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強者目指して一直線  作者: 枯木人
小学校低学年編
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思わずにっこり

「……?」


 相川は右手の指先が何か生暖かくぬめぬめした物に包まれているのを知覚して薄らと覚醒していた意識を表面に押し出し、目を開けて指を動かしてみる。


 すると、変な物に包まれていない部分と包まれている部分の境目辺りに何か硬い物がぶつかった。


(……子猫が母猫の乳と間違えて吸ってるのか……? にしては歯が大きい……いや、もふもふは俺の脚の間にいるな……じゃあなんだ?)


 ここまで目が覚めてから10秒ほど。相川は左手の痛みに顔を顰めて動かしたくないと思いつつも右手の状態を知りたいので仕方なく動かし、痛みも忘れて軽く思考停止した。


「…………瑠璃?」


 返事はない。眠っているから。そういう理由も勿論だろう。ただし、現在瑠璃は仮に起きていても返事が出来ない状態にあった。


「えーと……何やってんだこいつ……こいつの寝床はあっちだし、何と間違えて俺の指を……」


 瑠璃は、相川の指を吸っていた。しかも時折舐め回してはにへらっと笑うのだ。思わずこちらも態度を緩めてしまうかのような幸福そうな笑みに相川は真顔で考えた。


(……奏楽に何かをいや、ナニをしゃぶるように仕込まれてんのかな? 今どきの若者は割と爛れてるんだねぇ……まぁ俺に関係ないからいいけど……)


 割と、最低の考えだ。それはさておき相川は瑠璃の口の中から指を引っこ抜く。そして周囲に何か洗う物はないかと見渡すと瑠璃が唸りながらベッドの中を探り始めた。


「……何だ? 何を探してやがるんだこの小娘は……」


 同い年を小娘扱いした相川はしばらく瑠璃の様子を観察することにしつつ手をベッドで拭いて上体を起こした。そうすると瑠璃は少し手を伸ばして相川の起こしかけている体に触れるとそちらに体を移動させてしがみつく。


「……こいつはセミか?」


 そう言っている間にも上の方によじ登ってくる瑠璃を相川は流石に邪魔くさいとのけようとしてしっかりと抵抗を受けて跳ねのけられる。


「あぁ?」

「んー……あみゅ。」

「うわっ……何だこいつ……変態かよ……」


 今度は首下に甘噛みして来てそのまま何かを吸い始める瑠璃。相川はもう無視してさっさとこの後ろの生物を彼女の群れに返し、島の中を探索することに決めて瑠璃を振るい落とす。


「んーんー……」

「……何だこいつ本当に……まぁどうでもいいや。さっさと準備しないと……」


 そこで相川はふと思った。口元に何かあれば何でも口に入れるのだろうかと。そして気になった物は仕方がないという訳で実験してみることにした。


「……布は食べないな……猫は?」

「んーんー……」

「食べないな……」


 凄く嫌がる猫を解放して相川は身の回りにある物を瑠璃の口へと向かわせる。蛇の肉も与えてみたりしたが彼女は食べないようだった。


「……んじゃ手。」

「ぁむ。」

「これは食うのな。」


 自らの指を再び出してみると瑠璃はすぐに食いついた。しかし、そんなことをされても手がべたべたになって不快なだけなのですぐに取り出すと足を出してみる。


「っと。危ない、これはあんまり洒落にならん。」

「ぅ?」


 食いつかれかけて相川はいけないことをしている気分になってすぐに足を引っ込めた。瑠璃は近くにあった熱源が遠のいて不思議そうにまた何かを探り始める。


(……これで奏楽が本当に性的な意味で仕込んだのかどうか確かめてみたい……でも仮に本当だったら何か何とも言いようがない感じになるしそこで起きたら大変なことになるな……)


