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強者目指して一直線  作者: 枯木人
小学校高学年編
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退院後

「お帰りなさいませ、師匠。」

「ん。庭の世話とかやっててくれたみたいだな。ありがとよ。小遣いには色付けておくよ。」

「……当然のことをしただけです。お金は別に……」

「気にするなって。」


 退院して戻ってきた相川を出迎えるクロエは万券を渡されて凄く微妙な顔をする。彼女はお礼よりも褒められたかったのだ。


「それで、郵便物は……」

「仕事はメールとかはロックが分からなかったので手を付けてないですが、郵送されてきた書類などは私の方で大体やりました。」

「ほー……凄いな。これは別途で金を出さないとな……」

「お手伝いなので、要らないです。」


 お金を数え始めた相川にクロエは渋い顔をする。確かに貰って嬉しくないことはないだろうが、クロエはそれよりも相川に喜んでほしいのだ。外部委託したように片付けられるのは不本意である。


「まぁそう言うな。正当な報酬なんだから貰っとけ。」

「……それよりも、頑張ったねと頭を撫でてくれるだけでいいのですが?」

「頑張ったね?」


 察して欲しかった本音を吐露してしまい、普通に実行されたクロエ。そうだけどそうじゃないと凄い微妙な気分になるがそれでも一応嬉しいのは嬉しいので黙った。

 気は済んだだろうか? と相川はそれを切り上げて郵便物の中から結婚式の招待状を取り出しにいく。クロエはそれについて行った。


「……そう言えばそうです。結婚式の招待状が……」

「あぁ、知り合いの奴なんだが……そう言えばめでたい席に俺が行ってもいい物なのだろうか? 塩撒かれそうな気が……」

「呼んだのにそんなことする人いないですよ……」

「……まぁこの世界じゃ俺の無意識の魔力とか空気中に出ないしな……いっか。」


 ご出席の方に最初の一文字を消して丸をつけ、自分の名前の様を消して往復で郵送しておく。そしてソファに腰かけるとクロエもその隣に来てじっと相川を見た。


「……何? メールの方の仕事はしないのかって?」

「違います。」

「まぁそっちは入院中にやったしな……それじゃ何?」

「……2週間ぶりなので……」


 意味が分からなかった。クロエは休日など、学校を出ることができる機会があった時にはそれなりに見舞いに来ていたはずだが、2週間ぶりとはどういうことだろうか。


「もう、大丈夫なんですよね?」

「まぁねぇ……」

「ちょっと、肩借りていいですか……?」

「え?」


 嫌だけど。そう続けようとした相川の肩に微かな重みが圧し掛かる。その方向を見ると柔らかな金糸が肩に乗っており、何かに感じ入るかのように目を閉じているクロエが少しだけ顔を朱に染めていた。


「……すんっ……」

「……何故、泣く?」

「…………sehr vermisste……」(寂しかった……)

「そうか。」


 少々頭をドイツ語モードにするのが遅れた相川はクロエが何を言っていたのかよく聞き取れなかったが取り敢えず曖昧な返事を返して頭を撫でてあげる。そうすると彼女は勝手に落ち着いて行くのだ。

 尤も、勝手にと思っているのは相川だけでクロエは理由があって落ち着いて行くのだが。そんな二人の空気をぶち壊すかのように呼び鈴が鳴って相川が立ち上がり、目を赤くしたクロエも立ち上がる。


「こんにちはー! お邪魔します!」

「……瑠璃。何か用?」

「え? 別に?」


 開き直って入ってきた瑠璃に相川は微妙な顔をするしかない。それをクロエは快く思わなかった。


「はい、瑠璃? あなた師匠に何の用もないのに何で来たの?」

「会いたいと思ったから来たんだけど? 理由いるの?」

「あなた、絶交したはずですよね?」

「土下座して許して貰ったよ?」


 しれっとした顔で言われてクロエは相川を見る。相川は凄く微妙な顔をしていた。


「いや……号泣しながら土下座して目が逝ってたからな……別に勝手に絶交されただけで俺からしてみればどうでもいいし……」

「ボクも馬鹿なことしたものだよ。おかげで成長しました!」


 強力なライバルになって戻って来たらしい瑠璃にクロエは自然と顔を顰めて戦闘態勢に入った。しかし瑠璃の方はそう言えばと何かを思い出したらしくバッグの中から手紙を出してきた。


「そう言えば、仁くんの所にもこれ来た? そよぎ先生の結婚式の!」

「来てたよ。もう返事は出した。」

「行くの?」


 首肯する相川。すると瑠璃の方も頷いた。


「ならボクも!」

「……瑠璃個人に来てるんだな……」


 別の席は準備されていないらしいことを確認しながら相川は瑠璃に招待状の返し方などを教えて行く。それを見るクロエは大絶賛イライラしていた。


(……私の方が前に会ってたら!)


 そこに居たのは私のはずなのに、誰にも渡さないのにと瑠璃を射殺さんばかりに見るクロエだった。相川は変な殺気に気付くが自分に向けられている物ではないからいいかと放置し、瑠璃は書き上げた物を帰りがけに投函すると言ってそれを仕舞う。


「……何か出し物とかいるのかねぇ?」

「出し物?」

「……結婚式って余興的なのがあったはず……いや、よく知らないけど。」


 ご祝儀を包まないのだからそれ位はした方が良いのではないかと相川が考えると瑠璃はそれを全面的に支持しますというスタンスでそれに乗る。招待客のみの問題にクロエは口を挟むことが出来ずにお茶を入れることにして一先ず去って行った。


「……よくあるのが歌とか、ダンスだって。」

「ふーん。瑠璃、踊るのは好きだよ? 前に仁くんに教えてもらったやつ!」

「……そう言えば変なの教えたな……」


 瑠璃のダンスが勝手に始まり、ジャスミンティーを淹れて来たクロエが不覚にも可愛いと思って勝手に歯噛みする。さっきからクロエは元気だなぁと思いながら相川はクロエに礼を言ってお茶を飲むと出し物について考えた。


「……まぁ適当に準備するか……瑠璃も一緒にやる?」

「うん!」


 笑顔で瑠璃が頷いたことで出し物を一緒にやることが決まったので二人はお茶とお茶請けを頂いてから林の中へと移動する。それを片付けてからクロエは呟いた。


「……あの人に協力をお願いしたのは早計でしたか……」


 結果としては大事故が発生するのを未然に止める事が出来たが、クロエの目標には邪魔になる存在を生み出してしまったことに少し反省しながらクロエは夕飯を作って相川の帰りを待つことにした。




「ふむ。これくらい広ければ動き回っていいか……」

「じゃあ踊ってみるね! 歌とかは何がいいかな?」

「さぁ? 最近の歌って何があるんだ?」

「恋する愛兎女おとめとか!」

「んじゃそれでいんじゃね?」


 適当な相川に対し、瑠璃は少し準備をしてから歌い始める。それは、相川が驚くほどの歌唱力だった。


(うっわ……これは凄いな……歌詞がムカつくが……)


 歌っている本人たちよりおそらく可愛らしいと思われる瑠璃の動きと声。透き通るような明朗な声はどこか甘く、聞く者を魅了するかのようだった。しかし、相川が歌うにはちょっと嫌だ。


「ぴょん♪」

「……俺には無理だな。別のにしよう。」


 瑠璃が歌い終わってから、相川は今のを録画してもう少し大きくなってから流したらどんな顔をするんだろうと思いつつ結婚式の出し物を決めるために二人で話し合いをすることになった。




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