お買いもの
翌朝。
霊体になった妙が夜寝る必要もなくなり、眠っている瑠璃をずっと見ては泣いたりして相川がうるさいとキレて瑠璃がビックリして起きたりするというハプニングはあったものの、元気に二人とも起きた。
「さて、買い物だ。……身長足りないから上の方は妙さんに見てもらうしかないかな。裁判は?」
『午後からです。』
「ねー仁くん……髪結んで~……」
(だんだん図々しくなって来たなこいつ……いや、最初から割と図々しいな。まぁ初対面で宿を確保する俺も俺だが……)
おねだりしてくる瑠璃を見て、自分のことを居候と再定義することで我慢して瑠璃の髪の毛をツーサイドアップで結ぶと買い物袋を持って移動開始だ。
「……あ、先に言っておくが……俺は術がないと重度の方向音痴だ。具体的には間違えていても何とかなると言う精神で引き返さずに別の道を行く。」
『自覚しているのならば直せば……』
「結構何とかなるから治す気はない。ただ、瑠璃が一人で残されて迷子になる可能性が高いから言っておいただけ。」
相川はそう言って出かけ、瑠璃も付いて行く。その上空には妙が心配そうに見守っていた。
「何買うのー?」
「おかずに出来る安い物。」
「瑠璃、お肉がいーなー」
「安かったらそれでいいよ。」
妙の道案内で商店街を歩くがその際に瑠璃の可愛らしさと子ども二人のお使いということで様々な物を貰う。
「……これスーパーに着く前に食材揃いそうなんだけど……」
「野菜ばっかりだからヤダ!」
「……まぁ調味料も俺が料理するなら足りないしな……」
そんなことを言いながら歩いていると瑠璃を見た肉屋が店に瑠璃を呼んでメンチカツをくれた。
「わーい! ありがとうございます!」
「遊神さんによろしくね。」
「はーい!」
「……昼食は終わりか。」
半端ない節約術だな……と思いつつ相川が値切り交渉以外で見たことのない自発的なおまけを見て商店街に毎日通えば食費はただなのでは……と考える。
「まぁ、自分で作るけど。」
しかし、他者の好意が苦手な相川はそれを良しとせずにスーパーに行って調味料や材料を探し始めた。
『あ、バジルはここです……』
「見えないし届かない……瑠璃、妙さん曰くこの上にバジルの乾燥粉末があるはずなんだけど」
「っえい! う~……瑠璃も届かない……」
「何か探してるのかな?」
「ばじるをね、取りたいの。」
瑠璃の困り顔を見れば店員たちも一発で協力してくれ、買い物は非常に簡単に進んで行く。相川はそれもあまり好ましいものではないと感じたが、瑠璃に着いて来ているのだろうと自己解決して別コーナーへと赴く。
「……ふむ。豚ヒレが半額か……買いだな。」
「お~お肉いっぱい!」
『あの、そんなに買い込んでも……』
「味付けごとに小分けして冷凍庫にぶち込んで何食か分にするんだよ。冷凍庫はアイスを入れるだけの場所じゃないんだぞ?」
「あ、瑠璃アイスも欲しい!」
相川の一言に瑠璃が反応するが相川が首を振る。
「妙さんがダメって。」
『……言ってませんけど……』
「ママのケチ……」
言ったことにすると楽なので瑠璃を適当に説得して相川は棚卸の為に値引きされた物を売っている場所に移動した。
「おぉ、クミンシードが安い。オレガノも。香菜も。チリペッパーも。サフランは……高いしそんなに使わないし、生薬にするにもまだ瑠璃にも早いからいいか。」
「む~! 仁くんばっかりいっぱい買ってズルい!」
「ハハハ、瑠璃ちゃん? これはお料理に使う物だからね。」
瑠璃と相川のコンビだけでは買い物が出来なさそうだと判断し、平日の昼間、しかもあまり人がいないことも手伝って二人の買い物を手伝うことにした店員が笑いながら瑠璃を宥める。
「にしても、君は……詳しいねぇ? 僕も使い方がよく分かんないような物をいっぱい買って……」
「カレー風味の味付けにしたり香りを良くしてトーストを美味しくしたり。煮込むときにも勿論使って……使い方は色々ありますよ。アミエビか……それとイリコ出汁にアゴ出汁……」
一気に値引きされている物たちが素晴らしく料理に彩りを与えるものだったので相川は軽く錯乱状態でほいほい買い物かごに入れていく。
「料理店でも開くのかな?」
「仁くんのお料理美味しいんだよ!」
「そうか~じゃあ、楽しみだねぇ?」
「うん!」
そんな光景を見ながら妙は味付けにそんなに使う物なのだろうか? と不思議そうに見ていた。
「ん~……中華スープの素も、二種類ある……両方欲しい所だけど……買い過ぎの気もする……」
『そんなに使わないでしょう?』
「使う。こっちは醤油ベースだから炒め物が基本。こっちはチャーハンとかスープ、勿論炒め物にも使うけど……」
『では、こちらのモノだけでいいのでは……?』
「食卓に彩りは必要だ!」
それに、今日は安いのだ。値引きされている状態で他の人に買われれば正規の値段で買わなければならない。
「ハーブソルトは、うん。これは一種類だけでいいかな。あ、バジルこっちに安いのあった。こっちのにしよ。」
「ハハハ。じゃあこれは返してくるね?」
「お願いします。」
この後もいっぱい買った相川はスーパーから帰る時に瑠璃だけでは持てない量になってしまったので手伝うことになる。
そして、家に着く寸前で黒塗りの車が二人を待ち構えていた。
「やあ、相川くんだね? 安心院院長から患者が目覚めたから病院に来て欲しいとのことだ。勿論、瑠璃ちゃんも。」
どう見ても人攫いに見えた。しかし、電話がつながっていると言うので投げ渡された電話から通話してみる。
「もしもし?」
『あぁ、相川くん。家にいなかったそうだが?』
「買い物に行ってました。取り敢えず、この人攫いみたいな人は誰ですか? 信用していいんですかね?」
『人聞きの悪い……彼はうちの若手だよ。休憩がてら気晴らしにドライブに行ってそのついでに君たちを迎えに行くように頼んだんだ。大体、遊神くんのことを知っていて瑠璃ちゃんに手を出す馬鹿はそうそうおらんだろう。安心して車に乗ると良い。』
相川的に安心院院長も別に信用していないので難しい顔になるが、妙さんの方が知りあいだから安心していいと言い、瑠璃の方は乗り込んでいたので何も言わずに車に乗る。
『では、荷物持ちをするように高須……あぁ、その運転している男に言っておくから電話を代わってくれ。』
「はい。」
高そうな車の椅子に荷物を置いて息をつく幼子たち。運転席の男はしばらく電話をしていたが、すぐに車を出発させて屋敷の門前に着いた。
「じゃあお願いします。重くて持つのが疲れる上、背が足りなくて入れられないので。」
「……君たちはどうやって生きていくつもりなんだい?」
「椅子を使って。それと今度からは台車を持って行くつもりです。」
「……賢いね。ネット通販でも勧めようと思ったんだけど……」
高須というらしい男に苦笑されつつ相川は肉を切り分け、それぞれに下味をつけて小分けにしてラップで包み、タッパーに種類ごとに分けて入れる。
それらの準備を終えた後、使いやすい場所に棚を置いてそこに調味料を並べて満足した後、相川たちは病院に移動した。