黒い羽
次の日の朝、いつものように13時に起きて、ゲームをしていたらいつの間にか16時になっていた。
ゲームは素晴らしい。人間が何かをやって時間を忘れてしまう物など、この世になかなかない。その何かの内の1つこそが、ゲームである。よくゲームを暇つぶしにやる奴等がいるが、俺に言わせてみればゲームに対する侮辱である。ゲームとは、ギャルゲーでも、リズムゲームでも、アクションゲームでも、アドベンチャーゲームでも、今から最高の時間を与えてくれるゲームと、そのゲームを作り出した方々に感謝の気持ち伝えて最高の時間を送るべきである。その、最高の時間を暇つぶしなどと言う奴等は、ゲーム、ゲームを作り出した方々、そして何よりこの俺に謝りに来るべきである。
そう言えば、もうすぐ姫依が道場から帰って来る時間である。お菓子でも用意してあげるかと立ち上がった瞬間、昨日の手紙が目に入った。誰がこの手紙を書いたのだろうか?郵便で出していないとしたら、直接この家に来たことになる。よく考えたら、静姉がふざけてポストに入れた可能性が一番高いかもな。ちょうどいいから、姫依を迎えに道場に顔出して静姉に聞いてみるか。
道場は俺の家から歩いて30秒もかからないところにある。久しぶりに道場に顔を出すので、少し緊張する。俺や姫依は、静姉の祖父にあたる青木時貞という人物に武道を習い、その人が俺達の師匠なのだが、このじいさんとんでもなく怖い。まず、胴着を着ると殺気がヤバイ。それだけで逃げたくなる。次に、常に本気である。俺は、4歳の頃から武道習っていたがその頃から一切手加減してこなかった。何度も吐血したが、それでも止めることなく技をかけまくり静姉が泣きながら止めてと訴えるとようやく止めるかんじである。今になって考えると、あのとき裁判所に訴えていれば多額の賠償金が俺の元へ来たと思う。勿体ないことしたものだ。まぁ、あのじいさんのお陰で武道はかなり強くなった。それに、稽古の時以外は、とっても優しくゲームなどを一緒にしてくれたので、悪い人ではない。だが、たまに俺や姫依に勧めてきたゲームが全てエロゲーだったのは、忘れておこう。
道場に入ると姫依とじいさんが向かい合って座り礼をしていた。どうやら、ちょうど終わったところらしい。礼をし終わり稽古が終わると、姫依とじいさんが話しかけてきた。
「お兄ちゃん、どうかしたの?」
「ああ。ちょっと静姉に聞きたいことがあってな。」
「静香ならあいつの部屋にいるはずじゃよ」
「お久しぶりです、師匠」
「久しぶりじゃな。元気にしておったか?」
「はい。いつも姫依がお世話になってます」
「姫依ちゃんは、しっかりしておるから問題ないわい。それより諒太久しぶりに稽古をつけてやろうか?」
「いや。遠慮しときます」
「なんだ。また勝ち逃げか」
俺は、道場を止めるとき、このじいさんに強く反対され「わしに勝ったら、止めてもよい」と言われたので、一戦交え俺が勝ったなので俺は道場を辞められた。その事をまだ根に持っているらしい。よく考えてみたら、弟子に負けたので根に持つのもあたりまえか。
「静香に用事とは、もしかして貰ってくれるのか」
「もも貰うってお兄ちゃん、裏切るの?」
なぜか姫依が反応した。なぜか姫依の回りの空気が冷たくなっていく気がする。
「え?嘘だよねお兄ちゃん。もし本当なら、ウフフフ」
なんか姫依が怖い。なぜか木刀をバックから取り出して、冷たい笑みを浮かべてる。
「ねえ、お兄ちゃん。私じゃ満足出来ないの?もし出来ないなら何でも言いつけて。そうじゃなくて、静姉も私も同じ位好きなら静姉をやつけなくちゃ。そして私だけを向いてくれるお兄ちゃんにしないとウフフフ」
「落ち着くんだ姫依。俺は静姉に昨日の手紙について聞きたいことがあるから来たんだ」
「あっ、そうなんだお兄ちゃん。私静姉とお話してくる」
姫依はさっきまでやつけるとか言っていた静姉のところへ行ってしまった。
