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強者目指して一直線  作者: 枯木人
小学校低学年編
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帰宅

「……まぁ、大丈夫だったか。一応掃除はしようかね……」

「……だいじょーぶ……? ありマスか……?」


 相川が大量の資料などを持って自宅に帰ってきたところ、玄関先と窓付近にそれなりの量の血痕が残っていた。恐らく、ギミックが発動したのだろう。しかし、死体はなかったので大丈夫ということにしてギミックを停止し、あまり大丈夫ではないのではと思っているクロエと一緒に掃除を行った。


「ん~誰が侵入しようと思ってたんだろうなぁ? まぁこんな世間も知らなさそうな糞ガキが仕切ってるのは本気で気に入らないと思ってる人たちにゃあ食う寝るところに住むところの数くらいには心当たりがあるが……」

「お友達サン、間違えて怪我したありまセンか?」

「お友達……いないんだが……まぁそれなりに付き合いのある連中は俺の頭がおかしいことは割と知ってるから不法侵入とか下手な真似はしてこないと思うよ。」


 クロエが相川の部屋に置かれていた小学生並みの大きさの藁人形に怯えたりすることもあったが、それ以上には特に問題なく掃除は終わる。

 最後の仕上げに荷物を机の上に無造作に置いてソファに倒れ込むとクロエがその後ろからちょこちょこついて来て相川の頭部付近に腰かける。ちょうどそこで相川の電話が鳴った。


「誰デス?」

「……瑠璃だな。掃除終わったばっかりで疲れてるからいいや……何か大事な用があるなら留守電に入れるだろ……」


 通話を終了させるのもアレなので放置して相川は仕事前に何をしようか考える。なるべく視界に入れたくないのだが、書類の山が圧倒的な存在感を示してきた。


「……不条理だよなぁ……勉強するの面倒だから出来る便利な奴にやらせようってなってこの様だよ……はぁ余計なことしなけりゃよかった……まぁそのおかげで割と住みやすい場所になってる……が、どっかの誰かのせいでほとんど家にも帰れてないんだよなぁ……」


 未だに鳴り続けている電話を見て溜息をつく。そのまま仰向けで色々と考えるとストレスが溜まっているようなので甘い物を食べることにした。既に電話は一度切れて二度目のコールになっている。


「……ケーキでも焼くかな。ガトーショコラ……」


 何でこんなことを急に思い立ったのかは自分でもよく分からないが取り敢えずそうと決まれば材料を買うところからだ。クロエに走り込みという名目で近所のスーパーまで買い物に行かせた後、相川はしつこく鳴り続けている電話に苛立ちながら出た。


「はい。」

『あっ! やっと出た~! あのね、遊ぼ?』

「忙しい。」


 相川の宣言にも似た言葉で繋がったことに安心していた電話先の瑠璃のテンションが一気に下がった。


『……そぉ……いつなら遊べる……?』

「知らん。暇になったら電話かけるよ。」


 相川は掛け直す気などさらさらない。瑠璃の遊ぶは基本的に組手、もしくは稽古か何か食べるということしかしないので休日まで付き合う気はないのだ。しかし、瑠璃は約束を取り付けようと続ける。


『今日? 明日?』

「……少なくとも、今日ではないな。」

『じゃあ、明日ね?』

「出来ればな。」

『明日ね?』


 無言で切ろうかと思った。それを思い留まって相川は深呼吸して告げた。


「私は基本的に忙しいので君のお友達と遊んでいてください。」

『うん。皆で遊ぶよ? だから仁くんも……』

「あぁ、それなら俺いなくていいじゃん。だよね?」

「え?」

「じゃ。」


 今度は切った。相川は時間の無駄だったなと思いつつ携帯を閉じようとして再び瑠璃からの着信に微妙な顔をして出た。


「はい、何? 何か本当は用件でもあったの? まぁ普通に考えて俺なんかを遊びに誘うためだけ『何で切ったの?』」

「暇じゃないから。」


 そう言いつつキッチンに向かってオーブンの温度を上げておく相川。そして移動してパソコンを見てレシピを漁りながらどんなケーキを焼くか考える。


『今、忙しいの? じゃあ、後で掛け直すね? 何時ならいいの?』

「いや、用件があるならさっさとして。」

『よーけん? 遊ぼうよぉ……』

「皆と遊びなさい。」


 ガトーショコラに果物を入れるのは邪道だよなぁ……と思いながら相川はしっとりしたタイプのがいいかなとイメージを固め始めた。


『……じゃあボクがそっちに行って暇になるまで待つのはいい?』

「嫌だ。」

『何で!』

「今日は忙しいから。」

『忙しいって、さっきから何してるの!?』


 相川はパソコンから離れて机の書類の方へと移動し、その一番上の書類を簡単に見てみる。紙が翻る音がして紙面下部を持ちながら概要をまとめて告げた。


「えー? 新興宗教が最近無駄に広まってるらしくてな、なーんか強引な勧誘とか悪質な何かとかしてないか気になったらしく、その調査にウチの派遣員を貸してほしいっていうことだがその見積もりと追加のオプションとかがあってそれを考えたり……」

『しんこー? 派遣員?』

「……言ってもわかんねぇか。なら言うだけ無駄だわ。」

『うぅ……ボクがもっと賢かったらお仕事も一緒で半分こしてすぐ終わったら遊べるのに……』


 瑠璃が落ち込む。相川はそれを特に気に留めず書類を元の位置に戻すとパソコンの前に戻ってレシピ漁りを続けた。


「まぁ気持ちだけ受け取っておく。そっちには瑠璃と仲良しの人がたくさんいるだろ? 俺みたいなのに構ってないで切り替えてすぐに遊んだ方が良いぞ?」

『…………うん……』


 瑠璃は相川の言い方にどこか引っ掛かりを覚えたがあまり困らせないために言われるがまま同意した。そしてそのまま通話が終了することになるが、そこで瑠璃は違和感の正体に気付く。


 相川は、そっちにはと言ったのだ。つまり言外に自分とはそこまで仲良くないということを示唆している。瑠璃は考え過ぎだともやもやを振り払うように首を振って奏楽たちの下へと駆けて行った。





 通話終了後、レシピを決定して何となく覚えた後に相川が特に考えるまでもなく承認するだけの書類を片付け、思考や受け入れるには未熟な案などの書類に取り掛かり、その3分の1程が終わったところでクロエが戻って来た。


(……氏神神道流ねぇ……カルト集団か。真言立川流を取り入れてる示唆がある辺り叩けば埃が出てくるのは間違いないだろうが……潜入した時点で共犯にされかねないな……内部から密告させるか。教主による強制猥褻罪を適用させるとか何とかで適当にその人は罪に問われないように便宜を計らうとかそんなノリで……問題はこの宗教を本気で心の支えにしてる人らもいるだろうってことだなぁ……まぁその辺は後で考えるか。今はケーキだ。)


 玄関から相川のいるリビングまで早足で歩いて来る音に顔を上げるとクロエがテーブルを挟んで相川の目の前で敬礼していた。


「只今、戻りましたありマス!」

「おーお疲れ……よし、しっとり濃厚ガトーショコラ……ガトーショコラって何か無駄に格好つけてる気がする。チョコレートケーキでもいいんじゃないだろうか? まぁいいや。焼いて食おう。」

「楽しみありマス、よ!」


 書類を一度片付け、相川たちは楽しいクッキングを行い夕食時にそれを食べることになった。




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