プロローグ
合作小説です。
賑わう繁華街の裏通り。
そこはひっそりとした道で人通りは少ない。
一般的に知られるような通りに裏道よくないようなお店が集まっている。
違法な店の数々である。
違法な店以外にもアダルトな店も多く、人がそう理由もなく歩こうとさえしない道。
特に学生などは縁遠いといえる。
カップルともなれば別なのであろう。
しかし、一人の20歳くらいの長身、黒髪、やさぐれたような表情に印象がある根暗な顔をしたスーツ姿の青年が歩いていた。
道にでも迷ったというような歩き方ではなくしっかりとした足通りで向かう先があった。
裏道のビル群の中にひっそりとたたずむコンクリート平米の2階建てアパート。
青年は2階へ上がると足を止めて鍵を取り出した。『七市屋探偵事務所』と書かれたドアプレートの扉。扉を開けて中に入ると中はゴミの山のごとく奇怪な物体の数々や数多の書類が散乱していた。
物体は青年の趣味であるオカルト関連のグッズ、書類はこの事務所の『探偵』と語るなんでも屋の報告書の数々とあらゆるブツ買った時の明細書の数々である。
おもわず、奇怪な物体の一つをふんづけた。
「やばい!」
急な光が青年を包み込んだ。
それは奇怪なグッズの発動現象。
青年は自らにどんな現象が起こったのかわからない。
「うぉわ!」
山の中にあるソファの上で猫のように丸まった裸ワイシャツ姿の『巨大な金髪の美女』。
スッと整った鼻梁に小ぶりな鼻と唇。猫のようなつぶらな瞳に金髪と同じ金色のまつ毛が事務所の中に差し込むわずかな光できらきらと輝いている。
まるで、西洋人形のような美しさがその場所だけに満ちていた。
同僚である彼女が昨晩まで遅く一人で仕事をしていたことを勇気はわかった。
「なるほど、それで事務所で眠ったわけか」
彼女は寝返りを打つとその抜群のスタイルを強調する胸がぶるんと揺れて動き、青年の視線を釘付けにするがごとく強調した。
ごくりと生唾を飲み込みながら青年は自分がどういうことになったのか気付いた。
「そんで、今のおれは小さくなったのかな。数日前に回収した『オーパーツで物体を小さくする』やつだろうな」
さっきの踏みつけたグッズはオカルト関連。
超常的な現象及ぼすとされる『オーパーツ』と呼ばれるものである。
それが先ほど踏んだことで事故的な原因によって発動し小さくなった勇気。
どうにかして彼女に助けてもらおうと動きだす。彼女の首筋に下がった『九条アイリス』と書かれた社員証が目につく。
それを掴むと彼女の胸へよじ登る。名札を足場に使って彼女の上でとび跳ねた。
アイリスを起こそうとするもその手を振り払われる。
「うぉあ! 振り払うな! 起きろ! さっさと、この部屋の状況を元に戻して俺を助けろ! コラァ!」
彼女の口元へ向かい歩いて口を開くとやけに長い犬歯が目立つ。
「コイツ、やっぱり牙なげぇ」
自らの首筋をさする。そこには過去に彼女によって噛まれた古い傷跡があった。
犬歯の上でとび跳ねながらいるとしばらくして彼女が身震いし出した。
「やっと、起きたか。この部屋はどういうこ――」
文句を口にして問いただそうとした青年だったがアイリスの口が開いて口の中へと落下した。
「ッ!」
アイリスは口の中に感じた異物に顔を顰めて指でそれを取り出した。
べとべとに自分の唾液にまみれた人形。
「なにこれ?」
「おれだよ!」
青年は指で足をつつままれ宙ぶらりんの状態で自己主張した。
「な、なにしてんの!?」
「オーパーツが事故で発動したんだ! 早く元に戻してくれ! すぐそばにあるその四角い奴だ」
アイリスはキューブ型の小人の絵柄が書かれた物体を手に持ちそれを小人ユウキの前に置くとすぐに彼は元に戻った。
だが、これの欠点は一度小さくなった服は元には戻ってくれないことである。
おかげで、ユウキは全裸をアイリスの前にさらすことになった。
「やっぱりな!」
「ゴクリ」
彼女は生唾を飲み込みながらユウキの身体を凝視した。
「おい! 馬鹿こっちみんな!」
「えー、いいじゃん。大分大きくなったんだね。小さい頃はこんなに小さかったのに」
「おい! 何処を見て言ってるんだ!」
明らかに下腹部に視線が集中していた。
勇気はすばやく動いて執務席の陰に隠れると一番引き出しにあるトランクケースを取り出した。それも一種のオ―パーツでなんでも無限に収納できるというものだ。その四次元ポケットからスーツを取り出して彼女の目の前で生着替えを実況するということとなった。
それも仕方ない。部屋のスペースが今はここしかないのだから。
「なんで、こんなことに! おい、アイリス! 今週回収したオーパーツは倉庫へ送れって指示したし書類整理を頼んだはずだろ? なんで、出来てないんだよっ」
「貸し倉庫のお金が見支払いで全部戻されたんだよ。あと、これ全部明細書」
「なにぃ!? クソッ! 金がないばっかりに!」
頭を抱え込んだ。
理由がわかると勇気は状況がだんだんと把握できてくる。
さらには最悪な状況に危険な『オーパーツ』を保管できる場所が存在しない。
「クソぉ。俺が外で仕事をしてる時に」
「例の依頼達成できたの?」
