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強者目指して一直線  作者: 枯木人
小学校低学年編
46/254

しあい

「……さて、クロエが疲れたことだし……さっさと俺が行って負けるか……」

「真面目に戦いなよぉ……」

「いや、普通に試合したら奏楽には勝てんよ俺は……」

「ししょー! Viel Glück!」


 相川が作った輪切りレモンの氷砂糖漬けをもぐもぐしながらクロエが応援する。奏楽も気合万全で枠内に上がり、相川を睨みつけている。それに対して相川は普通にやったら勝てない相手だと言うことは分かり切っているのでやる気の欠片も出すことが出来ない。


(……試合だろぉ? 無駄なエネルギー使いたくねぇし……勝ったら奏楽には恨まれるだろうし、瑠璃の組手の要求回数が上がる可能性が……)


 試合に勝つために頑張るメリットがない。それどころか負けた場合、展開の持って行きようではこちらは凄い得をする可能性があるのだ。


(まず、クロエが師匠とか馬鹿げたことを言わなくなる。騙されていた被害者と言う扱いになればBクラスくらいには移動する。奴は友達が出来て俺を見限ることができ、俺は完全一人暮らしというWIN-WIN。しかも、瑠璃も俺から興味をなくす上、俺に対する変な噂まで消えるという……)


 考えたら負けた方が良いというシャドーが出てきた。そいつは更に理論武装を固めて行く。


(……そもそも、武術家である奴らに対して俺が真っ向から挑んで勝てるわけがない。即ち負ける。そっちの方が楽なんだからそっちに流れるべきだろ……よし、負けよう!)


「……何ニヤニヤ笑ってんだ。」

「ん? いや、方向性が決まったからね……開始2秒でお前は返り血を浴びて試合は終了する。」

「言ってくれ……おい、戦う気あんのか?」


 相川の堂々とした敗北宣言に挑発かと思っていた奏楽が意味を少し遅れて把握し、突っ込む。相川は鷹揚に頷いた。


「おいおい、何言ってるんだ? こっちは戦いにすらならん自信があるんだぞ?」

「……試合前に油断させようってか? やることがセコイんだよ。」

「ふん。試合だと? 既に終わっているだろ? 俺の負けでな……」


 奏楽は相川の言葉に耳を貸さないことにした。それにより会話は中断されて試合が開始される。その開始合図と同時に奏楽は突っ込んだ。相川が何か言っているが既に意識外だ。


(攪乱される前に、叩き潰す!)


 奏楽には止まって見える相川。それが防御に入る前にそのボディに掌打を叩きこむ。そう決めて突っ込んだ奏楽は相川の防御が間に合わなさそうなのを見て内心でほくそ笑み……


(おい! 何で力すら入れてない!? まさか本当に俺の動きが見えてないんじゃないよな!?)


 焦りながら相川の腹部に双掌打を叩きこんだ。手にはしっかりとした肉を打つ感触。更には骨が折れた感触に咄嗟に右手の掌打に対して左手で抑え込みをかけたが、衝撃は相川の体を貫いただろう。現に彼は倒れている。その様子に遊神たちの門派も相川の陣営の方に居た全員も黙り込む。


 しばらく、相川がのた打ち回って全員が不味いんじゃないかなどと見守る中、相木が何かの可能性に思い当たったのか立ち上がって指笛を吹いて高らかに告げる。


「ぴぴーっ! 奏楽くん、ファール! PKです!」

「おい、名奈こっちは真剣に……」


 突如ふざけだした相木に奏楽が相川から目を離して叱責する。そして再び相川を見ると彼は動きを止めて何か苦しんでいるようだった。そして何かを決めたらしく、彼は俯きつつ立ち上がる。

 

