というやつである。
古くからの家同士の付き合いでお互いが小さい頃から知る間柄。
ある時期に父が病で他界し後を追って母は自殺。
結果、七市勇気が家督でこの事務所を引き継いだ際にも彼女は幼馴染である勇気を好意をもって助手になることを言ってくれた。
それが今の事務所の二人の関係にいたる。
大仰にため息をついて、『オーパーツ』の在処を示すような現象がわからないかと過去の詳細を読んでいる。
しかし、わかってくることと言えばまず二人の家同士の関係性。
『七市家』は100年以上も続く古い武家だったが、政府の依頼により謎の切り裂き事件の犯人を退治しろという任命を受け、当時の『七市家』の当主は犯人を退治しに出向いた。
犯人は『妖怪』だった。
これが初めて『七市家』が妖怪に邂逅したときである。
『七市家』は以降、『妖怪』のような超常的現象の存在とかかわることを生業とし始め、『対峙した妖怪(後の『九条家』である)』と後に犯人ではなかったとわかり、同盟を結んで真犯人の妖怪を退治した。
それから月日が流れ始め、『七市家』はある世界に事象を起こし始める危険な物体の存在を認識した。当時の当主はそれが『妖怪』の仕業と言う認識をしたがそれは大きな食い違い。
超常現象を引き起こす幾何学な産物――『オーパーツ』という存在だった。当主は同盟を結んだ『妖怪』とそれを発見し、後に『七市家』と同盟妖怪の一族『クロウリー家』の同盟の収集家が誕生した。
後に『クロウリー家』は日本の政府の高官の血筋と結ばれ『九条家』へ変わっていく。
結局、過去の文献から得られた情報と言うのは自らの『七市家』とアイリスの『九条家』との因果とオーパーツの能力であり、出現や移動パターンなどは全く把握できなかった。
未だに一つも回収できずにいる状態で、数日経過。
今日は別の用事が朝からあるから仕事をしてる余裕もなかったが街の治安状態を早急にどうにかせねばならず焦っていた。
昨晩からの徹夜で眠気が襲い眼を擦る。
腕に巻いた時計が目にとどまった。
気付けば時刻は午前8時を回っていた。
「やばっ!」
慌てて身支度を整えて事務所を飛び出す。
目的地は大学だった。
七市勇気はこれでもれっきとした大学生だ。
仕事の傍らで学生をしている。
九条アイリスが職場にいなかったのは彼女も今日は大学に行ってるからである。
鍵を閉め、繁華街の裏道を通っていくと道中で身体をコートが何かで包みうずくまって倒れている少女を発見した。
「おいおい、生き倒れかよ」
見捨てもいられずに少年へ近づいて行く。
セミロングな茶髪にかわいらしいアイドルのような顔立ちをした美少年にそっと声をかけた。
「おい、大丈夫か」
顔色は良くなかった。
携帯で救急車を呼ぼうとした時に彼は始めて声を出す。
「ダメ、救急車はよばないで」
「何言ってるんだ。そんな状態で――」
彼が腕を持ち上げると何かが足元へ転がった。
勇気は目を細めてその落ちた物体を拾う。
「歯車?」
小さな歯車だった。
なぜ、こんなものが落ちたのかは分からずに勇気は首をかしげた。
「っ!」
彼が慌てたように勇気から歯車を奪い取る。
その時わずかの一瞬に勇気は彼の腕先を見た。
皮膚が皮膚ではないように剥がれ落ち中の機械のような内臓部品。
まるで、人間のような姿をしているが彼女は――
「ロボットなのか?」
「っ!」
勇気は驚きはしたけれども、人間のように話すロボットなどよりも散々驚かせるような物体を見てきていた。
だからこそ、すぐに平然を装い彼が救急車を拒んだ理由がわかった。
「動けなくなったのか? 身体のどこがわるいんだ?」
「お、驚かないの? 人間のようにみえるこんなぼくを見て、ぼくは驚いたのに」
「あ? そりゃぁ、少しは驚いたが……というか自分のことに驚くってなんだよそれ。自分のことだろ?」
その言葉に対して少年は返答をしない。
どういうことだろうかと聞いてみたかったが彼女の顔を見ると露骨に答える気はないというような空気が感じられた。
勇気は頭皮を掻き毟りながら時計を見て遅刻確定だとわかるとかばんからドライバーなどを取り出した。
