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強者目指して一直線  作者: 枯木人
小学校低学年編
62/254

決別

 夕食後、無人島の宿泊施設では戦闘が行われていた……


「ここで退いたら男が廃る! 全軍突貫!」

「お前らはバカか……本っ当に……」

「うるせー! モテ男には分からねぇんだこの恨み! 去年のバレンタインの恨みを喰らえ!」


 何をしているのか。端的に言えば、女子が入る時間帯の大浴場に男子生徒が大挙しているのだ。それに対してモラルのある男子たち。また、女子生徒の一部が応戦している。


「奏楽は俺と彰で抑える! 皆進め!」

「……麻生田、お前もうちょっと考えて行動しろよ……」

「うるせー!」


 奏楽の忠告も耳に入れず、バーサーク状態の麻生田は奏楽に殴りかかる。それを軽く躱し、大人しくしてもらおうと拳を固めたその先で毛利の鋭い前蹴りに遭遇して飛び退く。


「……お前らさ、そう言う連携は稽古の時にやれよ……」


 奏楽の呆れた声が廊下に響くが、それも次第に戦闘音の中に掻き消されて行った。











 月明かりが照らす闇夜の道。


 煌々と光る満月が夜空に幾つもの光の槍を振り降ろしている中で相川は周囲の気配を辿り呟いた。


「……よし、撒いたな。馬鹿どもを煽った甲斐はあった。」


 男子生徒を煽るために瑠璃の写真やクロエの写真。また弱み等で一部を軽く脅迫し、均衡状態をある程度生み出して今回の騒動を扇動した黒幕はそう言って頷き殺していた気配をある程度緩め、今度は動くために氣を運用する。


 目指す場所は昼間の海岸。道は分からないが場所は魔素を探れば分かる。その為、程なくして目的地に辿り着いた。



 底の見えない暗い海は盆が近く、普通は高波であるはずなのに異様なほどに凪いでいた。そんな恐ろしさを感じさせると同時にどこか高揚感を与えるその海の中に微妙に流されながらも残っている道。相川はその最先端まで行こうとしてその前に止まる。


「……ここから先は何かが氣を張ってるな……チッここからだと微妙に遠いが仕方あるまい……指向性を持たせることで内部を確認しようかね……さて、この前殺した奴の情報が本当なら……行けるが。無駄にならないと良いが……【魔力糸】」


 以前よく使用していた時より遥かに酷い倦怠感を覚えつつ相川は月の光と風の流れ、魔素の揺蕩い方などに半分だけ【魔力糸】を任せながら操作していく。夏の夜。相当な集中をしている相川の額には既に玉のような汗が浮かび始めていた。

 しかし、それらを気に留める事もなく瞑目して探り続ける相川。海水ではなく自らの汗で内部から服が体に張り付くがそれすら気にしていられない。


 そして、10分が過ぎた頃。彼はこの場所に来た目的を達成し、目を開けて立ち上がった。


「……ありやがった。クック……アーッハッハッハッハッハ! じゃあもうこの世界に永住することは考えなくていいな! さよなら人付き合い! ……まぁそれはいいとして、扉が開くな……ちょうどいい。視てみるかね……」


 高揚する気分を落ち着けてふたたびその場に座り瞑目して禅を組む相川。その場にいるのは3人のようで、中には見知った顔がいた。


「ほぉ、やっぱり遊神さんか……まぁ一応、戦闘力においては目標みたいにしてた人だしまぁ凄いだろうけど……もうこの世界から出れるとなれば方向性が違うからどうでもいいな。後なんか知らないけどバトってたおっさん……険悪な雰囲気の割に普通に並んで……誰だ?」


 周囲に人の気配を感じた相川はすぐに【魔力糸】などを戻してゆらりと立ち上がり、臨戦態勢を取って背後を振り向く。そこにいたのは所在なさ気な顔でこちらに近付いて来る瑠璃だった。


「……何の用だ?」


 相川は警戒してそう尋ねる。特に、現在扉に向かっている彼女の父親を見た後だ。何か話を聞いておりその邪魔と相川のことを判断している恐れがある。その場合、瑠璃と戦うのであれば魔力を使って五分というところだろう。

