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強者目指して一直線  作者: 枯木人
小学校高学年編
92/254

デスマッチ

「さぁさぁやって来た洗礼の日! 小さいけれども油断できない! 圧倒的強さを誇りながら相手の技を全て受け取り、どんな怪我でも気付けばケロリ! 相手の武術も、武術家としての精神も! 死をも喰らう白仮面の化物【死喰らいデスイーター】の登場だぁっ!」


 相川の登場に会場が湧く。相川はそれに特に何の反応も見せずに不気味な動きでリングに上がった。


「対する相手は洗礼者! 新しい挑戦者を日々見つけ、刈り取る! 若者どもよ恐れよ! これが我らがNo.8! 【新人殺しルーキーキラー】だ!」


 反対側からボクサースタイルの筋骨たくましい男が現れ、相川を見下ろす。相川は相手の全身を見た時点でボクシングスタイルと見せかけながらもかなり下半身が鍛えられていること、また体幹に通常の武術では見られない筋肉が付いていることを踏まえて難敵であることを確認した。


「死を喰らう化物と新人を刈り取る死神! さぁさぁ張った張った! どちらが勝つかは天のみぞ知る! これからの戦いが地を揺るがす! 準備はいいか野郎ども! ぅレぇディ、ファイトォッ!」


 瞬間、ルーキーキラーが相川に向けて突撃してくる。相川は早さと挙動の小ささに感心しつつも横に逃れ、相手の動きを分析した。


(……この動き方は知らんな……一先ず観察しておくか……)


「早い速い疾い! 流石ルーキーキラー! 息もつかせぬ拳と足の連撃! 対する白仮面も手慣れた物! 二人の出会いは同等のインパクトを与えたことでしょう!」


 実況の声が聞こえて来るが、それどころではなさそうだと相川は意識を変えて相手の一挙一動を集中して見ていく。しばらく無言での応酬が繰り広げられるがどちらにもヒットはない。

 そんな様子を瑠璃はリング下から黒い鬼の仮面をつけて見ていて驚いていた。


「だ、ダメ……駄目だよ……!? 何で仁くん、あんなのと……」

「まだ、怪我してないのにどうかしたんですか……?」

「怪我、してるよ! わかんないの!?」

「しっ! 相手に聞こえたら師匠の不利になります……!」


 隣にいる同じくお面を付けているクロエが驚いて瑠璃の言葉を制するが、どういうことなのか尋ねる。


「仁くん、無理矢理動いてるよ……足、大変なことになるよ!?」

「……それでしたら、氣で治るので……」

「そんなの無茶苦茶だよ! そういう風に使う物じゃ……」

「あまり騒がないでください……」


 瑠璃が騒ぐが相手に余計なことを覚られないようにクロエは制す。そんなクロエを見て瑠璃は信じられないといった表情を仮面の下で作る。しかし、リングの上で動きがあり、意識は上へと戻る。


「【螺旋貫き】!」

「っと。」


 相川の頭を貫こうとする一撃が繰り出され、相川はそれを上体だけで躱した。そんな相川の残身の足にルーキーキラーは貫手の軌道を変えて鉄槌を下した!


「【岩盤砕き】!」

「ひゅっ。」


 それに合わせて懐に入る相川。それは想定内とばかりに相手は拳を引くエネルギーを肘に乗せて相川の顎を撃ち抜きにかかる。


「【昇拳鳥肘打】!」

「……【螺旋貫き】」


 呟いたと同時に繰り出された左手の一撃。ルーキーキラーの繰り出した技に体勢の入れ替わりの力をプラスした全く同じ技で相手の左肘は目標である顎に到達せずに相川の左手に異音を発させるだけに留まった。観客は相川がすぐに相手の技を取り込んだことに沸くが、瑠璃は顔を蒼白にする。


「ひ、仁くんの手が……砕けた……」

「……まだ、序の口です……!」


 力になれない自分に憤りを覚えつつそれを無理矢理押し殺しながらクロエは歯を喰いしばってそう言った。リング上では相川が愉しげに笑い、ルーキーキラーが訝しげな目を向けるも手は抜かないと猛攻を繰り出す。

 相川は既に砕けている手のことなどお構いなしに使って全ての攻撃を辛うじて避ける。しかし、それには限界があり、幾つかのダメージをもろに喰らって至る所から血を噴き出させた。