姫依はたまにああゆう風にブラックな部分が出てしまう。ああなると、兄貴である俺でさえ止められない時もある。今日は、まだブラックまで行ってなかったらしい。よかったよかった。
俺も静姉の部屋に行こうとした時
「ヤンデレかー」
というじいさんの呟きが聞こえたのは、気のせいだったことにしよう。
静姉の部屋に行くと姫依と静姉が一緒にお菓子を食べていた。
「おー、久しぶり諒太。ニート生活楽しんでる?」
「ああ、お陰さまでな」
「話しは姫依から少し聞いたけど手紙がどうかしたの?」
「ああ。昨日の夜、全く身に覚えのない手紙がポストに入っててな」
「えっ何、エロいビデオでも見て請求書でも来ちゃった?」
「いや。違げーよ。そもそも何の手紙かもさっぱりわからない」
俺は、自宅から持ってきた例の手紙を静姉に渡した。
「何だこれ?誰からもわからないの?」
「そうなんだ。で、一応聞くが静姉のイタズラとかではないよな?」
「違うよ。私だったらそれこそエロいビデオの請求書を作って入れとくよ」
「それはそれでやめて欲しいが、本当に違うんだな?」
「うん。違うよ」
「そうか」
静姉が違うのはわかったが、それなら一体誰が俺に手紙を書いたのだろうか?あとあり得る可能性は、ストーカーだろうか?いやいや男にストーカーとかあり得るのか?まさか姫依にストーカーがつく前兆だったりして、そしたらそのストーカーの命はない。この俺が地球の裏側に逃げようとそのストーカーは殺す。
「あのさ。この手紙を書いた人って諒太に何かプレゼントしたいんじゃない?」
「何でだよ?俺の誕生日は6月だぞ」
「いや、そうじゃなくてさ。諒太に惚れちゃったりしたか、もしくは何かの恩返しがしたいとか、いろいろ要因は考えられるけど、たぶん諒太に何か伝えたいんでしょ」
「何かってなんだよ?もしかしたら、俺に恨みを持っている誰かが、せめて願いの1つでも叶えさせて死なせてやるよとか、思ってたりしないこともないだろう」
「まあ、そうだけどさ。別にそれでも諒太は、簡単に殺されたりはしないでしょう。それにまだ1通目だから、さほど気にしなくても大丈夫よ。何通か届いたら警察に申し出ればいいのよ」
「わかったよ」
それもそうか。考えたところで何の手がかりもないので無駄だろう。
「あれ?姫依は?どこ行った?」
そう言った瞬間ドアが開き姫依が部屋に入ってきた。
「お兄ちゃん、おばちゃんが夜ご飯食べて行っていいって」
「おーそうか。助かるな。おばちゃんに挨拶してくるな」
おばちゃんとは、静姉の祖母である。小さい頃からよくお世話になっている。とても穏やかで優しい人だ。料理がとても上手く特に和食は最高である。
居間に近づくにつれていい匂いがしてきた。懐かしい匂いでもある。俺が道場で稽古し始めたのは4歳の頃だが、それよりも前から青木家に預けられることが多かった。静姉の両親も共働きで静姉の遊び相手が欲しかったので、ちょうどよかったらしい。その頃からおばちゃんの料理を食べている。家庭の味と言っても過言ではないだろう。道場を止めてからもおかずが余ったりすると俺の家に届けてくれる。台所に入ると、おばちゃんがいた。
「おばちゃん。こんにちは。お邪魔してます。 」
「いらっしゃい、諒ちゃん。元気にしてるかい?」
このおばちゃんは、俺のことを諒ちゃんと呼ぶ。
「はい。おかず余ったとき家まで持ってきてくれて、ありがとうございます」
「とんでもない。今日も、余ったら持って行って」
「はい。ありがとうございます」
「ゆっくりしていきな。じいさんなら庭にいるよ。独りだと寂しいだろうから、行ってやって」
「わかりました」
庭に出るとじいさんが素振りをしていた。もう年齢は、70歳越してるというのに、とんでもない老人である。この年齢でこんなに美しく力強い素振りが出来る人間はなかなかいないだろう。加えてすごい集中力である。俺が近づいても全く姿勢がぶれず、まるで俺が存在していないかのように感じられる。しかし、隙ありと技を仕かけると絶対に返り討ちにあう。この素振りを邪魔できる者が、この世に何人いるだろうか?
