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強者目指して一直線  作者: 枯木人
小学校低学年編
73/254

無人島アライブ

「いやっほぉぉぅっ!」


(……こんなにテンション高い仁、初めて見たよ……ど、どうでもいいけどね……)


 絶交宣言をして既に大嫌いと心を決めていた瑠璃は船の看板で身を乗り出して無人島へ期待を寄せる相川を隠れ見て驚いていた。


「あぁもうじれったいな! 先生! もう飛び込んでいいですか!」

「……船に轢かれるぞ?」

「はっ! 轢かれませんよ!」


 無理矢理連れてきたつもりだった権正が軽く違和感を覚える程相川のテンションが高い。それだけで一部の教員たちが緊張感を持ち、生徒たちの間が険悪になる。

 しかし、相川は愉しそうだった。死んだように黒い目を妖しく光らせながら口の端を吊り上げる。周囲の目もお構いなしだ。


(あぁ……魔素が……! 行き先が扉の島だとは……! 良いバカンスになりそうだ!)


「あー相川? お前、学校を出る前あんなに嫌そうにしてたのにどういった心境の変化があったんだ?」

「え? いや、能力が上がるのが楽しみで楽しみで……あぁ、疾く喰い潰してやらねばなぁ……!」

「そ、そうか……いや、向上心が芽生えたのはいいことだが……島は常識から外れた猛獣が恐ろしいほどいるぞ。今の感情を忘れずにきちんと……」

「それ、全部食っていいんですよね? いや、ダメと言われたら……くすくす。」


 権正がぞっとするほどの異端的な笑みを見せる相川。一瞬だけ戦慄した権正だったが、島が近付いてきたからだと自分の思考を誘導し、相川はまだ島の状態を知らないからだこんな余裕でいられるんだと自信を納得させた。


 そうこうしている内に教員の一人が看板にいる権正に声をかけに来た。


「そろそろ着きますが、これ以上は近付けません。変なフィールドが広がってます。」

「……年々広がってないですか?」

「去年は魔獣狩りをする生徒が少なかったせいかもしれませんな。今年は有望株が揃っているので期待できそうですが……まだ広がるようでしたら権正先生、一度休職していただいてこちらの方へ行ってもらうことになるやもしれません。」

「……その時は、分かっています。」


 そんな会話がある中で相川は涎を垂らしそうになりながら既に船から飛び降りる準備を進めている。本来であれば桟橋に板をかけて移動するのだが、今回はそこまでたどり着けないということで縄梯子が準備されているが相川にはそんなことお構いなしだ。


 しかし、出発前に最後の注意事項があるらしいのでそれには出ておく。


「これから、島に入ることになるが……自らを過信するな。ここにいる猛獣たちはまず想像できる範囲の常識的な生物の形をしていない。そして、諸君よりも強いモノが多く生息している……」


(ったりめーだこんにゃろう。魔素の存在しない世界であれだけ魔素が籠っている地域があるんだ。しかもそれが異世界と繋がる門がある島となればこの世界じゃねぇ化物がいるに決まってるだろ!)


 権正のスピーチで静まり返る中、相川は一応空気を読んで心内だけで反論する。権正のスピーチは続いた。


「しかし、諸君には知恵がある。先人たちの積み重ねてきた研鑽は獣に負けなどしない! 諸君らの成長を祈念し、我々は3か月後、この場所で待とう! では、行くがい「ひゃっほぉぉおおおぉっ!」い……相川ぁ……!」


 終わるか終らないかの時点で相川は看板から飛び降りた。その瞬間、海の中から目が5つもある巨大な魚が飛び出て来て相川を丸呑みにして着水する。その光景を見て権正は天を仰ぎ、生徒たちは絶句した。


 あまりに唐突のことであり、誰の理解も追いつかないまま波の音だけが看板に響く。


「……これが、この島なんだ……全員、気を引き締めるように……」


 静かになった看板で何も言えない人々に変わり教員の一人がそう呟く。その次の瞬間、


 5つ目の巨大な魚の半身が海面に浮かんできたかと思うと少し離れた場所に同じく半身が浮かんできて海が血で染まる。その内の一つの半身の上には中から出てきた相川が着地し、ずぶ濡れになりながらも高笑いを上げている。


