安眠妨害
相川がDクラスの1つ上の女子生徒たちを伸してついでに虐げられていたとか何とか言いながら図々しく上がってこようとしていた男子生徒もぶちのめして悠々自適に暮らすことに成功した夜。
トレーニングも終わり、そろそろ23時を回って寝ようかなと思い始めていた相川の耳に何名かの騒がしい音が外から聞こえてきた。
「……うっせぇな。何だこんな時間に……」
「ししょー?」
無理矢理奪った部屋に一人で寝ると報復が怖いと言うことで同室で眠っていたクロエが起きる程の音量で近付いてきたのは変声期を迎える前の男子の物のようだ。
(昼間、ぶちのめした奴らかね……?)
どちらにせよ、五月蠅いのは事実なので相川は窓を開けて外を見下ろす。そこにいたのは服を捲り上げている女子生徒とそれを下卑た笑みで見ている男子生徒だった。
(……不純異性交遊だな。えぇと? 女子生徒の方は昼見た気がする……男の方は知らない子ですねぇ……)
取り敢えず、相川は脅迫できそうな弱みなので写真に撮っておく。そしてこちらが強者であることを認識させ、逆らう気が起きないように……という名目の下に安眠妨害の憂さを晴らすために相川は窓枠から飛び降りてみた。
「ひっ!」
「うわっ! な、何だお前……!」
「……何だって聞かれたら……そうだねぇ、治安維持……特高かな? 取り敢えず風紀が乱れていたので取り締まります。」
「Dクラスが俺らを取り締まるぅ? アハハハハ! マジ受ける! 馬鹿かよ! それとも女の前で良いカッコしたぁっ!」
問答無用。何か話が長いので相川は飛び込み気味に正拳を捻じ込むと回し胴蹴りを入れて十字に蹴り上げその男を捻じ伏せる。
「安眠妨害ですぅ。」
「てめ、この野郎! 不意打ちで調子に……」
「今から寝るのに調子に乗ってどうするよ。クールダウンですよクールダウン。じゃーねー」
貫手を肋骨の下から差し込むように捻じ込んで吐瀉物をまき散らせながら相川は薄く笑い、前方から襲ってくる2人を確認して位置を瞬時に把握。右側から片付けることにしてそいつの胴を蹴り、もう一人にぶつけて体勢を崩させると両者の頭を掴んでぶつけた。
「む。足りんか……」
「この、雑魚がぁっ!」
「舐めんな!」
相川は筋トレの疲労によってその二人を気絶させることが出来ずに一転してピンチに陥った。迫り来る腕。捕まれば逃げることはできないだろう。
そんな小学生に似つかわしくないほどがっしりした腕は相川を捉える前に灼熱感に襲われることになる。敵を見据えていた子どもたちの目はその元凶。腕に生えている異物に目を落とす。そこには、相川が逆手に持っている小太刀が存在していた。
「!!!? っぁあっ!」
「てめぇ! 卑怯な……!」
「ほう。流石鍛えてるぅ! まぁ鬱陶しいからこれ以上やるなら斬り落とすけどどうする?」
てっきり泣きわめくかと思っていたが思いの外根性があるらしく、相川が諸手に携えた短刀を睨みつける二人。今は刺しているだけだが、相川が引き裂けばこの腕は斬り落とされるだろう。
「クソッ! 覚えてろ!」
「嫌だ。忘れろ。」
相川はにっこり笑って麻酔薬を散布した。最初から答えがどうであろうとも暴行沙汰に関してはなかったことにする気満々だったのでさっさと外見上は何事もなかったかのように針なしのステープラーで内部をくっつけて氣という便利なエネルギーを用いて治癒すると男子小学生たちを全裸に剥いて写真に収めて吊るしておいた。
「よし。完璧。」
吊るした木にはプレイ中です。触らないでくださいと大きく書き上げて相川は満足気に頷いて後ろから駆けてくる存在に対峙する。彼女は泣いていた。
