結婚式
「ねぇ、ねぇ、ボクどこに行ったらいいの? まだ準備しなくていい?」
「……少しは落ち着いたら? まだ式まで大分時間はあるし……」
「先生どこ? いないよ? 会場間違えてない?」
「控室だよ……」
相川は子ども服の礼装。瑠璃は薄ピンクのドレスを身に纏って結婚式当日の朝、式場に居た。落ち着きがない瑠璃に対して相川は眠いななどと考えながらボケっとしていると瑠璃は会場を探検し始める。
「おい、勝手な所に行くな……」
「あ、先生だ!」
「あら、もう来てくれたの?」
相川が瑠璃を止めようとした先には梵がいた。どうやらお手洗いから帰ってきたところのようで、瑠璃を見て少し驚いている。
「瑠璃ちゃん、可愛いとは思ってたけどビックリするほどまた可愛くなって……」
「えへ、そう?」
「そこは先生もお綺麗ですねくらいは返した方が良いぞ瑠璃。」
相川の発言で梵は相川が来ていたことも知り相川に向けて挨拶とお礼を言う。
「お、お早う相川くん。今回はお世話になったみたいで……」
「いやいや、そんなことは気にせず人生の晴れ舞台に集中してください。こちらも余興なんかで盛り上げていきたいと思いますがね。」
不思議な会話だなぁと瑠璃は二人のことを見ているが、すぐにドレスに着替えるために梵の方は控室に消えて行った。それを見届けてから瑠璃は相川に尋ねる。
「ねーぇ? お世話になったって、何したの?」
「……ウェディングプランナーをウチから格安で貸し出して、このホテルも安くレンタルさせた。つーか式の運営は大体ウチが係わってるな……」
「へー……」
恐ろしいことを平然と言ってのける相川。ウェディングプランナーの実体としてはこの地域を変えるプロジェクトを行政と一緒に行って来て世代などを把握し、高齢者の問題に対しての取り組みと結婚促進のための国からの指導に伴うことでニーズに応じて地域密着型の人生相談室を開いたものだ。
地方振興もやれと言われているのでプランだけは相川の会社で行い、髪のセットや衣装の貸付、化粧や料理などは地元の店の人を駆りだして行う。
そんな相川の会社の人生相談室では結婚数自体が減少している中でも収益減にはならないように行政書士を若干数入れて終活にも力を注がせることをやっている。勿論、同じ窓口では印象が悪くなるので人だけ使い回しで移動させて行っている状態だ。
そして、ホテルは相川の会社が行っている共同研究の相手に貸し付けたり、今回のような結婚式のために使ったりすること、またダンスの所為で微妙に人気が出てしまった祭りなどを踏まえて収益が確約されていることを見て大株主になっている状態だ。こちらに関してもあまり規模を拡大し過ぎても困るため地域型になっている。
閑話休題。
「仁くん凄いんだねぇ……」
「……別に。リスク分散した結果が何かこうなっただけだし。そんなことよりそろそろ席に向かうか。」
「あ、うん!」
そして二人は席に移動して行った。しばらく相川の方に挨拶回りが来たりした後、この地域の人ではない新婦の親戚が訝しみ、会場の人にどういうことか尋ねたりすることを経て式が始まると相川は口元を緩める。
(これが結婚における幸せの絶頂って奴なんだろうなぁ……後は転がり落ちるのみと聞くが……)
碌でもないことを考えながら新郎が入場してくるのを見ると相川は馬子にも衣装なんだなぁ……と思いながらそれを見送り、長い挨拶を聞く。そして新婦が入場して来た。
「ぅわぁ……先生、綺麗……」
瑠璃が思わずうっとりとして呟く程、梵のウェディングドレス姿は綺麗だった。バージンロードを歩む梵父子を見て会場が沈黙する中、瑠璃は目を輝かせながら小声で呟く。
「ボクもお嫁さんになりたい……」
少しだけ期待して瑠璃が相川の方を見ると相川はギリシャから留学して来ているバイトのミハリスくんの神父姿を見て笑いを殺している所だった。こちらのことなど気にしていなかった。それを見て瑠璃は少し膨れる。しかし、相川にとってはお構いなしだ。
(似合い過ぎ……この前、クロエに跪いて求婚したロリコンとは思えないくらい似合ってるぞ……)
