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強者目指して一直線  作者: 枯木人
小学校低学年編
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霊氣の洞窟

「はっ……はっ……行けた!」

「……走り込みがまだ足りていないようだな。お前ならこの程度、息を荒げることなく走るくらいの能力はあるはずだ。まぁその辺は補習で補うからここは大人しく捕まっておくんだな。」


 バテバテの相川に対して余裕綽々と言った態で後ろを走っていた権正。辿り着いた先は靄が漂っていながらも日の差しこむ袋小路の洞窟であり、相川に逃げ場はない。しかし、その無愛想ながら端正な顔は相川の次の一手によって表情に異変が生じることになる。


「霊仙氣大発勁!」


 キーとなる言葉を発したその次の瞬間に小声で【消命】を発動し、自らの気配を掻き消す相川。すると権正はその刀剣のような冷たい美しさを持つ顔に微笑を浮かべた。


「ふっ……氣当たりによる攪乱か……俺も若い頃はよく使ったものだ……だがな、戦い続けることで本質を察知できるようになるんだぞ? まぁこれは補習の最後の方で学んでもらうことになるが……はっ!」


 陽光が差し込む子ども一人がやっと通れそうな岩盤の穴に権正は猛烈な踏込による跳躍の力を込めた拳の一撃を叩きこみ、岩を破壊し穴をこじ開け地上へと出て行く。


「……ふっ……隠れたか。まぁ方角に見当は付いている。逃げ切れると思うなよ……」


 音もなく着地した権正はそのまま洞窟の上から消えて行った。それを見送って相川はようやく溜息をつく。


「はぁ……マジ化物かよあれ……無駄な魔力使わせないで欲しいよ本っ当に……まぁ、この場に漂う霊氣を取り込めたらお釣りどころじゃないけど……」


 洞窟が崩落したら最悪魔力を使い果たして二度と戻れない羽目になっていたかもしれないと思いつつ相川は洞窟の中から霊氣に紛れて姿を現す。そして逃げて行く霊氣に緩やかに蓋をするように洞窟に栓をして吐出した岩盤の一部に腰かけた。


「……これで呼んだ? とか言いながら洞窟の壁をぶっ壊して権正先生が現れたらマジもう恐怖だわ……そんなことはいい。霊氣を取り込み始めるかね……」

「ししょーここですか?」

「っ! ……びっくりした。権正さんかと……驚かせんなクロエ……」

「ししょー!」


 声が反響する中で相川が焦りつつクロエを招くとクロエは笑顔でひしっと抱き着いて来た。相川はそれを抱き止めるとすぐにクロエが来た痕跡を消しに戻るように命じ、そしてクロエの体を変質させるための準備に取り掛かる。


 クロエが戻ってきたところで相川はふと気になったことを尋ねた。


「……それで、どうして俺がこの場所にいることが分かった? 俺が想定している理由ならいいんだがそれ以外の場合はすぐに逃げるんだが……」

「何か、この場所は胸が高鳴るデス。それで何か行きたいなりました。それで来ました。不思議でしたが居ると思いました。」

「……ふむ。まぁそれなら俺の想定してる理由だからいいな。要するに霊氣を何となくでも感じられるようになったってことだから。それなりに俺と一緒にいる期間が長いとあり得るだろうな。」


 相川は黙って仮説証明の実験が成功したと心内で笑っておく。そしてこれから行う実験もクロエには伝えていないが相川からすれば大事な実験だ。


「さ、て、と……じゃあ始めようか。」

「何ですか?」

「何もしないことを始める。少なくともこれから10日は何もしないこと。」

「……え?」


 相川の言葉にクロエは困惑した表情になり聞き間違えかと再発言を促した。そこで帰って来たのは最初の発言よりも厳しい言葉だった。


「トレーニングも食事も……まぁ最初は慣れないだろうから水は飲んでいいよ。まぁ1週間後にはダメにするけど。行動を殆ど禁止。」

「え? ご飯食べちゃダメですか? お水もダメですか?」

「……駄目だねぇ。……まぁ最初は飲み水の中に必須栄養素くらいは入れてやってもいいが……」

「そ、それでどうやって神化できるですか!?」


 声を大きく上げるクロエはすぐに相川に睨まれてしゅんとする。自分で考えろというニュアンスを捉えたクロエは嫌そうに相川の隣にある平たい岩盤に正座して目を閉じ、瞑想を開始した。


(……相川、何考えてるんだろう……というより私はここでどれくらい瞑想すればいいのかな……?)