「出来た。今回は破壊した。しかし、どうしたもんだろうなこれ」
あらゆる数々の資料と明細書、『オーパーツ』を見て頭を悩ませた。
どれもが必要であり『オーパーツ』はどこかにきちんと保管しなくてはならない。
それは代々『七市家』が行ってきたことだった。
「と、とにかくまずは1階の部屋にまとめておこう」
「あそこもいっぱいだよ」
「いいから、どうにかするんだ! また客が来たら大変なことになる」
「もう、十分大変だよ」
「知ってるよ!」
軽い口調の彼女にげんなりしながらも勇気は同僚がいるだけでもありがたいことであると自覚する。
「ねぇ、ユウキ」
「なんだ?」
執務席の上に報告書を出し書き進め始めた時にアイリスが声をかけた。
あくまで受け流しているような状態の勇気にアイリスの次の言葉は動揺をする。
「私の胸に触った?」
「……は?」
おもわず手を止める。
触ったというよりも正確には乗ったが正しくあった。
でも、証拠は残してはいないはずなのに何ゆえに気付いたのだろうかと思ってみると、彼女の胸の谷間にわずかに靴跡が残ってしまっていた。
不穏な空気が立ち込め始める。
その空気を敏感に感じ取ったユウキは背筋に寒気が走った。
「し、仕方ないだろう。ちょうどいい乗り心地だったというか……」
「ユウキも興味あったんだね! うれしいよ!」
「へっ? ……って……ちょっ――」
とっさの判断で勇気は右へ体を反らした。
勇気の先ほどにいた位置へアイリスが突っ込んできた。
うつぶせに倒れてピクリとも動かないアイリスの背中を見下ろし足蹴にして生死を確認した時、ガシッと足首を掴まれる。
「ユウキィイイイ!」
「うぉああああああ!」
まるで某ホラー映画のキャラクターのように前髪が長い金髪で見えなくなって足元から這い寄ってくる構図だった。
さすがの怖い絵面に悲鳴を上げる。
その時だった事務所の扉がノックされた音がタイミングよく響いた。
「きゃ、客だ!」
アイリスを蹴っ飛ばしてあらゆる山を掻きわけて事務所の扉を開いた。
「どうも、お待たせしましたお客様! いかがいたしましたか?」
そこには全身黒いトレンチコートで覆い隠した男がただ一人いた。フードの下は奇怪な仮面をしていた。まるでピエロのような仮面であり不気味だった。
「え」
ピエロは一つの箱を手渡した。
「I'll begin time of the magic!」
箱が開いた突然眩い光が立ち込めた。
勇気は声を上げ顔を手で覆い隠して光から身を守る。
――ひかりがやむと背後から慌てた幼馴染の声が聞こえた。
「おい、どうしたんだアイリ……え?」
後ろを見たときそこにはいつもの幼馴染とは違う姿をしていた。
それは勇気の知ってる彼女、九条アイリス。
赤い瞳に背中から蝙蝠のような二つの翼。耳はまるでファンタジー小説に出てくるエルフのように細長い。
それは彼女が本来の本性である『吸血鬼』。
彼女はあらゆる伝承にある『吸血鬼』という妖怪。
彼女は人間ではないのだ。
この世の中にある裏のような存在、妖怪である。
普段は人間に擬態して生活しているために先ほどが普通の人間に見えていた。
だが、今はどういうわけかその擬態が解かれた。
「アイリス、急に変化を解いてどうしたんだよ?」
「違うの! なんか、突然に身体が元に戻って!」
「は? まぁ、いいや。それよりも、おい! 今のはなんだ! 聞かせ――」
そこにはもう、ピエロは消えていた。
さらに箱が一つだけ置いてあり中には砂時計が一つあった。
「これも明らかにオーパーツ? それに、なんだもう一個ある?」
もう一つあるのはひものようなものだった。
首をかしげながらそれを観察しているとアイリスの焦る声が勇気を部屋の方へ振り向かせる。
「なんだよ、アイリス。今はピエロ野郎が残して言った謎の物体を――」
「それより、部屋を見て!」
「は? ……え?」
冷や汗がだらだらと流れ出した。
部屋の中にあったあらゆる『オーパーツ』が消滅していた。
とんでもないことだった。
『オーパーツ』はあらゆる超常的現象を生み出す危険な産物である。
意味もなく消えたというのはある意味では消滅ならばいいことなのかもしれないが何処かへ転移したという意味ならばよくないことだった。
勇気はわかっていた。これは後者だと。
あの発光現象の類は消滅のような作用を引き起こすあれではなく転移させる類。
そすいて、それを行った張本人はピエロでありそいつは消えている。
「くそっ! 一体なんだって言うんだよ! 」
「どうしよう……ユウキ」
「ああ、そうだな、どうするか」
「元に戻んない」
「え?」
勇気の言葉に続けてきた言葉は予想外の言葉。
今にも泣いてしまいそうなよわよわしい声で彼女は勇気を見ていた。
「元に戻らない?」
「うん人間の姿になれないのよ!」
「なに?」
その日、その街の一部の妖怪が人間に戻れないという現象が発生した。
街はあらゆる噂が飛び交い、ネットではオカルト祭りでニュースでも同様の騒ぎが始まり、後にこれが悲惨な結末を勇気に与えるとは勇気はこの時までは露ほども知らなかった。
感想をどしどしお待ちしています。
次掲は未定です。
不定期掲載ですがよろしくお願いします。