じいさんは素振りを終えたらしく、俺の方を向くと
「諒太、久しぶりに素振り位したらどうじゃ?」
「いや、遠慮しときます」
「ははは、何だまだ怖いのか?」
「ええ、少し」
「気にするなと言っておるのに」
俺が道場を止めるためにこのじいさんと一戦交えたことは言っただろうが、その時俺はじいさんをボロボロさせてしまう位技をかけまくったらしい。らしいと言うのは、戦っている時の記憶が途中の俺がじいさんに技をかけられ気絶するとこまでしかなく、それから先の記憶がない気付いたら血を吐いているじいさんの目の前で突っ立っていた。じいさんが言うには、気絶するまでは普段通りの雰囲気だったが、気絶して少し経ってからいきなり目を覚まし技をかけてきた時の雰囲気は、普段と違い殺気を持った獣のような雰囲気だったと言う。そして、目が赤くなっていたと言う。目が充血した赤ではなく瞳が赤かったらしい。また、信じられないスピードや力で避ける暇もなかったと言う。もし相手が武道の達人のじいさんじゃなかったら、俺は人殺しになっていたかもしれない。
「そう言えば、こないだ姫依がわしに相談してきての。どうやら諒太がゲームばっかりやっていることについてでの 。このままでいいのかと言うことじゃったぞ。ゲームがこの世にある最高の娯楽ということは否定しないが、ほどほどにしておけ。何事もやり過ぎは良くないぞ。周囲のことが目に入らなくなるからの」
「わかりました。ほどほどにしておきます」
じいさんには、言われたくねーよ、あと、今さだけど、道場の師範が「ゲームが最高の娯楽」とか言ったら門下生減るぞ。と心の中で呟きながら返事をしといた。
その後じいさんの部屋に移動して夕食が出来るのをじいさんとゲーム(ギャルゲー)をしながら待っていると、
「お兄ちゃん、師匠、夕食出来ましたよー」
と姫依が呼びにきた。姫依は、エプロン姿である。
「おー」
などとじいさんが興奮したような歓声を上げたのは、きっとゲームのことだろう。姫依のことだったら、また一戦交えなければならない。
「わかったよ。今すぐ行くよ」
と言い、ゲームの電源を切り居間へ行こうとしたらじいさんが姫依が先に居間に行ったことを確認して
「諒太、姫依は料理できるのか?」
と言ってきた。よく考えてみたら、俺は姫依が作った料理を食べたことがない。バレンタインの時に手作りチョコレートを食べた位だ。料理と言える料理は食べたことがない。家では、青木家の残ったおかずがあるし、もしなければインスタントラーメンでも食べればいいので普段、姫依も俺も料理はしない。
「わかりません。俺も姫依が料理作っているところなんて見たことないんで」
「ほぉ、じゃあ初の姫依の料理か。楽しみじゃの」
「はい」
なんか心配になってきた。大丈夫だろうか?おばちゃんに迷惑かけてないだろうか?
「お兄ちゃん、師匠、早く来て」
と言う姫依の叫び声が聞こえたので、心配しながらも居間へ向かった。
居間に着くと美味しそうな料理が並んでいた。だが、問題は見かけではなく味である。
「どの料理を姫依が作ったのじゃ?」
「この肉じゃがです」
「そうか。美味しそうじゃの」
「ありがとうございます」
じいさん甘いぞ料理は、見かけに惑わされることが多い。ファミレスのスパゲッティーと高級イタリアンのスパゲッティーが並んで置いてあった時、どちらが高級イタリアンのスパゲッティーか見かけだけで決めるなんて、今の進化したファミレスでは難しいだろう。
「「いただきます」」
じいさんと静姉が早速、肉じゃがを食べた。どうなる?まさか倒れたりはしないと思うが
「おー。美味しいのー」
「うまい、うまい」
「ありがとうございます」
「諒太も早く食べなよ」
「あっ、あぁ。いただきます」
なぜか姫依が、こちらを凝視してくる。なんか食べづらいが、食べてみると
「うまい」
肉の旨みとじゃがいも、にんじんなどの野菜の旨みがお互いに打ち消すことなくバランスよくマッチしている。また、じゃがいもの固さがちょうどいい。レストランに出てきてもおかしくない位美味しい。
「ありがとう、お兄ちゃん」
「美味しいよ、姫依。いつ料理なんて練習してたの?」
