表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
強者目指して一直線  作者: 枯木人
小学校低学年編
76/254

問題です

「さてさて、扉の媒体をしていたモノはこっちだなぁ……楽しみ楽しみ。」

「なぁごなご。」

「何かね猫君。暇してるのかい? じゃあ寝てるといい。猫はよく寝る生き物だろ?」

「なぅ……」


 扉を見聞した後、相川と子猫は来た道を正しい道順で引き返して一気に戻ることがないように気になっていた場所へと移動していた。


「そろそろだねぇ……」


 気配がしてきて相川はこの島に来て上がりっ放しの気分が更に少し高揚し、進む足取りも速くなりそうなのを意識的に抑えつつ移動する。


 果たして、目的の場所にはすぐに着いた。透明感のある黄金色の結晶が光の反射で七色の光を周囲に温かく振り撒きつつ岩壁一面に張り付いている状態で相川はそれを視る。


「……オロスアスマンダイト? へぇ~何か凄いな。魔素のない世界の癖に何でこんないいモノを……いや大昔はこの世界にも魔素があってそれが凝縮されてこんな形になったとか? ……まぁどうでもいいか。取り敢えず採取してみよう。」


 一瞬だけその物質について思考した相川だが、この場所にいると外の世界との時間のズレが気になるので早目に作業を済ませることにしてその結晶を採りにかかる。しかし、硬過ぎるそれは相川の手ではどうしようもなく、相川は少し採取方法を考える羽目になる。


「……折角集めてる魔力を使うのはあんまり好ましくないし……大体、このオロスアスマンダイトとか言う物質は魔力吸収性が非常に高いからかなりキツい。手持ちの武器は歯が立たないし……」


 手持ちの武器でも最強の物を犠牲にするのであれば採取も可能かもしれないが、この世界では修理が効かないため使いたくない。


「……と、なりますと……修復可能、もしくは壊れてもいい物でこの結晶を壊せるとなると……はぁ。痛いのはあんまり好きじゃないんだけどなぁ……腕しかないか。」


 魔力と氣を複合させた力を左腕に乗せて相川は呼吸を変え、少し結晶の付近をうろついて最適な距離と殴る箇所を見つけ目を閉じて心身を整える。そして目を見開いたと思うと一気にそれを解放すると同時に足を出し、右腕を引き、左手の威力へその推進力を更に加えて左拳を打ち抜いた。


 しかし、それでも結晶は砕けない。少々の皹と軽い凹みを与えただけだ。


 対する相川の左手は筋肉の動きに耐えられずに骨が内部で折れ、皮膚が裂けし、筋肉自体も発せられる以上の力を出すことで断裂し、打ち抜いた拳も力を通し切れなかった上、変に凹まれたことで衝撃がズレて手で吸収してしまったことで指先が手の平に刺さり、手首がひん曲がって関節付近の軟骨や靭帯や神経などに大打撃を受けている。


「……いってぇ。うん。割と洒落にならないくらい痛いぞこの野郎……神経が麻痺してるが見ていると脳が勝手に痛みを俺に教えてきやがる……まぁ麻酔と氣でそれはなんとかして……」


 何ともならない、普通なら声にならない痛みを覚える怪我を相川は努めて無視して手から血を滴らせながらだらんと垂らし、凹みをじっと見て満足気に頷く。


「まぁ、皹が入ればこっちのモノですよ。」


 そう言って相川は残っている右手で小さなドリルとその下に袋が付いている器具を取り出し、ドリルを動かす部分を手や足を使って全力で少しずつ動かす。


「マジかよ……これでも通らないとか……うっわ……これにも魔力纏わないとダメですか……そうですか……」


 微妙な計算違いはあった物の苦汗を流しつつ亀裂を大きくしていき、その場で4時間ほどかけてようやくドリルの先が岩盤に触れたところで大きく息をつくと岩を爆発させた。


「よっしよっし。流石に樹状結晶部分はまだ脆いよね……純度は低いみたいだがそれでもまぁ硬いこと硬いこと……後細かい結晶も持って帰って何かに使おう。うっわ重っ……」


 かなりの時間を費やして頑張って相川は純度の高い結晶の細かい部分を拳大に、そして純度はそこまで高くないが恐ろしいほど硬い物質を現在の身の丈ほどもある量採取してそれを仕舞った。