「驚く驚かないはさておきさ、ほら、治してやるからどこかが悪いか言ってみろ」
「え」
「これでも、機械には強いんだよ」
「……わ、わからない。僕の身体じゃないから。突然動けなくなって」
「はぁ? おいおい、意味わからないこと言ってねぇで教えてくれよ。そうじゃないと治せねェからさ」
強引に勇気は彼の手を取った。
「え?」
「いいから、みせろ」
「ちょっ! や――」
コートを強引に取り払い気付いた。
仄かに膨らみのある胸、しなやかな体つきときめ細やかな肌、そして下半身には男としてあるべきものがなかった。
「え」
「うぁああああ!」
勇気の顔面に機械仕掛けの拳が叩きこまれ一瞬にして脳天にまで響いた振動で意識が吹き飛んだ。
数秒後、すぐに意識を持ち直し、彼女に平伏して謝り倒す。
顔がかわいらしくとも少年みたいな顔立ちに髪型をしていたのでてっきり男かと思ってしまい強引に衣服をはがした勇気はその行いを後悔した。
先ほどの行いはどう考えてもセクハラ、もしくは暴漢ではないか。
「なんか、本当にすみません」
「い、いくら僕が男に見えるからってあんな強引にするなんてないんじゃないかなっ!」
「あれは身体を見て治してやろうと気遣ったんだよ。まさか、女の子だとは思わなかったんだ」
「そりゃぁ、ぼくだって始めはそうだったけどまさかこうも強引な人もいるとは……」
「あ?」
またしても他人事のようにしゃべる少年ではなく少女に勇気は難しげな顔を浮かべる。
「とにかくさ、まずは手足をみるぞ」
「う、うん」
勇気はゆっくりとまず手足の指先からチェックしていく。付け根までい移動していく際にごくりと生唾を飲み込んでしまう。
なんだろうか。
勇気は心の中で背徳的な気分が高揚していた。
(いかんいかん! 俺はロリコンではない! 第一相手はサイボークだぞ! これは治療だ!)
手足をチェックして異常がないことを確認したところで今度は肩先などをチェックしたり瞳孔、頭部など男がチェックできるぎりぎりのラインをチェックした。
難関のラインだけがあとは残る。
腹部と胸、下半身である。
(さすがに下半身はないだろう。だとするならば内臓器官?)
機械にこうして強いのも勇気は日々『オーパーツ』という謎の超常的産物の類にも機械的な物体があるからである。
ロボットの構造もその時に学んでいた一環である。
「よし、腹を見させてくれ」
「え?」
「よ、邪な気持ちはないからな!」
「逆にそう言うと怪しいよおじさん」
「俺はまだ20だ! おじさん言うんじゃない!」
勇気は嘆息して腹部より少し上の下の胸辺りに切り傷らしきものを確認する。
「なぁ、君は誰かに襲われたりでもしたのか?」
「え」
「これは……」
胸の下にあるのは人為的に付けられたような傷。
胸したコアに近い内臓器官の損傷が彼女が動けなくなった理由なんだろうと目測をつけた。
「ちょっと、触るぞ」
「ぁん」
艶やかな声が耳に聞こえ、おもわず勇気は顔を赤らめる。
首を振って煩悩を射ち払い切り傷にドライバーを差し込んでピンセット器具やニッパーなどの道具を使い数十分で皮膚の塗装までは治せずとも内部の機関の修復を終える。
「どうだ?」
しばらくして少女は立ちあがる。
「あ、ありがとう」
「いいや。平気さ。それよりもそんな格好ではどうにも心配だな。ちょっと来い」
「え」
勇気は彼女を連れて『七市屋探偵事務所』に向かう。
辿り着いた場所は『七市屋探偵事務所』。
その一階の一室へ勇気だけ向かう。物置小屋にしてるようなそんな場所から昔にアイリスが来ていた演劇用の衣服を取り出すと部屋を出て彼女のもとまで向かった。
「ほらよ、これ」
「え」
「もう、いらねぇもんだから使え。俺はこのあと学校に行かなきゃいけねぇからさ。じゃあな」
勇気はそのままその場を後に立ち去った。
ただ一人取り残された少女は『七市屋探偵事務所』と書かれた建物を見上げて壁にあるチラシを見た。
「なんでも悩みや物事解決します」
少女は一つの決断を胸にして『七市屋探偵事務所』の1階物置小屋へ足を進めた。
次の掲載は不明。
掲載はします。しかし、期日は決まっていません。
改稿しました。
冒頭内容変更しています。