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強者目指して一直線  作者: 枯木人
小学校低学年編
72/254

3年生

「……新学期が始まるな。」

「ですね。」

「そこで抱負として今年は少々面倒なことになっているのを解消したいと思う。」


 洞窟から帰還後の激闘の後、大怪我を負ったものの致命傷や欠損などはなかったクロエは神化によって1週間もすれば完全回復し、その後二人が過ごす家を片付けて新学期を迎えていた。


「どうしました?」

「……何か、去年の鍛錬遠足で知ったが……俺、怖い人だと思われてるらしい。」

「……それが何か?」


 クロエ的に怖い人どころか明らかにヤバい化物と思われていても当然だと思ったがそれは口に出さずに相川の話の続きを促す。相川は言った。


「いや、俺目立つの嫌なんだけど。悪目立ちもしたくない。」

「……今更、ですか?」

「はぁ? 俺、結構自重して生きてるんだぞ?」


(これで自重してるなら自重してなかったらどうなるんだろ……)


 相川の言葉への反論は勿論口には出さないクロエ。クロエ自体もかなり変人になっているがそれには目を瞑っているのでクロエも何も言えないのだ。


「……今はまだアレだ。自称情報通みたいな奴らの噂話と脅された張本人たちが緊張感を持ってるだけで変な奴がいるという噂くらいで済んでる。その候補に俺が居るくらいで済まされてるんだが……」

「それくらいなら、仕方ないんじゃないですか? 師匠強いのにDクラス不自然ですから。」

「……お前もだろ。まぁDクラスの授業が一番楽だし、大体家建てただけじゃなくてもうこの場所に薬草毒草どっちも根付かせたからもう移動するのが面倒。」

「でも、Dクラスなのに特Aクラス担任の権正先生に呼び出されたら不思議思われる仕方ないです。」


 相川は頷いた。


「大体あいつが悪いよな。霊氣を喰ったお蔭でもう走り込まなくてもエネルギーならあるというのに構ってくるし……俺はエネルギーを溜められるようになりたいのであって武術を修めたいわけじゃないっての……あーしかも品行方正で無駄に強いから弱みもない……」


 相川は溜息をついた。


「別に誰に何と思われようとも気にはしないんだが視線が多いと殺したくなるから止めて欲しいよね。」

「……よくわからないですけど、それでどうするんですか?」


 そう言うことを考える辺りが危ない人だと思われる原因であるのだが、クロエはその近付き難さが相川を独占できる要因であるので進んで直そうとはせずに相川の考えを探る。


「そうだな。俺が危険とか変な噂を流しているのはどうやらクラブ活動でのことらしい。情報の少ない下級生たちに対して上級生が安全を確保するために指導をしているということだ。」

「そうなんですか……それで、どうされるんですか?」

「そこにいる上級生たちに俺は危険じゃないように言っておけと脅しておいた。」


 それってダメなんじゃ……クロエはそう思ったが時すでに遅し。この日のクラブ活動紹介の際に壇上で名指しで相川は危険じゃないと宣誓した少々考えの足りない生徒のお蔭で相川は謎の人物として一部の危機意識の高い生徒たち、及びDクラスの新入生たちに警戒されることになった。









 そして3年生の前期の履修案内が終わったところで相川とクロエは自宅に戻る。両者ともに微妙な顔をしていた。そして家に着き、昼食の準備が整って席に着いたところで会話が再び始まる。


「……あのバカめ。帰って半日は笑い転げる薬を処方したが……気が済まんな。まぁそれよりも現在の問題はこの紙切れ……」


 相川が持っているのは特Aクラス特別合宿案内。しかも相川だけ強制参加だった。大量の単位が取得できる代わりに3ヶ月特殊な環境におかれた無人島でサバイバルを行うらしい。

 収穫が終わった時期ならまだしも世話が必要なこの時期にそんなことをやった場合折角植えている薬草や毒草、また木々たちの世話が出来なくなってしまうと相川は嫌な顔をしていた。