「ヒャハハハハハ! 魚から生まれたが別に魚太郎じゃねぇぞ! いや、楽しいね! 皆殺しだぁ! 魔力があれば何でもできる! 【海斷】!」


 文字通り、海を割りそれどころか海底を抉る相川。似合っていないてへぺろを浮かべながら跳躍し、跳ねながら島へと入って行く。その途中で気付いた。


「いっけね、目立ってる☆ あーテステス。仕込みは食事の間に済ませてあるから尤もらしいこじ付けを頼む。思考力が結構下がってるはずだから簡単に信じ込むから。」


 海を跳ね、波の音や潮風の音に負けないようにはっきりとマイク越しに船に残っている共犯者にそう告げて相川は学校の面々が海を割ったことなどの記憶を思い出し辛いようにして、何とか魚を倒して島へと向かったと勝手に補完させるような噂を流すように命じながら島へ乗り込んで行った。


 向かう海岸では、海から上がって来た両生類にも似た姿をして巨大な目を側面と前面に合計3つ持つ不気味な生物を捕食しようと2体の猛獣が睨み合いをしている所だった。


 振るう爪からは斬撃。その体臭は硫黄にも似た猛毒。そんな化物たちが居る場所に相川は着陸したとほぼ同時ににっこり笑って宣言する。


「さぁ、侵略のお時間だ。逃げるか死ぬか選ぶがいい! ただし、逃げ遅れたら当然死刑だがな!」


 新たな獲物が来た。人語を解さない猛獣たちはそれぞれ近い方にいる獲物に向かって飛びつく。しかしそれは大きな誤りだった。その次の瞬間、海岸付近の木々が薙ぎ倒されると同時に多数の動物たちが自らも気付かないままに上下に分けられて動けなくなる。


「……逃げ遅れたので、皆殺し……さぁ、イタダキマスノオジカンダヨォ……?」


 猛獣たちはその異音を聞いて初めて恐怖した。しかし、時すでに遅すぎる。彼らは全身余すところなく絞り尽くされるように魔力を吸収され、捻り切れる寸前まで体を破壊されて海にうち捨てられる末路を辿ることになる。


「あーさっきの魚食えばよかった! 今口がお魚の気分ですわ! アーッハッハッハッハ! 骨も気にせずお腹いっぱい魚食いてぇ! 来たぁっ!」


 うち捨てられた猛獣の血の香を嗅ぎ取ったのか海の浅瀬に巨魚、もしくは海獣と思わしき背びれが見え始める。相川は次の標的を前に舌なめずりして邪悪な炎を燃え盛らせる瞳でその獲物を待った。









 そのころ、船の看板では海の中にいた何かしらの猛獣のお蔭で捕食されながらも奇跡的に助かりはしたものの行方不明になってしまった相川を前に無人島へ尻込みし始めるという状態に陥っていた。

 当然、相川が船旅の間に食事に薬を盛った成果で記憶の改竄がしやすくなっている状態で相川がそういう風に看板に残っているある人物に言うように言っただけで事実は全く異なる。


 その正しい認識をしている人物と言うのが……


「……あの小僧……また何かしたな……!」

「何で皆、仁くんのことを変なく思ってるのかな……ボク、泣きそうになったのに……嫌いだけど!」


 権正、そして瑠璃だった。彼らは苦々しい顔で相川を見送りつつ島でさっそく何か異変が起きているのを見て取り緊張感を持つ。


「……もう、始まってるみたい……行かなきゃ……!」

「遊神、お前は強い。……だが、あの島は異常だ。それだけは肝に銘じて命を第一に考えて生き残ることだけを優先しろよ。……健闘を祈る。」

「はいっ!」


 常に氣を発揮して動物たちと遭遇しないように移動することを心がけるように説明を受け、瑠璃が縄梯子から小舟に移るとそれに負けていられないと奏楽も移動し、遊神門派が全員出陣する。それに伴って半数近くの人物が移動し始めた。しかし、それ以外の人たちは行く気になれずに島から戻る。


 本島に戻る船の中で権正は生徒たちのことを思っていた。




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