「強い強い! あの白仮面が手も足も出ない! 流石はルーキーキラー! しかし、【死喰らいデスイーター】はそこからが普通じゃない! 起死回生の一手を魅せてくれるはずだ! そろそろベットの時間は終わるが賭け遅れた奴は居るかい!? おっと、もう締切だ! さぁどっちに賭けたやつもこの試合の最後を見届けてくれよ!」


 実況役がそう言うのを聞きながらルーキーキラーは既に自らの勝ちを確信していた。これまでの逆転劇がどうだったのかは知らないが、今回自分が相手に与えた怪我は確実に本物であり、ここから逆転するのは不可能だと彼の戦いの歴史が告げているのだ。

 これまでの賭け終了までもたせるという暗黙のルールで行ってきたセーブして来た力を放ち、確実に相手を仕留める。既に左手の拳も、右肩も、左足の脛も、右足も破壊してあるのだ。負けはない。


(……筋は悪くなかったがそれだけだったな。駆け引きにも何にも年季が足りてない。勝つのは俺だ!)


 ギアを上げて襲い来る敵に相川は試合開始と変わらない目で相手のことを見ていた。


(……ふむ。大体小技に対する体の運用は見れたかな……? 剛拳と柔拳が合わさったいい武術だ……キツい相手だね……最悪死ぬかもなぁ……困るねぇ……それはさておき、まだ生きてるからなるべく相手の攻撃をズラして大技を出して貰おうか……あ、血で視界が塞がって……!)


「がふっ!」


(ってぇ……要らん攻撃喰らってしまった……)


 腹部に強烈な一撃を喰らい、内臓にかなりのダメージを追う相川。くの字に折れた体を立て直すべく顔を跳ね上げるとそこには両手のハンドアックスが振り上げられており……


「終わりだ。」


 相川の後頭部を叩き割った。直後、甲高い絶叫が響き、衆目が全て声の主に集められる。言葉にならない何かを叫びながら号泣し、フェンスをぶち破って中に入ろうとする黒い仮面の少女。

 当然、既に戦いを終えたと判断して相川に背を向けたルーキーキラーも警備員に取り押さえられているその誰かのことを見て……直後、背筋に寒気が走る。しかし、それは反応するには遅かった。


「っがぁっ!」


 その攻撃を仕掛けた相手は無言。頭から血を滝のように流しつつぞっとするような目で立っていた。思わずルーキーキラーは呟く。


「……成程、【死喰らいデスイーター】か……」


 実況が喚いているがもうそちらのことなど気にしていられない。これまで無口だった彼は既に勝ち取っている勝利を前に獰猛に笑いながら相川に襲い掛かった。


「喰い切れぬ程の死を馳走してやろう! それが貴様の最後の晩餐だ!」


 殴る、蹴る、突く、刺す、貫く、折る、叩く、潰す。ルーキーキラーの猛攻が嵐のようになって相川を襲う。天災に遭った哀れな犠牲者のようにずたずたにされる相川に流石に周囲の熱も引いてしまうがリング上の二人には関係ない。

 リング下では警備員を薙ぎ倒した瑠璃が泣きながらフェンスを叩いて相川の負けと試合の終了を訴えているが部外者の宣言は誰も取り合ってくれなかった。


「どうしてぇ!? 本当に死んじゃうよぉ! 止めてぇっ!」


 その言葉が通じたのか、相川は防御し損ねて弾き飛ばされる。その姿は腕に歪な凹凸が走り、脚が明らかに曲がってはいけない方向に向いていた。そこでルーキーキラーは初めて瑠璃のことを認識したのか荒い息を吐きながら笑って告げる。


「あの子の仲間か? 憤怒に歪む良い目をしてる……俺を殺したいな……ら」


 だが、ルーキーキラーは最後まで言い切ることは出来なかった。突如として視界の隅の方に入った黒い影、それを認識した時、せり上がってくる血の味が彼の身に何が起きたのか知らせてくれたのだ。


「あ、あれでも……動ぐ、の、が……」

「げほっ……死ね……」

「化物……め……」


 心臓を刺し貫いた一撃に加え、蟀谷から脳を貫く一撃を加えた相川は一瞬の静寂を生んだ後、大歓声の中勝利を収めた。




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