 将来のことを考えながら瞑想を開始したクロエは瞑想と言うのに俗世への意識を捨てずに相川の方を薄目で覗き見て、しばらく見続けると思わず目を見開いて相川を揺さぶり始めた。


「ししょー!? ししょー!?」

「……んだよ。入ったばっかりで……!」

「息止まってたありましたよ!」

「だから何もしないことを始めるって言ってただろうが……! 何を聞いてたんだお前は……さっさと戻って座禅してろ! お前にはまだ呼吸するなとか言わないから!」


 慌てるクロエに対して苛立った様子の相川。普通に考えて死んでるのではないかと焦って軽く泣きそうになっていたクロエはもう何が何だか分からずに言われるがまま元の位置に戻って正座した。


 そして瞑想を始めるクロエ。周囲に静寂が舞い降り自分の呼吸音だけが洞窟内に響いている。辺りにはよく分からないが謎の気配が薄く漂っており決して気分のいいものではないがその気配が恐らくこの場所にいかなる動物も寄せ付けないのだろうと解釈しながらクロエは自らの内面を鑑みながら禅を組んだ。


(あぅ、お腹きゅるきゅる言ってます……相川に聞かれてないかな……? ……というより相川本当に大丈夫なのかな……? 死んでないよね……?)


 お弁当を消化する自分の腹部の音で思考が散らされるクロエ。相川の方に意識を向けると、クロエは不思議な感覚に陥り始める。


(いる、ですよね……? 薄くなってる……? 大丈夫……?)


 相川の気配が薄れて来始めてクロエはそれが気になり相川の周囲をうろつき始める。しかし、今度は相川は反応せずにじっと微動だにしない状態で固まっていた。


「し、ししょー……? 大丈夫、デスか……?」


 返事はない。


「ちゃんと、生きてるでしょうか? 気配、薄れて心配です。」


 若干眉と口角の一部が動いた。どうやら不快感を覚えているようだ。クロエは反省して動くのを止めて再び正座に戻る。しかしどうにも相川のことが気になってしまう。そのため意識をちらちら向けては確認するクロエ。そんな状況がしばらく続くことでいい加減相川の方も気になって来た。


「……あのさぁ……」

「はいっ!」


 リードを持った飼い主に声をかけられた子犬のような動きで相川が口を開いたことに反応するクロエ。そんな彼女に相川は氣を散らしたまま微動だにせずに告げた。


「俺のことが気になるならこの土砂の上を通って洞窟の向こう側で瞑想しなよ。幸か不幸か権正先生がアホなことしてくれたおかげで多少分断されてるからよ。」

「……でも。」

「両方ともの鍛錬の妨げになってるからそうした方が良い。早く。」

「はい……」


 乙女心の分からない人だと思いながら不承不承クロエは恐ろしく軽やかな動作で土砂を殆ど崩すこともなく洞窟の向こう側に移動した。そしてなるべく相川に近い位置に……と考えて何故か何となく非常に薄い気配のはずの相川のいる位置を察せることに気付いて驚く。


(……凄い! これが、神化の始まり……?)


 そう言えば感覚がいつもよりか鋭敏になっている気もする。


(……なら、身体の方も動かして! ……たら、多分怒られるからちょこっとだけインナーを鍛えるためにアイソメトリックくらいしてみよう! わぉ! 私ってもしかしたら天才かも! すぐに習得して相川を驚かせる!)


 思い付いたらすぐ実行とばかりにクロエは体を動かさず固定してインナーマッスルを鍛えるトレーニングをしてから瞑想に入った。


 そして相川から水を支給される以外にはそんな生活がしばらく続くことになる。




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