 それに対してクロエが困っているのは別の問題だ。


「私も困ったです……上級生昇格テスト……3年生の間に受けるモノでしたが、今年やっと単位が到達したので受けられて嬉しいデスが。Dクラスのじゃなくて何故か特Aクラスのになってます……」


 4年生、上級生の仲間入りを果たす予定だったが、1年生の時に言葉が通じずに単位を殆ど取得できていなかったクロエは半期ほど遅れてのテストを受けることになっている。しかし、それが彼女が所属しているクラスのレベルの物ではなく露骨にがっかりしていた。尤も、単位はその分多目に出るのでこれをクリアできれば半期分の遅れも取り戻せるというメリットもあるのだが。


「……妙な特別扱いは止めてほしいんだが……畜生め……」


 おろし野菜のタレで豚肉と玉葱の炒め物を食べる両者は今期の予定を狂わされて嫌な顔をしている。しかし、決められたことはどうしようもないのですぐに頭の中で明日の必要リスト作成の準備に取り掛かった。


「武器の持ち込みは一般社会で不自然に思われない程度か……具体的な説明が皆無過ぎて困るな。クロエ、ここの庭の植物たちの世話を1日300円でやってくれない?」

「タダで良いですよー私、お庭を弄るの好きですからー」


 クロエは嘘をついた。相川の役に立てるアピールと趣味が似てますねアピールの為だ。しかし、相川の方は無報酬で仕事を頼む方がリスクが高いと首を振る。


「分かった。500円出すからちゃんとやってくれ。」

「むー心配性ですね~……お金要らないですのに。」


 信頼してくれないのにクロエは腹を立てるがまだ、そこまで行けていないだけと考え直して次に生かすために現状把握だけで済ませておく。


「つーか、明日から出発って結構ふざけてるよなぁ……食料の持ち込みは原則不可か。持ち込める物は手荷物として不自然でない程度……漠然とし過ぎだっての……これなら地方を落とせるくらいの重装備出来るんだが……まぁ常にやってるからいいか。」

「師匠、私師匠がいない間に試練クリアしないとダメみたいです……アドバイスお願いします。」

「……いや、行ったことないから知らん……ただまぁ常に氣を使って周囲を見た方が良い。特に頭上なんかは無防備に近い奴が多いからな。」

「おぉ、流石です師匠!」


 特段変わったことは言っていないのだがと思いつつ相川は脳内で明日の準備をしながら権正を恨んだ。どう見ても、そして確認をとっても権正の仕業だった。


(あの野郎……本っ当に俺を目の仇にしてやがるな……だったら退学させろって言うのにそれも認めん……本当に何がしたいんだ奴は……)


 相川は基本的に自分は嫌われているという思考をベースに考えるので権正が相川に期待をしているなどとは一切考えない。普通に嫌われているから嫌がらせをされているとしか捉えることが出来ないのだ。


「……まぁせめてもの救いは無人島に着いたら自由行動ってことか……遊神門派の奴らが勢ぞろいしてる中に入るなんざ罰ゲームにも程があったところだしまぁその点だけは、マシだ。」

「皆さん、行くですか。」


 この学園に入ってから動機はどうであれ実力はかなり伸びた遊神門派生たちは入学当初CクラスやBクラスだった者たちも既に特Aクラスに入っている。今年からこの学園に入って来た瑠璃の妹であり、呪いの申し子である茜音あかねも特Aクラスだ。


 そのことを思い出すと相川は微妙な顔になる。


(茜音、とか言ったよなあの小娘……アレはもう結構呪いが進行して来てるなぁ……俺と居ても存在が確定しているくらいは……身近に何かしら多大なストレスを抱えてる奴がいるんだろうが……遊神家の闇は深いね。どうでもいいけど。)


 すでに絶縁傾向にあるのでこの無人島でのつまらないサバイバルを乗り越えればしばらくはまた一切の関わり合いを持つことはないと思いながら相川は食事を終えて実際に準備に入った。


 しかし、無人島が近付いた時点で相川の考えは覆されることになる。




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