ミハリスくんは変わり者だった。そんな彼が真面目な顔をしてそれっぽいことを言っているのだ。裏を知る相川にとっては噴飯ものである。しかし、式は厳粛に神聖に進んで行く。
「それでは新婦お色直しの為一度退席いたします。皆さまご歓談の方を……」
「よし、行くぞ。」
そろそろ自分たちの出番だと相川は瑠璃を伴って裏へと移動して行った。
「先生! すっごい綺麗だったよ!」
「ホント? ありがとね?」
裏で再び鉢合わせした瑠璃と梵。相川は少々所用で外しており、瑠璃は時間潰しも兼ねて梵の引け室について行き、メイクを除いては二人きりの状態で梵がメイクを変えられながら会話する。
「ボクもいっぱい結婚してお嫁さんになりたい!」
「うふふ、瑠璃ちゃん、結婚は一回だけにした方が良いわよ?」
「え~? なんで~? 好きな人と結婚するんでしょ?」
「一番好きな人とだけ、結婚できるのよ?」
梵の何気ない発言に瑠璃は後頭部からウォーハンマーで殴られたかのような衝撃を受ける。
「一番好きな人とだけ、なの? 何で?」
「ん~……結婚するのはね、この人は私の物です。って言うようなものなの。1人で何人も取って行ったら不公平でしょ?」
「……え、じゃあ誰かに取られたら結婚できないの……?」
「そうねぇ……まぁその辺のことはもうちょっと大きくなってから勉強した方が良いかな? まぁ瑠璃ちゃんなら大丈夫よ。内緒の話だけど奏楽君も瑠璃ちゃんのこと好きみたいだったから……」
「そ、そんなのより……じゃあ、クロエちゃんが邪魔したらボクどうするの……?」
梵は割と朗報を届けたつもりがそんなので流されてあれ? と思ったがクロエという名前が気になってそこについて尋ねる。
「クロエちゃんって、仁くんといつも一緒にいる子?」
「……そう。いっつもボクが仁くんと遊ぼうとすると邪魔するの。奏楽くんの所に帰りなさい。師匠は私のですって……どうしよ、もう結婚してるの!? ヤダよ! ねぇ、結婚って交換できる? 奏楽くんあげたら仁くんと交換とか出来ないの?」
「……う……うーん……取り敢えず、結婚するにはまだ年齢が足りてないから……結婚はしてないかな?」
梵が苦笑し、メイクをしていた人が少し笑いながら突っ込む。
「社長のこと好きなんですか? 大変ですねぇ……」
「うん。ボク頑張る。」
具体的には何の話か分からないが瑠璃は頑張る宣言をしたのだった。その直後に相川が訪れて微妙な空気を読んだがすぐにどうでもいいと切り捨て、出し物の準備をしに行く。
果たして、出し物は大成功するのだった。
「おーい高須さんよ。」
「……ん、あぁ……いや、さっきの、凄かったな……お前ら凄いな。瑠璃ちゃん可愛過ぎだろ……」
「そんなロリコンさんに質問です。修羅の国って……」
余興の熱に浮かされてぼうっとしていた高須に声をかけた相川だったが、その問いに高須は思わず吹き出した。
「お前、どこで俺が修羅の国に傭兵を送ったのを知ったんだ!?」
「……いや、たった今まで知らなかったけど……」
「は?」
勝手に盛大な自爆をしてくれた高須に相川は説明する。
「いや、瑠璃がこの前修羅の国に行ったらしいんだけど……その様子をね。」
「……そっちかよ。もう少し南の方かと……」
アルコール片手に高須は苦り切った顔をするが相川の方は楽しそうだ。
「傭兵稼業やってるんだ。俺も行ける?」
「10年早い。お前傭兵のこと舐めてんだろ? 生き死にかかってんだぞ?」
「大丈夫大丈夫。俺もしょっちゅう死にかけたりしてるから。」
「だからダメだっつってんだ。命を軽んじてる奴はすぐに死ぬ。文句あるなら大会にでも出て優勝するくらいの実力見せて俺は死にませんくらい言ってみろ。」
「ほう。言ったね?」
不気味な笑いを浮かべる相川だが、高須は武術学園の最低年齢の大会は12歳、6年生の時の大会でありしかもその大会は絶対優勝できない絡繰りがあるのを知っていたので優勝できるんならな。と安請け合いしてこの場を終わらせた。