問いかけます
「なっ……ぁ……?」
「……さて、もう一回だけ質問する。その次からは尋問で、更に拷問に続いて最後は殺してから無理やり魂を弄って答えさせるが……あまり手間をかけて欲しくないからさっさとお願いね?」
無邪気な子どもの笑顔……ではなく、邪気に溢れた悪意の笑顔で相川は地面に縫い付けられている老人の下へと近づいてその頭を足蹴にして尋ねる。
「……因みに先に言っておくが……魔素があるこの空間において俺に嘘は通じない。無駄な手間を増やしたら君の同志たちを無意味に殺して行こうかな? ……こんな風に!」
笑顔で相川は手近にいた信徒と思わしき女性を撃ち殺して笑顔でその魂を食い潰す。その一連を見て老人が唾棄する表情で相川を睨みつける。
「悪魔め!」
「そんなこと言って欲しいんじゃないんだよね。さっさと問いに答えて? 無駄口叩くから指一本は落とそうか。」
宣言する前に落とした相川は一切笑っていない目で老人に同じ問いをする。それに対して老人は一瞬だけ顔を伏せ老獪な笑みを浮かべると次の瞬間には義憤に燃えるかのような目をして顔を跳ね上げ、傲然と言い放った。
「敬虔なる信徒である私は悪魔に負けることなどない……! この程度の縛めなど!」
「あー霊化しようとしてるけど無駄無駄。気付いてないの? 半霊だったら拷問が面倒だから生身にしてあるよ。で、また面倒な手間を増やしやがったから罰ゲームね。はい死刑。」
近くから絶叫が響き、老人が睨み殺さんばかりの視線を相川に向けつつ低く唸るように告げる。
「何の罪も無き無垢なる我が同胞を良くも……!」
「はぁ? 新藤家への性的交渉を餌にしてカルト集団を広め、挙句の果てには詐欺に誘拐までしてるお前らが何の罪もない? 笑えるねぇ……」
老人の言葉に相川は嘲笑の笑みを浮かべながら足に力を入れる。老人は何を言っているのか分からないと言う態でそれに応じた。
「何の話だ? 貴様が殺したのは一般より帰依した……」
「さっき殺した奴はある家族の直々の依頼でね。そんな感じの依頼は数件あるんだが今のは夫に黙って家財道具に資産を売っ払って彼の社会的信頼をぶち壊し、仕事を奪い、貯蓄も全部教団につぎ込んだ。このせいで自分も次女も学校に行く金がなくなった。そして大学進学を目前としていた長女は高校を中退し次女の為に風俗業を営むことになる……この元凶というとんだ屑だ。挙句に娘が集めたその金すらをもこの教団につぎ込んだらしい。」
相川は溜息をついて老人から足をおろし、芝居がかった動きで肩を竦める。
「で、夫は娘に申し訳ないと自殺して保険金を下ろし……まぁこの時点で俺的にこの父子馬鹿だなぁと思うんだけどさらに馬鹿なことにその金の管理もなってなくてこのゴミ屑に盗まれ……ま、あんまり言うと依頼者の個人情報に抵触するからここまでで。」
そこまで言っておきながら相川は話を切って死体の方へ向かうとそれを蹴り飛ばし踏みつけた。
「あの世で夫に詫びな。まぁ魂ごと食い潰すからあの世にも行けないけどね~……これで一先ず依頼の肝は終わったな。後はこれを教団が儀式と称する集団自殺で死んだように見せれば終了っと。」
相川は死体を工作し、そして無力感に苛ませることで老人の精神を弱らせるために意図的に無視して拘束していた人々を選別にかけ始める。
「んー……これはダメ。これもダメ。こいつも死ね。これも潰して……おっ、君は逃げていいよ。記憶は奪うけど。」
解放された瞬間に悲鳴を上げて逃げようとする男の襟首を捕まえて無理矢理頭を掴み眼を見せて昏倒させると相川はそれを廊下に投げ捨てておく。その他数十名ほど投げ捨て、同数程度殺した。
その間、老人の恨めしそうな顔と怨嗟の声、睨み殺さんばかりの視線をほとんど無視し、時折せせら笑いながら作業をしていた相川は終わったところで血を消して老人の方へと移動し、再び頭を足蹴にする。
「ごめん、待った?」
「悪魔が! 畜生にも劣る人非人! 貴様に人の心はないのか! 殺戮狂め!」
「自分で悪魔だの人非人だの言っておきながら人の心を要求するのか? ボケてんの?」
「んぅ……仁くん……」
老人の怒鳴り声で瑠璃が微妙に目を覚ましたらしく、相川を探して移動して来た。ご機嫌な相川はそれを老人の頭を踏み躙りながら笑顔で迎える。
「おー瑠璃さん元気? 俺は今超元気だけど。」
「よかったね……ボク、ねむぁい……ふぁ……だっこぉ~……」
「後でな。」
「ん……」
瑠璃の黒絹のような髪を撫でて誰かの返り血がかかっているのでこれはいけないと血を消す。その一部始終を眺めていた老人が顔面を驚愕の色に染め上げる。