 1秒間の悪魔に唆されたが相川はそんなことはしないで瑠璃を背負うとベッドなどをなかったことにして瑠璃が頭を乗せている方向とは逆方向の肩にグルーミングを終えた猫を乗せて洞窟から外に出て行った。










「面倒臭いな……適当な所に捨てようかどうしようか……」


 そして洞窟から出て相川はすぐに面倒になって来て瑠璃を放り投げるかどうか考え始めた。周囲に美味しそうな敵がいる状態で使い物にならない左手の回復を優先したくなって来たのだ。


「……そうだな。一先ず帰りまでのタイムリミットが2日後の昼。となると……今日中に遊神を預けられる場所を…………生き残りっているのかな? いや、居ると仮定して見つけないと。逆算するに今日の夕方までには見つけられなかったら仕方ないし遊神は置いて行こうか。」

「やぁ……置いてかないで……」


 相川の独り言に瑠璃が反応した。起きたのかと様子を見るも背中から感じられる身体の重み的に一切力が入っていないので起きていないのは明白だ。


「ボク、一人やだぁ……」

「はいはい。皆がいるところに置いて行きますから安心しましょうねー」

「やだ……」

「ぐ……締めるなこのボケ……バラしてその辺の獣の餌にするぞ?」


 相川の不穏な気配を感じたのかはよく分からないが瑠璃は力を緩めた。相川が息をつくと近くに人間と思わしき氣が何かを探すようにうろついているのを感じ、相川は口の端を吊り上げる。


「ふむ。これなら遊神さんもすぐに見つかるだろ……これからについては俺は要らないな。じゃ、そういうことで……この、俺の服を握るな……! カブトムシか……!」


 引き剥がそうとすると無意識と思われる状態なのに抵抗してくる瑠璃に相川は苛立ちツボを刺激して脱力させた瞬間を狙い身を離す。


「なぉん。」

「そうだな。行こうか……まぁ一応、知り合いのよしみということで簡易結界くらいはプレゼントしてやるよ……さぁ、始めようか!」


 瞬間、周囲にいる魔獣と思わしき歪な生命の形をした動物たちが相川に吸収されて行く。


「アーッハッハッハッハ! 最高だ! 思わず高笑いするくらいにはいい気分だね!」

「なぉ……」

「さぁこの世界から出られるために頑張って行きましょう! ごめんね生命の成れの果てども。まぁ元々お前らも俺と同じでこの世に生まれて来ちゃいけなかったんだ! 諦めて死のうぜ! 俺はもう少し後で死ぬからさぁ! アーッハッハッハッハ! 自分がいられる場所に、存在を認められるような形で生まれ変わったらいいね! まぁ俺は無理だけど! ケラケラケラ!」


 血を噴出させ、相川の口と首の動きに合わせて空間が抉れたかのように物質がなくなっていく。その全てを喰らい尽くす暴王はそのまま瑠璃から去って行った。


 そして台風が去った後、様子を見に来たこの辺をうろついていた人々、遊神家一門たちが集まって来てその場で穏やかに眠っている瑠璃を発見する。


「おい……大丈夫なのか……? よかった。命に別状はなさそうだが……」

「だったらさっさと起こそうぜ? この場所は何かヤバい奴がさっきまでいたみたいだからな……すぐに移動しねーと。」

「無茶させたらダメでしょ! 麻生田はそういうところ気が利かないよね……」

「ぅん……ボク……は……」


 言い争いをしていると瑠璃が先程まで全く起きる素振りも見せていなかったにもかかわらずすぐに目を覚まして周囲の状況を見渡し落胆する。


「どうした? 大丈夫だったか?」

「……うん。仁くんが助けてくれた……」

「はぁ? 相川が?」

「うん……でも、もういないみたいだけど……」


 落ち込む瑠璃だが、この島は全域が危険地帯でありそんな暇はないとばかりに切り替えて全員に心配をかけて申し訳ないと言うことを告げ、移動とこれからの生存戦略について舵を切り直した。





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