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強者目指して一直線  作者: 枯木人
小学校高学年編
90/254

吹いた

「……これで今日の授業は終わりだ。」


 権正の宣言により授業が終了する。それによりAクラスの教室に喧騒が戻って来るが、珍しく特Aクラスに所属している瑠璃が今回の授業はよく分からなかったとばかりに権正の方へと移動して行った。


「先生、今日の授業はよくわからなかったです。質問してもいいですか?」


 いや、よく分からなかったとばかりにと言うよりも直球で分からなかったと打ち込んだ瑠璃。普通であれば権正はその場で答えただろうが、今回は少し歯切れが悪かった。


「あー……その、なんだ……詳しくは保健室の万智先生に訊きなさい。俺はこの後も授業があってな……」

「はい。」


 珍しく逃げるようにして去っていく権正。瑠璃は今日の授業は全て終わったので保健室へと移動することになった。





「万智先生、いらっしゃいますかー?」

「! います! まぁまぁよく来てくれたわね! すぐお茶淹れるからね!?」


 元気よく現れた瑠璃に万智はそれに輪をかけて元気な……いや、それ以上のハイテンションで瑠璃のことを出迎え、椅子を勧める。頭の中は既に瑠璃のことを診察することでいっぱいだ。


「それで、今日はどうかしたのかしら?」

「はい。保健体育の授業で権正先生に質問しようとしたんですけど、万智先生の所に行きなさいって言われたので……」

「どこなの?」


 権正先生が質問に答えないなんて珍しいわねと思いながら万智が瑠璃に該当箇所を尋ねてみると瑠璃は教科書を引っ張り出してページをめくり、万智に指し示す。瞬間、万智は噴いた。


「うわっ!」

「ご、ごめんなさい瑠璃ちゃん……」

「んーん。大丈夫です。それで質問なんですけど……」


 質問を開始しようとする瑠璃に対し、万智は大混乱していた。訊かれてラッキー、まて、罠かも知れない。戦場では気を抜いた奴から殺される。ここには相川という情報の化物が住んでいる。これ以上弱みを握られるのは不味い。待て、ここで引くのか? 千載一遇のチャンスなのに? いや、事に及ぶ前に相川が現れる可能性を考えろ。欲望をここで捨てていいのか? まずは様子見だ。


 一瞬で万智の頭で情報の伝達が行われた結果、万智の口から出たのはこの様な言葉だった。


「あ、相川くんに相談とか……」

「!」


 瞬間、瑠璃の顔が輝いた。万智はやはり罠か! と思った直後にそんなことをさせた相川のことを許せない、逆に罠に嵌めてやると考え、次の言葉でその考えは打ち壊される。


「やったぁ! 先生も分からないんですね? 仁くんは知ってるんですね!? これで仁くんに話しかけられる! ありがとうございました!」

「えっ? る、瑠璃ちゃん? 罠とかじゃ……?」

「お邪魔しました!」


 大喜びで即座にこの場から去った瑠璃。万智はそれを呆然として見送ることしかできなかった。










 その頃の相川はクロエをランニングに送り出し、仕事も今日の分は終わらせ、夕飯はクロエが帰って来てから作るということでティータイムに入っていた。


「……? 誰だ? 無粋な……」


 立ち上るダージリンの香りを楽しんでいたところに隠し立てもしない巨大な氣が猛烈な勢いで近付いて来るのを感じ相川は一口含みつつ眉を顰める。その直後に嫌に可愛らしい声が相川の家の外に響いた。


「ひーとしくーん! せっくすおしえてー!」

「っふ! えほっ……は?」


 吹いて、咽た。そして疑問の声を上げるがそれどころではない。万が一余所に聞こえたらことだ。我に返った相川は急いで外に出てきょとんとした愛らしい顔で恐ろしいことをのたまった滅世の美少女を家に引き摺り込む。