「お兄ちゃんに秘密でよく練習してたよ。いつ、お兄ちゃんのお嫁さんに行ってもいいように」
「そ、そうか」
兄妹では結婚できないことを、知っているのだろうか?心配になってきた。
その後も、もくもくと料理を食べ続け
「「ごちそうさまでした」」
お腹が膨れたところで、ごちそうさまをして、いつの間にか19時になっていたので帰ることにした。
「お世話になりました」
「またいつでもいらっしゃい」
「バイバイ」
「おー。また来るのじゃぞ」
門の前まで見送りに来てくれた。青木家に挨拶をして帰ろうとした時、ふと静姉に言わなきゃいけないことを思い出した。
「そうだ。静姉ちょっといい?」
「なに」
俺と静姉は小さい声で会話した。
「姫依にあまり変なこと教えるんじゃないぞ。年ごろの女の子なんだからな」
「はいはい。分かりましたよ、シスコンさん」
「いや、俺は断じてシスコンではない」
「アハハハハ。じゃあおやすみ」
「ああ。おやすみ」
静姉とも別れて、自宅まで歩いていると
「お兄ちゃん、静姉と何話してたの?」
と聞いてきた。まずい。下手な解答したら、また姫依のブラックな部分が出てしまう。
「えーとだな。俺の大切な姫依の純粋な心を汚すなよってことだ」
「大切なんてお兄ちゃんエヘヘヘ」
何とか誤魔化せたらしい。俺がシスコンになりかけたが。
家に帰りポストを見たら、なにも入っていなかった。よかった、よかったと思いながら風呂に入り、姫依とテレビを見ていた。姫依が見たいと言ったオカルト系の「衝撃映像100連発」と言うのである。幽霊やUFOと言ったものから、よくわからない怪物まで様々な未確認生物が出てきた。こんな物を真に受ける奴などいないだろうが。「居たら面白いなー」とは、思うけど。姫依は、オカルト系の物に興味があるのだろうか?そんなこと言っていた覚えは無いけど。
「お兄ちゃん」
なんか姫依の声が震えている気がする。
「なんだ」
「今日、一緒に寝ていい?」
「は?」
いきなり何言ってんだ?やはり兄貴として教えておかなくては
「あのな姫依、日本では、兄妹で結婚することを法律で禁じられてんだぞ」
「知ってるよそんなこと」
またもや声が震えていた気がしたが気のせいだろう。
「じゃあ何で一緒に寝るんだ?」
まさか、愛の力に法律は関係ないとか言い始めるのか?ヤバイぞ。重症だぞ。
「えーと。それは・・・」
姫依は、恐る恐るテレビの方を見ると、丁度幽霊らしき白い物体が宙を浮いていると言う心霊映像だった。
「キャーーーー」
姫依は、いきなり叫ぶと、ソファーに座っている俺に抱きついてきた。
「おい、どうしたんだ?」
「幽霊がーーー」
「は?」
「ゆゆ幽霊がテレビに写ってた」
「そうだな。合成した感パナイけどな」
大丈夫か?この年でこの映像を真に受けるとは、そんなところも可愛いといえ将来詐欺師に引っ掛かりそうだな。
「パリン」
とガラスが割れる音が2階からした。
「何だ。何か物でも落っこったか?姫依、一応木刀借りるぞ」
「うん、お兄ちゃん」
「お前は、ここで待ってろよ」
「うん、わかった」
姫依は、少し心配そうだったが、風かなんかで物が落ちた時ガラスに当たったのだろう。一応、木刀を持ってきたが、泥棒が2階から入るのは考えにくいし、家の明かりが付いていたので、普通入って来ないだろう。
2階に着いて1つずつ部屋を見ていくと、どの部屋もガラスが割れた感じはなく、最後に俺の部屋だけが残った
「ガチャ」
ドアを開くと、そこは俺の知っている俺の部屋ではなかった。正確には俺の部屋でいいのだが、なぜか黒い羽が部屋中を舞っており、部屋の中心に一人の少女が割れた窓ガラスの方、正確には月のある方を向いて立っていた。「誰だ!」と言おうと思ったが、声が出なかった。なぜならその少女が美しすぎたから。目がくぎずけになってしまった。その横顔は、恐ろしい位、美しかった。白くて透き通る肌とは、彼女のことだろう。黒くて絹のような髪とは、彼女のことだろう。美しいとは、彼女のことだろう。そんなことを考えてしまう程、美しかった。どのくらい時間が経っただろう彼女は、俺の方を向くと無表情の顔でこう言った。
「あなたは、あと1年で死ぬでしょう」