「まさか……本物の異能力者……?」
「……個人的にはこっちが本業の能力なんだけどね。異能は氣とかの方だよ。つーか今更? さっきから結構不思議なことしてたと思うんだが……」
「バカな……貴様、その歳で名人になり、扉を……?」
瞬間、相川の目が妖しく光り口の端が吊り上る。
「そう、その情報が欲しかった。さぁ話せ……!」
「誰が言うがぁっ!」
「言えっつってんだろ……! 頭蓋をかち割って弄るのは面倒なんだよ……!」
頭を踏み抜き、振動だけを通した相川は靴の踵の凹みにもう片方の靴の爪先を軽くぶつけて刃のギミックを出し、老人の眼前に突き付ける。沈黙が降りると相川は蟀谷に切っ先を浅く刺し込んで横に動かし始めた。
「ぎぃぃいがぁぁぁっ!」
「お、お爺様を放せ!」
「……ん?」
絶叫を上げる老人と拷問を開始した相川の近くから幼い女の子の声がする。相川がそちらを見ると瑠璃をこの場所に連れて来た新藤姉妹が相川に割五鈷杵の2又の方を突き付けて威嚇していた。
「……あぁ、瑠璃の友達だっけ? 最近通過儀礼とか称して児ポに抵触することをさせられた……何か知ってる情報ない?」
「お前なんかに言うことなんかない!」
「あっそ……あぁ、それ以上武器をこちらに向けたまま近付いた場合は敵対行為とみなして正当防衛で殺すから。」
そう言って興味なさ気に老人の頭部をひっくり返す作業に戻ろうとし始めた相川。それを好機と見た姉妹は無言で相川に襲い掛かる!
「……ま、初犯だし……取り敢えずは致命傷程度で。次は問答無用で殺すから。早く手当てしてもらいに逃げると良いよ。」
軽い言葉とは対照的に深々と少女たちの腹部を貫く黒槍。それは相川の髪だった。硬質化したそれが少女たちから引き抜かれて鮮血をまき散らした瞬間。老人が悲痛に叫んだ。
「止めろ! 言う……! お前の問いに答える! その子たちを手にかけるな!」
「お、そう? 外道な真似してる割に身内には甘いのな。手間が省けてよかった。じゃ、まず最初に訊くけど……あんたらにとって異能というこんな感じの能力はどうやったら手に入る?」
人を殺しておきながら平然とし、死臭の酷い室内でも笑顔の相川。老人は既に能力を持ちながらそれを聞いてどうするのか訝しみながら頭痛に苛まれつつ答える。
「扉だ……名人。武術家の最高位になった時、10年に一度だが全世界の最高神、【原神】様の懐刀としてこの世界ではない別の場所に向かうことがある……嘘ではない。その際に、得られる者と得られない者がいるが……私は偶然ながら一度名人入りを果たし、その時に外の世界に行くことで異能を得、これまで生き永らえておった……」
それを聞いた瞬間、相川は哄笑した。
「アッハッハ! マジかよ。これで一気にぬるゲーになったわ。……一応訊くが、その周期的な日時と扉の場所は?」
「儂が行ったのは、この国の南方にある島だった。詳しくは知らぬ……時期についてはこれまでと同様であれば来年がその10年目に当たるはずだ……」
「上出来上出来。魔力が戻って探知できるようになった今だから分かるが……魔素が漂ってる箇所が幾つかあるみたいだからねぇ……残り香みたいなもんだろ。そうだね……全部集めれば簡単に飛べそうだ……ま、来年は無理そうだから様子見で。」
満足気に頷く相川。その他にも幾つか質問した後、相川は老人から足を離して煌々と燃えていた燭台を倒して部屋に火を放つ。
「な、何を!」
「ん? いや、俺は一般の青少年だから前科とかがあると困るしね……証拠隠滅。いや~……にしても、魔力が戻るっていいねぇ……こんな適当にやっても帳尻合わせるのが楽なんだよ……ほら。」
この空間にあった何らかの力が消失し、火の回りが早くなる。老人は怒声を上げて相川を罵りつつもがき始める。しかし、何もないのに身体は微動だにしない。
「さ、て、と……口座と帳簿は既に流出させてある……脅迫に使っていた弱みもきちんと保存して俺も使えるようにした……まぁ押収させる分は別にあるが……元信徒たちの記憶も内部分裂の抗争に書き換えた……後やることは何かあるかね……?」
瑠璃を俵のように抱え、比較的罪のない信徒たちや無辜の民を縄でまとめて雑に引き摺りつつ外に向かう相川。そのついでに少し考えを変えた。
「……ま、今の俺はご機嫌だから瑠璃のお友達も持って行ってあげますか……近所や世間の白い目に晒されながら生きると良いよ~」
今回の一件が甚く満足いく結果だった相川はそう言いつつ貫いた腹部を適当に治し、思いのほか魔力の流出が大きかったと理不尽に二人を蹴りつつ建物を後にした。