「にぅにぅ……」

「お腹空いたのか? もう出るから安心しろ。」


 忙しそうにしていた相川から離れて寝ながら作業を見守っていた子猫だったが、相川の様子を見てそれが終わったことを確認すると相川にすり寄って来た。それを受けて相川は道順を間違えて移動することで入口まで飛び、すぐに着た場所から引き返すことで外に出ることに成功する。


「ハッハッハ。手が痛ぇ……まぁ流石に猛獣とかに匂いを嗅がれると寄ってくるかもしれない……あれ? いいことじゃね? ……まぁ今は手が痛いからあんまり戦いたくないな。それに毒素が流出して子猫が大変なことになるかもしれんから皮膚から再生しておくか。」


 外気に触れると痛いので皮膚を軽く修復しておく相川。しかし、先程割と全力で動いた所為で氣が足りずに上手く行かない。


「むぅ……イライラする。」

「にぃ!」

「お腹空いたってか。分かった分かった。何か狩ろうか。俺も若干空腹だし……それに足りなくなった魔力を搾り取る必要がある。」

「にゃぅっ!」


 子猫の賛同を得たところで相川は扉の封印場所から移動し、森の中へと消えて行った。













「はぁっ! はぁっ!」

「何だ!? どうしてこんな……!」

「喋ってないで逃げないと!」


 遊神流の子どもたちは現在、拠点となっていた巨木が倒されてもう1週間前から急激に気性が荒くなった猛獣たちから逃げている最中だった。


(ダメだ、逃げられない! どうして……! あと少しでこの島での生活も終わりになるはずだったのに! 後何日なんだよぉっ!)


 島の中心から何かから逃げるようにして多くの猛獣たちが海岸付近まで出没するようになった島。瑠璃たちが住んでいた巨木が瑠璃たちを狩ろうと意図して切られた物ではなく無造作に切られたというくらいに猛獣たちの強さが変わっている。


「……皆、逃げて。」


 悲壮感に染まりつつ息を切らせ始めていた全員を見て瑠璃はそう言った。当然、全員が反対する。しかし、瑠璃は異論を認めなかった。


「ボクだけなら何とかできるの! どっか行って! ボクは島の中心の方に行くから!」

「待て! 俺が一緒に……」

「奏楽君が抜けたら皆はどうするの? ボクだけでいい!」


 瑠璃はそう言い捨てると身を翻し現在迫って来ている蛇型の猛獣の目に蹴りを入れた。猛蛇は煩わしそうにするが特に気にした様子もなく自ら飛び込んできた獲物に狙いを定めて進行方向を変える。


 凄まじい速さで移動していく瑠璃と蛇をこの場にいる全員は悔しそうに見送るだけだった。



「はぁっ! はぁっ!」


(何か、この島……こんなに中に来たことはなかったけど、息が苦しい……!)


 巨蛇から逃げる瑠璃だったが何の打つ手もなく適当なことを言って島の中心である森へと逃げ込んでいた。蛇はその巨体を這わせて瑠璃を追いかけるがその速さは拮抗しており、どうやらイライラしてきた様子だ。

 それならば諦めて欲しいと思う瑠璃だが、蛇にも生活が懸かっている。逃す訳なく本気を見せて来た。

 全身をバネにし、跳躍して瑠璃に襲い掛かる。


「―――っ!」


 不意に働いた勘により何とか頭から丸のみを免れる瑠璃。しかし、その蛇の頭に続いて来た身体が瑠璃の小さな体を撥ね、瑠璃は近くの木へ強烈に体をぶつける。


「かっ……」


 息が、止まる。頭が揺れ、木に後頭部を激突させてしまった。


「う、ぅぅ……」


 地面に力無くうつ伏せに落下する瑠璃。顔を上げると既に狩りの成功を確信した蛇が悠然と這い寄って来ていた。瑠璃は何とか逃げようと手に力を込めて立ち上がろうとするが力が入らない。


 せめて、睨むくらいは……そう思って顔を上げた瑠璃。その視線の先では蛇が口を大きく開けて迫って来ている。はずだった。


「っしゃぁ! 昼飯発見! 待ってろ子猫。すぐに昼食の支度するからな!」

「なぉん!」

「…………ぁ、とし、くん……?」


 鎌首を一瞬で瑠璃から移動させ後ろを向いていた蛇。その視線の先には瑠璃の知った顔と声が聞こえてきたが瑠璃の意識はそこまでしかもたなかった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