お家完成
「おぉ、出来てるわ。お疲れ様でーす。」
「あぁ、何かあったら言ってくれ。で、ゴールデンウィークとかの長期休暇は帰って来るんだな?」
「……なるべく仕事は片づけておいてほしいんですがねぇ……」
「まぁ、肉体労働なら全部やっておくんだがなぁ……事業評価シート? KPI? 何か、よくわかんねぇことばっかり言ってくんだよあいつら。あれ無理。後、何か人送る方の会社が上場した方がいいんじゃないとか何か言ってたらしいけどこれもわかんねぇ。どうする?」
「……流石にこの場で決める事じゃないなぁ……しかも上場ってどこにだよ……取り敢えず資料とかあるはずだろうし、それメールして……それでやり取りして帰ったらやるから……」
「おっしゃ、じゃあまた再来週なー全員撤収!」
相川の家が完成した。棟上げやら餅まきやらなんやらかんやらが一応身内だけであってそれが終わると全員撤収し、相川と、瑠璃、そしてクロエが新築の前に残されることになる。
「いや~……ハッハッハ……軽い新居が出来上がってるんだが……」
「いーなー……瑠璃のお部屋クロエちゃんにあげるから交代しよ……?」
「無理、デス! クラス、違いマス!」
「大分、日本語が出来るようになったな。」
それはそれとして相川は扉を開いて瑠璃たちを伴い家の中に入る。
「キッチン……おぉ、ちゃんと踏み台が……つーかキッチンデカいな。まぁ料理得意だから丁度いいと言えば丁度いいけど。」
「私、料理、出来ない、ありマス!」
「……片付けは任せる。」
Dクラスの寮で出される食事は相川的に微妙なので毎回自分で作ることにしている。瑠璃に関してはAクラスの美味しい食事があるが、毎回相川にたかりに来るのでキッチンが広いのは大歓迎だ。
「おー! お部屋広いねー! 道場もあるよー!」
「……地下室が何か足されてるんだが……え、予算だけじゃ足りないだろこれ……」
やってみたかったらしい。地下室の最初の階段に遊び心といやに達筆な毛筆で書かれた紙と祝い酒が置いてあった。
(……俺、今まだ7歳なんだが……まぁその辺の人間の酒くらいなら酔わないだろうから勿体ないし飲んでおくけど……)
そんなことを考えつつ、キッチンに子どもでも飲めそうな甘いリキュール類や子どもだと無理だろと思うジンやウォッカなどを移動し、呟く。
「……まぁ俺の家に遊びを加えるなら最終的に俺の給料の一部を減らして補填すればいいんだが余所の家にしてたら給料から天引きだな……」
「ししょー! ソファ、やわらか、ありマス!」
「仁くんー! ベッドがおっきいよ!」
相川が地下室を上から眺めた後、他の場所へ行こうとしたら既に相川を差し置いて部屋の中を確認しに行っていた二人が興奮した様子で戻って来て様々な所の報告をくれる。
「トイレ、勝手、開いたデス!」
「お風呂もおっきかったよ!」
「……よかったねぇ。」
自分で見て回るから大人しくしていてほしいのが本音だが、一応共感しておいてリビングからベッドに行って……目を押さえた。
「……他に寝室、作った覚えがないんだが……ベッドは1つか? いや、キングサイズってことはもう狙ってることは間違いないな……」
「……恥ずかしい、デス。でも、我慢ありマス!」
「恥ずかしいなら代わってよ。」
瑠璃がクロエに軽く苛立っていたが相川は見ていないことにしてトイレは関係ないので風呂場に移動して……再び目を抑えた。
「……無駄に広い意味は何ですかねぇ……しかも、ご丁寧に3つの大きな穴が連結してるみたいなんだが……何はともあれ広いから水道光熱費がかかる……」
「瑠璃のお部屋のと同じくらいだね! また一緒に入ろー?」
瑠璃の戯言は無視して相川が浴槽に近付くと調節ネジのようなものがあった。それを回してみると透明な仕切りが浴槽の両側出てきて被さる。どうやら水圧で完全に閉じるように設定されているらしい。
「……無駄な技術を……!」
「これ凄いけど要らないね?」
最初から小さくしろよと思った相川だが、これも遊び心なのだろう。しかし、これには割とイラッと来たので彼らの人件費を削減して経費に充てることにした。
「で、まぁいい……取り敢えず送られてきた酒飲むか。クロエはドイツから来たんだろ? ビールばっかり飲んでるのかやっぱり?」
「飲むないありマス!」
「どっちか分からんが……取り敢えず飲めんの?」
「飲むやってみたいありマス!」
酒は20歳になってからということなので取り敢えずジュースレベルに割って飲ませることにした相川は瑠璃にも尋ねる。
「瑠璃は飲むか?」
「……お酒、苦いし臭いからヤ……」
「甘いけど?」
「……子どもはお酒飲んじゃ駄目なんだよ?」
「じゃあ瑠璃はジュースな。」
ということで相川は料理酒としては使い辛いリキュールや梅酒などを使って軽い宴会の準備を始めた。
「……て言うか、ここで殺しはOKなのに酒はダメってどういう理由なんだろうな……」
「殺しちゃうのは事故であるかもしれないけど……お酒飲むのは自分の意思だから……」
「そ、クロエはコーヒー行ける?」
焼きチーズなどのチーズ盛りに舌鼓を打っているクロエにそう尋ねると彼女は頷いた。相川はそれを見てカルーアミルクを作っておいておく。瑠璃も興味津々だった。
「……カフェオレ?」
「まぁ似たようなもんだ。俺は緑茶とか紅茶で割ったのを飲むけど……」
「美味しい!」
瑠璃が想像しているお酒ではない種類の甘い匂いが漂う食卓に瑠璃は仲間外れにされている気がし始めて最初は美味しいものを食べられてご機嫌だった瑠璃も頬を膨らませ始めた。
「む~じゃあ、ボクも飲むもん……苦いのとかはヤだよ?」
「……瑠璃は可愛いなぁ……じゃあ生クリームたっぷりのカルーアな……」
「ひぇっ!?」
瑠璃は相川がさらっと言った言葉に思いっきり反応して振り返る。その時には相川も後ろを向いており表情は伺えなかったが、びっくりした。
そして同じくビックリしたのは相川だ。
(……マズイ、酔いが回ってる……口が滑ったぞ。調子に乗られたら面倒だ……)
しかし、酒は出しておく。しばらくは何事も起きずに、相川もペースを抑えることで酔わず、クロエがハイペースで飲み続ける。そしてカルーアの瓶の中身がなくなった頃か、瑠璃は揺れ始めた。
「ん? お寝むか……」
相川がそちらに反応しながら抹茶リキュールのミルク割りを飲んでいると不意に声が聞こえた。
「ふにゃぁ……おしっこ……」
「え? ちょ、待っ……」
この後、誰かが大変なことになったが、具体的なことはその誰かのために伏せておく。