「……………………くっ! 抗えん! 取り敢えず、この試合の行方を決めるために奏楽のゴールデンなボールをプチッとキルしていいんだよね?」

「真面目に試合した方が良いですよ? 奏楽くんを見て。」

「おぉ、マジギレだわ。苛烈にキレてるね。」


 ふっつうに元気だった相川を見てブチ切れている奏楽。相川はそれに対してへらへら笑いながら眼光だけを鋭くしておく。


「ししょー、今のは、ないありマス……」

「仁くん……流石に、ちょっと……」


 瑠璃とクロエから非難の声が上がるが相川は取り合わずに奏楽に告げる。


「で、開始直後に言った通り俺は降参してるからこの試合は俺の負けで……」

「ふざけるな! 殺す! ……次は絶対に容赦しない……」

「言ったね?」


 奏楽の相川殺害宣言の次の瞬間、まさに空気が一変した。へらへら笑っていた相川の顔は既に次の表情に変えられている。今度、張り付けられているのは邪悪な笑みだった。


「試合じゃ勝てないし、やる気なんか出せるわけないだろ。でも、殺し合いになるなら……いいよ? 殺ろうか。」


 相川は手に小刀を添えて奏楽と対峙する。その間に相木が割って入った。先程の戦いにもならない戦いを見て相川が今度こそ大怪我をしないように、止めるつもりだ。


「ははは、またまたぁ……今なら奏楽くん謝ったら許してくれるだろうから、土下座でもして……」

「嫌だね。さっきのは本当に胸骨が折れて心嚢に達しそうで死にかけてたんだよ。笑い話で済ませようとしてたのに……一方的にキレるなら、事切れさせようと思ってね……」


 しかし、相川は止まらない。その様子を見、次いで瑠璃の方を見た奏楽は息をのんで相川の前に対峙する。既に、怒りは収まっているようだ。


「高々小さなナイフを持って粋がるなよ……」

「……まぁ、殺し合いって言っても一応殺さないようにはする。さっき、掌打を抑えてなかったらもう少し重症だったからな……それと、俺は降参を聞くから安心しろ。」

「来い!」


 奏楽の声に呼応して銃声が鳴り響いた。全員が呆気にとられる中で相川は平静のまま告げる。


「右腕。降伏しなければ次は左脚な。」

「なっ……?」

「こーふく、しろ。」


 右肩を押さえる奏楽に相川はゆっくりと告げる。それを見た遊神勢から非難の声が上がった。


「銃! ズルいぞ!」

「あぁ? 試合は負けたって認めてんだろ。今やってんのはこいつが望んだ殺し合いだ。銃だと割と余裕を持って加減できるが殺し合いの時の俺の動きは自制が難しいんだよ。これでも降参しなかった場合は仕方ないから殺すために殴り合いしてやる。」

「先に銃使っておいて今更、ズルい!」


 批難轟々だが奏楽はそれを手で制して不敵に笑って魅せる。


「ちょうどいい、ハンデだ……氣と筋肉の締めで応急手当ても終わったことだし、戦るぞ相川……」

「あっ……そ。」


 相川が応じたと見た次の瞬間、先程の奇襲のお返しとばかりに奏楽が突っ込んで来た。今度は先程の掌打とは違い手加減なしの最後まで踏み切った動きだ。


 それを見て相川は少しだけ目を見開き、舌打ちをすると小さく口の中で転がす。


「……魔闘氣発勁……」


 突撃して拳をこちらに向けている奏楽。その突きの途中で相川は手首を掴むとその腕に親指を突き立てて指を内部まで捻じり込んで一瞬で引き抜いた。


「ぅぐっ!?」


 思わぬ痛みに反射的に手を引っ込めようとした奏楽。その引きよりも早く相川は奏楽の懐に踏み込んで苦々しげに小さく告げる。


「おい、一応言っておくが……面倒だから死ぬなよ? 裏徹うらどおし!」


 熊手が奏楽の腹部に触れ、ブレるとその次の瞬間、奏楽は顔を撥ね上げて霧状の血を噴出した。それを見て相川は体から発していた何かを終わらせると忌々しげに笑う。


「……あーあ、最悪……チッ。やっぱ強いねぇ……畜生が……無駄に魔力を使わせやがって……これでまた目標から遠ざかった……はぁ…………おい、こいつすぐに医務室に運んでやんないと死ぬぞ。」


 痙攣し始めた奏楽をすぐに割って入れるように準備していた相木に投げると相川は舞台を降りて不満気なクロエと何やら怒っている瑠璃に何も告げずに家へと戻って行った。




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