 しかし、瑠璃の方は警戒された声に軽く身を竦ませており、どうやら氣から判断しても戦闘の意思はないように思われる。それでも相川は油断せずに口を開いた。


「何でここに「ボクも聞きたい。何で、こんな所に居るの?」」


 相川の詰問のような口調に瑠璃も顔を上げて尋ね返してきた。質問を質問で返されたが、相川は一応当たり障りのない範囲で再び顔を俯かせている瑠璃に応える。


「……俺は用があった。それでそっちは?」

「ボクは……何か、お風呂場の前が騒がしくて色々あったから仁くんを探しに来た……」

「そうか。」


 二人の間に舞い降りる沈黙。辺りは波の音と潮風の音だけが聞こえる。それを裂くように聞き取りやすいソプラノの声で瑠璃が相川の目を見て言った。


「……この世界から出て行くって、何? どういう意味なの?」

「どういう? そのままの意味だが。」

「それじゃわからないから訊いてるの!」


 いや、分からないが想像はつく。ただ、その想像を否定されたいのだ。そんな瑠璃の心情を知ってか知らずか相川は困ったような顔に一瞬なった。


「……説明するにも俺の考えがあってるかどうかわかんねぇしなぁ……もう少し研究してからじゃないとあんまり説明したくないが……ある程度の仮説で良いなら答えるが……あぁ、ちょっと論点からズレてたな。悪い悪い……えぇと、問いはこの世界から俺が出て行くと言う意味についてだったな。」


 すぐに笑った相川はその日、朝練が終わってから昼にまた会った時の挨拶のような気軽さで告げる。


「簡単に言ったら俺はこの世界から消えるってこと。この世界って言うのはあなたが知覚しているこの地から知覚していないが存在を知っている国、星、そして宇宙全体。それら全ての枠組みの外へ俺が出て行くということ。分かった?」

「……何で。」

「昼間言ったじゃん。魔術は便利って。……この世界にはないからね。」

「……ボクは、どうするの……?」

「いや、それは知らん…………あ、俺が出て行くからってこの世界に影響はないよ? 寧ろ、よくなるんじゃないかね? 知らないけど。」


 そんなことを聞きたかったわけじゃない。何で相川は笑ってるんだ。


「……ボクと約束したよね? ずっと一緒って……」

「はぁ? そんなのした覚えないけど?」

「………………した。ボクのこと、置いてかないって、言った。」

「言ってないね。そもそも、俺はあの幼稚園から出て行きたかったし、その時点で引っ越す気満々だったぞ。それにこの小学校なんて受かる気もなかったのに落ちなくてエスカレーター式に連れて来られただけだ。そこに瑠璃さんの言動心情なんかは一切配慮したくなかった。」

「…………なんでそんな酷いこと言うの?」


 既に瑠璃の顔は俯いており、相川のことなど見ていない。相川はそんな状態にお構いなしに告げた。


「だって、赤の他人だし。どうせ忘れるだろうからね。便利くんが最後に調子に乗ってたくらいは覚えてるかも知れないけど。」

「……! そー……仁くんはそう思ってたんだ。へー……じゃあ、ボクだってそう思うし……」


 急速な敵意を抱きつつ相川の方へ向き直る瑠璃。いよいよ戦闘かと相川が薄く笑みを浮かべて瑠璃から見て構えとも言えない妙な構えになる中で瑠璃は相川を睨みながら声高に告げる。


「赤の他人さん! 謝るなら今の内だよ……! ボクだって怒るんだからね……! 今日のは本当に頭に来たよ! 『俺が間違えてましたずっと一緒にいさせてください』ってお願いしないならもう無視する!」

「……何か脅し文句が可愛いんだけど。えぇと、まぁそれはどうでもいいな……で、無視するなら好都合ってところだから……はい、じゃあね。もう話しかけて来ない方が良いよ? 俺と話してると学校でのあなたのイメージ下がるし……」

「もういい!」


 荒々しく砂浜を踏みつけると踵を返して瑠璃は去って行った。それを見送った後、攻撃される恐れがないと判断した相川は魔素が封じ込められている島について更に詳しく調べることに没頭し始めた。




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