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強者目指して一直線  作者: 枯木人
小学校低学年編
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運動会

 入学が終わり慌てていた子どもたちもゴールデンウィークでそれを立て直し、子どもたちが学校に適応出来た頃。


 5月末から6月上旬にかけてクラスや人々の交流を深め、結束を作ると言う名の下に行われる日ノ本の国特有の学校行事、運動会が開かれる時期がやって来た。


「チッ……運動会の練習で1年の前期の単位がかなり取れるから仕方ない……」

「今年は、楽しみデス!」


 学校中の腫物として認識され、避けられている相川の下へも当然その届はやって来ていた。組分けとしては活神拳の白組と殺神拳の黒組に分かれるのだが、相川はどちらでもないので組分けから考える必要がある。


「クロエは……まぁ俺が教えてるし俺と同じ組になるのか……」

「ハイありマス!」


 相川の知人的には活神拳が多いが、特に仲がいいという訳でもないし不殺を押し付けられても困る。面倒だったら相川は普通に殺しも推奨する派なのだ。

 しかし、殺神拳の方に入るかと言われたらそれはそれで微妙だ。敵を全て殺す必要はない。生け捕りできるなら生け捕りの方が色々と使い道はあると思うし、ある程度張り合いがないと面白くないので全滅させるのもどうかと思うのだ。


「極端で面倒臭いなぁ……白黒つけずに灰色でもいいじゃねぇか……」

「どっちするありマスか? ししょー」

「そーだなぁ……この紙を上に投げて落下した後に表だったら白で裏だったら黒にするか……」


 クロエが相川の発言に頷いて紙を宙に舞わせるとそれは果たして裏になった。


「じゃ、殺神拳ということで。」

「了解ありマス!」


 この後、二人は瑠璃に滅茶苦茶怒られた。









 運動会といっても相川がやることは殆どない。全体としては様々な競技が行われる上、プログラムの流れと移動場所を把握するために事前準備があるが相川は……いやDクラスの殆どは身体能力と頭脳レベル的に競技から外され、全体競技すら端の方に追いやられる始末だ。


「ふぁ……あ~……眠いねぇ……」


 Dクラスの例外であるクロエが協議に出掛けている間に相川は微睡む。周囲から見下しの視線が浴びせられるDクラスの特別席だが相川の方だけは誰も見ようとはしない。そんな中で現在行われているプログラムである2人3脚を眺めつつ相川は色んなことを考えていた。


「にしても……重量挙げが小学生の運動会って普通なのかね……俺の知ってる情報と大分違う気がするんだがその辺どうなんだろ……」


 グラウンドでは白チームである瑠璃と奏楽が息を合わせて走っており、他の1年生を圧倒して1着ゴールしていた。その近くで大量の重りが搬入されている。


「……あ~……ぉ?」


 それにしてもいい天気だなと欠伸をしていると不意に近づいてくる気配がして、相川はそちらの方を向く。そこにいたのは遊神道場『飛燕山』御一行だった。その中でも最初に口を開いたのが麻生田だ。


「おい相川! お前何で競技に出ねーんだ!」

「出てるぞ……ダンスとか。」

「50メートル走、瑠璃さんに聞くには君はかなり速かったはずだが?」

「俺より速い奴はたくさんいるぞ。つーか白組。黒組の所に来るっていい度胸だなぁ……」


 何やら相川を運動会に引き摺り下ろしたいらしい一向に相川は意味深に嗤いかけると周囲が俄かに殺気付いて注意の環が狭まる。それを敏感に察知したらしい麻生田が舌打ちをした。


「卑怯な……テメーで堂々と戦いやがれ! 負けんのが怖いのか!」

「……俺が出なくても勝つしなぁ……それこそ以前みたいにお前ら気付いたら勝手に負けてるし……」


 2人3脚の前の協議が終わってこちらに戻ってくるクロエのことを見ながらそう返すと麻生田は顔を真っ赤にして攻撃モーションに入るが周囲に止められて白組の応援ベンチへと戻って行った。


「どうした、デス?」

「ん~? 何か絡まれてただけだ……それよりダンスもパスする代わりに挑戦状の原稿を書かないといけないんだよなぁ……」


 運動会の開会式の際に行われる挑戦状と応戦状の読み合い。去年の例文がどうにも中二のようで相川は微妙な面持ちでそれを見ていた。


「……まぁ要するに黒上げて白を下げればいいんだが……」


 漆黒の闇が光りを喰らう! 白の希望の光は黒に侵食されるんだ! 白は黒に勝てない!


