無人島・邂逅
「……面倒臭いな。扉の場所に行く前にループがある……やたら繰り返しが多い上、正しい道を正確なタイムで進まないとやり直しという面倒臭すぎる……まぁ行くけど。」
相川は破壊と暴虐を中断して子猫を肩に乗せて島の中心へ向かっていた。辺りは不気味なほど霧が立ち込めており相川は溜息交じりに進む。
「あー……何か良い反応があるんだけどなぁ……今寄り道したら次のループで最初からやり直しになるから行けないんだよねぇ……まぁ良い反応のぶつは扉の術式媒体らしいしそろそろ目的地が近いんだろうけど……」
目の中を金色に光らせながら移動する相川はそう言いつつ進んで行く。この前の霊山での一件を鑑みるにこの霧の中でも外とは違う時間の流れをしているのだろう。相川は急いでいた。
「急いでるんだけどなぁ……この結界、融通利かせてくれないかな……」
ボヤキながらも足を止める事はない。肩に乗っている子猫は怯えて爪を立てているが相川に立てると睨まれるので相川の服、ギリギリまでしか引っかけないという配慮をしている。
そして、ついに相川は目的地に辿り着いた。
金色に薄らと輝きつつ浮遊している両開きの金属製と思わしき扉。現在はその幾多の文字が刻まれている扉を閉じており、何者も近付けないようなオーラを発している。
「おーあったあった。これこれ。」
しかし、相川は化物だ。普通に近づいてまずは目の色を金色から赤色に変えてじっくり扉を観察し、罠がないかどうかを調べる。次に黒の瞳に緑色の文様が浮かぶ目に変えて扉の効用を調べ始めた。
そこで相川は首をかしげることになる。
「……何か、半開き……? しかも向こうからこっちに対する一方通行で……? ここにある魔力はこの前、遊神さんたちが通った時の残滓とかじゃなくて送り続けられてるのか……?」
送り込まれてくる情報を得ながら考察する相川。そして情報を得たところで解析を始める。
「解析眼……ん~……何か変な転移式が混じって……アレ? 何か見覚えのある……」
ぴったりと閉じられている観音開きの金の扉だが、術式的には扉の間にゴミのような何かが挟まっている状態だった。そしてそれは相川にとってよく馴染みのあった魔術構文で……
「……俺をこの場所に飛ばした術式じゃん……あー……だからこの国に俺は飛ばされたのか……ついでにこんな中途半端な捻じ込み方したから変な所から降ってくる羽目になったのか……つーかこの世界からすればあの世界の魔術ってゴミみたいな扱いなんだな……」
相川が使っていた魔術は【失われし言語】による言霊に近いモノだったので特に思い入れのない魔術を見下しながら相川はそれはそうと元の世界に戻る方法を探る。
「……ん~ランダムだよねぇ……正確にあの世界に帰れるって状態じゃないし、そもそも正の魔術式だから俺には使えんなぁ……」
解析をしながら相川は自身をこちらに転移させた方陣は役に立たないので捨て置いて扉の構成を視ていく。扉の魔術構文は非常に簡単で構文自体は相川でも使えるものだがその出力が凄まじく相川では動かすことが出来なさそうだという解析結果が出ると相川は目を元に戻して考え始める。
「……誰が作ったんだこれ……簡潔で読むのには簡単でいいが……必要魔力が多過ぎて俺にはどうしようもないレベルだぞ……?」
それなりの魔力量を自負し、外部から吸収する量もかなり多い方だと思っていた相川だが、この扉を扱うには少なすぎると目を伏せ、そしてゆっくり目を開いて笑った。
「いいねぇ……! これくらい難しくなければ俺が取り組む意味がない。さぁ考えろ考えろ。まず扉を扱うのはこの世界にいる限り俺じゃ無理だな。魔力スポットをある程度遠くでも感知できるくらいの魔力はここで手に入れるとしてもそれでも足りない。やはり10年に1度のアレに便乗するしかない。」
相川はまず大前提の確認をする。そしてその大前提を満たすための条件を考え始めた。
「これだけ大量の正の力を使って開く物だから負の化物である俺が弱い状態で扉を通ろうと思ったら間違いなく死ぬか潜った時点でかなり弱体化するはず。抵抗するための力が肉体的にも精神的にも魔力的にも必要。……まぁやっぱり今後も継続して鍛えなければいけないか。まぁ氣を増強するための補助的な物として肉体があるだけだし最悪死んでもいいが……なるべくリスクは取りたくないから死なないようにはしておかないとな。」
霊体でも通れないことはないが通る際に肉体が死んで霊体で出て行くのと既に肉体がない状態で精神がそのまま扉の力に晒されるのではリスクの大きさが違うのでなるべく死なないように行きたいと頷きつつ相川は肩に乗ってみぃみぃ鳴いている猫の顔の下から手を出して撫でる。
「……こいつは、別世界にも連れて行こう。可愛いから。」
「みっ!? みー! みー!」
「ははは、嫌がるなよ。嫌がったら島ごと食い潰す。」
「にぅ……」
冗談とは思えない目で見据えられて子猫はがっくりと顔を降ろして不貞寝に入った。そう来るなら撫でるのは止めておこうと相川は扉を前に様々なことを確認しつつ搦め手がないか探る。
そこで、余計なことに気付いた。
「……俺をこの世界に飛ばした術式の所為で何か他の扉も半開き……?」
この扉の他にもある同じ術式の様々な扉をリンクさせて調べて行く内に相川はその結論にぶち当たり、そこでこの世界の人間たちが争いをしていることに気付いた。
「……こっちが勝ってるのはいいんだが……ふむ。」
国の勲章を身につける多国籍軍が武術や銃火器を用いて争っている。この国の勲章を付けた者もいるが報道に出ていない辺り秘密裏に行われていることなのだろう。戦況はこちらに傾いており、既に利権問題で揉めているようだ。
「……まぁこの辺は見ても仕方ない。魔力の無駄だし切るか……」
他の扉も大体同じようなものだが繋がっている先の世界は全て違うことを確認した相川は各地方でも魔力を食い潰しに行くと後々楽かななどと考えつつ扉の情報は得たので今度はその媒介に使われている物質を見に戻ることを決め、その道中で今後の予定について修正を入れて行った。
相川が扉を解析し終えるころ。島では既に1月半が過ぎていた。つまり、この島での予定滞在期間の半分が過ぎてしまったということになる。
時間が半数になった時点で生徒たちの生存数は4分の1程度。遊神一門は全員が生き残ってはいるものの当初計画していた樹上生活の為の拠点は予定を大幅に下回り1つしか出来ておらず、その木が折れれば拠点は壊滅という状態になっていた。
更には毛利の負傷により食料は備蓄できるほどの量を確保することも出来ず、その日その日を暮らしていくことがやっとという有様だ。
それでも、奏楽や瑠璃というこの中でも別格の二人はこの島特有のナニカを掴むことに因りエネルギーを切らすこともなく生活することができ、その二人が外で狩猟や採取を行い、拠点にいる者でそれを加工したり生活が豊かになるように様々なことに手を回したりして皆が協力して暮らしている状態にあった。
「……それじゃ、そろそろ日も上がってきたことだし動物たちも少しは大人しくなるだろ……今日は海に行ってくるか。」
「うん。そうだね……じゃあいつものようにボクと奏楽くんで狩りをして麻生田くんが荷物持ち、谷和原くんはお家の雑務で相木ちゃんは毛利君のことお願いね?」
そんな感じで遊神門派は回っていた。