「久し振りっ♪」


 瑠璃の方は喜んでいるらしいが相川の方はそれどころではない。色々言いたいことはあったがちょっとまとめるのに苦労して一先ず瑠璃に応じた。


「久し振り……だな。」

「うん! 用が出来たんだよ!」

「……取り敢えず、順を追って話して貰えるかな?」


 事と次第によって追い出し方が変わるからと思い、拳を固めつつ相川が瑠璃に尋ねると彼女は手持ちのバッグから教科書を取り出し、相川に見せる。


「ここ! 権正先生に訊いたら万智先生の所に行きなさいって言われたけど、万智先生に訊いたら相川くんに相談しなさいって言われたの!」

「あんのジャリどもがぁ……!」


 面倒事を押しつけやがったなと相川は後で嫌がらせをすることに決めて今回は何の罪もなかったらしい瑠璃のことをリビングに招き入れる。瑠璃は紅茶が入っているテーブルの近くにあるソファに腰かけて相川を見上げた。


「ボクにせっくす教えてください、お願いしまーす♪」

「……まず、その言葉をこの国であんまり公言しない方が良い。民法やってるとかならまだしも……」


 新手のプレイを強要しているなどと誤解を招きかねないので相川は強くそう言っておいた。それに対して瑠璃はよく分かっていない用で首を傾げる。


「せっくす?」

「そう。性別とか性行為とか性そのもののことを示すがこの国だと性行為を意味することが多い。今回も性行為のことを意味するが……まぁ公言するものではない。」

「へぇ……何で?」

「……公序良俗の観点からだ。瑠璃が知らない人にいきなり襲われたいなら別に言ってもいいよ。」

「ヤダ。」


 一先ず、最低限の言っておかなければならないことをクリアしてから相川は心の底から嫌そうに本題に入った。


「それで……何が分からないんだ?」

「んー? 意味。」

「……お前そういう話する友達とかいねーの? 俺はいないけど。」

「ボクもいない。」


 二人とも友達自体がいないということだが、相川は瑠璃の友達には少しだけ心当たりがあった。


「そうか……相木とかは?」

「んー……権正先生の前にちょっと訊いてみたけど、お父さんが何か知らなくていいとか言ってたみたいなの。でも、テストで困るでしょ?」

「あぁ、大体わかった……」


 要するに瑠璃には彼女の父親である遊神 一の手によって情報統制が行われていたらしい。いつまでも自分の娘は彼氏など作らず処女であってほしいと願いながらもある程度の年齢になったら良い相手はいないのかと焦り始める馬鹿親だろう。知っていたが酷いなと相川は嘆息しておいた。


「お前も大変なんだなぁ……」

「そうなの? じゃあ慰めてー?」


 頭を差し出してくる瑠璃の柔らかな頭を撫で、喜ばせるとクロエが帰って来ると余計、数十倍面倒なことになりかねないとさっさとこの問題を片付けることにする。


「で、性行為の意味だが子どもを作ることだ。もういい?」

「んー? でも、避妊って子ども作らないことでしょ? 目的を果たさないのに何でしようとするの?」


 面倒臭いことに気付きやがってと舌打ちしたい気分になった相川だが、一応請け負ったことなので説明はしておく。


「……性行為が気持ちいいからだよ。」

「へー……じゃあやってみる?」


 無言でビンタしておいた。瑠璃から非難の目を向けられるが相川は無視した。


「そういうお誘いは絶対に禁止。少なくとも10年早い。」

「叩かなくてもいいと思うのに……」


 そう言いつつ教科書に目を戻す瑠璃。相川は好きな相手が云々などと珍しく至極真っ当な意見を言っていたが瑠璃はそれらを流して文を読み進めて何かに気付いたかのように顔を上げる。


「……あ、もしかして勃起できないの?」


 教科書を読み進めていた瑠璃の発言に対してもう一発、今度は厳しめに叩いた。


「今のは殺されてもおかしくない発言だったからな?」

「そうなんだ……」


 教科書の記述に書き込みを加える瑠璃さん。その後、しばらくしてクロエが帰って来て覗きこみ、顔を真っ赤にして後退りされるが最終的には付き合ってられんと脱落した相川無しで二人だけで電子媒体などを用いてよく勉強したようだった。


 夕飯時になっても続けていた二人を食卓テーブルを片付けようと通りすがりに見た相川は最初からそうしろよと思った。




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