 こんな文など読みたくない。そんなことを思いながら最初の方はテンプレで固めてそう言えばとクロエのことを見て呟いた。


「そう言えばクロエって名前に黒が入ってるな。」

「……?」

「でも金髪なんだよなぁ……」


 どうでもいいことを考えながら相川は運動会当日まで適当に過ごしていった。










 そして当日。開会式で自分が考えた挑戦状を読み上げられて勝手に軽く死にたくなる程度の辱めを受けた気分になっている相川はその終盤にあたって黒組が負けそうになっている状態に直面した。


「……どーしよっかなぁ……」

「負けそうデス。ししょー、何かありマスか?」


 クロエはどうやら負けたくないらしい。相川に尋ねるが一個人ではどうにもできないのが普通だ。尤も相川は普通ではないのでやろうと思えばやれないこともないのだが。


「……あと残ってるのは、綱取りに騎馬戦。そして棒倒しか……」

「あぅ、勝ちたいありマスよ……」


 クロエの言葉に周囲が動く。彼らは自称クロエ親衛隊と言うらしい。運動会の最中に相川はその存在を知った。それはさておき、相川は自分が疲れない程度に知恵を貸すことにする。


「じゃ、取り敢えず綱取りから……全部で15本かな? じゃあ全員で8本だけに焦点を絞って一気に奪い取りにかかってください。」


 相川の言葉に最前列で応援していた6年生が反応する。因みに彼女は先日の精力剤騒動でクロエに襲い掛かり相川に弱みを握られている人物だ。


 言外に脅されているのは分かるが、ただ年下の言う通りに動くのは癪に障るのでその生徒は相川に苦言を呈すかのように告げる。


「……それ、1本でも取られたら負けだよ?」

「まぁそうですね。でも後がない方が人は力を発揮できるからねぇ……」


 背水の陣など孫子の兵法書の一部抜粋みたいなものだ。敵の強きを死地にて抑え、要所を強兵で確実に押さえる。その作戦でまず綱取りに置いては黒組の勝利に終わった。


「じゃあ次、騎馬戦は……魚鱗の陣で突撃だね。勿論大将騎馬は中軍、しかも真ん中で全体が止まらないように……」


 1年生、しかもDクラスの男子というこの学園においては通常最下層に位置する生徒の声など普通は耳を貸さないだろうし、周囲からは舌打ちが聞こえてくる。しかし、それでも高学年の殆どが弱みを握られている状態で、しかも戦略的に間違えていないので不満を示しつつも実行に移し勝利していく。


「最後が棒倒しか……これは別に負けても同点で終わるだけだからいっか。ハイ仕事終了。どう転んでも優勝だぞ。」


 クロエ的に最後までやって欲しかったと思わないでもないし、苛つくがこの2回の勝ち方は相川による策略で簡単にもたらされたモノなので周囲も複雑な思いを抱くが、ここまで来たからには後は自力で頑張るとばかりに子どもたちは奮闘する。


 そして結局、黒組の優勝で運動会は終わることになった。


「うぅ……負けちゃった……」


 終了後、瑠璃は相川の下へとやって来て項垂れる。対するクロエはご満悦で、相川は運動会の間に片付けていた書類をまとめてどうでもよさそうにしている。


「……今日はボクの負けだったので仁くんの好きにされちゃいまーす。」

「大人しく帰ってゆっくりお風呂に入ってご飯を適量食べ、今日の疲れを取ってからぐっすり寝なさい。以上。」

「……えー……う~……そうじゃないけど、わかった……」


 何か望んでいたのと違うが敗者なので特に反論せず瑠璃は家に戻り、相川たちは出前を取って豪勢な夕食パーティを開いた。





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