「うぇぇええぇぇん! 怖かったですぅ~!」
「……? じゃあ何で俺の方に来た?」
「え……こういうのって、慰めてくれるんじゃ……」
「は? ……あぁ、つまりあれは合意の下じゃないと。ふむ。いや、でも双方の言い分を聞いてからじゃないとアレだしなぁ……」
相川は平等主義なのでそう言って首を傾げた。女の子の方は飛びついて慰めてもらう気満々だったのでどうしようか考えながら待機することになる。
相川は一先ずどうするか考えて割と退く気がなさそうなのを見て取ってどちらかを悪者にして手駒と化させるにはこういうのも手っ取り早くていいかと自分を納得させて頷く……その直後だった。
「……まぁいっか。おうわっ!」
「探したよ~?」
背後から聞こえた舌足らずな甘い声。何より相川に後ろから近付いて抱き着くまで全く気取らせない気配の消し方と何の香りか分からないいい香り。
発生源は。
「……瑠璃か。びっくりしたぞ?」
「えへへ~……何でこの人たちはだかんぼなの? プレイ中ってなぁに?」
「お楽しみ中だ。世の中には全裸になって喜ぶ奴らがいるんだよ。」
「あ、瑠璃も遭ったことあるよ! でもママが怒ってた。」
「お前本当に大変だな……」
相川が呆れていると目の前の子は感情をどこへ持っていけばいいのか分からずに怒気に変えて寮の中に戻って行った。それならそれでいいとして相川は後ろから抱き着いて来ている瑠璃の方を見る。
「で、何か用?」
「泊まりに来ないから探しに来たの。喧嘩してたんだね~?」
「まぁ、そうだな。」
瑠璃の発言の全体部分が意味することは事実だ。しかし、瑠璃が言っていることの前半部分の意味がよく分からない。
「終わったなら、戻るよ?」
「そうだが……瑠璃、俺は寮に部屋を……」
「? 仁くんは瑠璃のお部屋だよ?」
「何で? ふっつうに嫌なんだけど。」
「うん。知らない。」
相川は溜息をついた。正直もうトレーニング明けの疲労感で体をあまり動かしたくないのだ。先程の男子学生たち程度であれば別にいいのだが、瑠璃ともなると抗っても無駄な抵抗にしかならないので本当に動く気がなくなる。
「あのさぁ……そろそろ、周りに目を向けよう……? 俺みたいなのより……って、そうだったな……お前の人生ハードモードだったな……」
「そう? でも、瑠璃楽しいよ?」
父親は半端に武術を教えるとかえって体を壊しかねないと厳しく当たり、その代わりに優しくしていた母親は既に死亡。どう接していいか分からずに腫物を扱うかのように接する父親に思春期といえば可愛いかもしれないがどう接したらいいのか分からずに関心を惹きたいが故に悪戯ばかりする同門の男たちに変な道へと招こうとする同性の同門者。
学校でも天才児扱いの上、恐ろしい美貌の為に崇拝の対象になるわ変態の所為で私物が消えては変な気配に悩まされる。盗撮されれば高値で売買される彼女の写真などが出回っているのも知っている。
それでも楽しいと言える彼女は空恐ろしい。相川はそこまで考えて割とかわいそうな子だなと思った。
(でもまぁ、嫌な物は嫌だけど。)
「ね~……もー瑠璃、眠たいよぉ……」
「寝ろよ。チッ!」
パパラッチのような気配がしたので相川は舌打ち交じりに刃物を投擲。ガラスが割れる音がして重量感のある物が地面に落ちる音がし、すぐさま気配が遠ざかるのを感知した。
「……まぁ、いい風除けにはなると思ってるんだろうが……俺も一応、男だからな?」
「知ってるー……お風呂で見てるし……ねーおんぶ~……も、るり……眠いの……」
可愛らしい欠伸をしつつ目を擦る瑠璃。確かそんな感じ表情の写真は2千くらいで取引されていたはずだ。小学生からすると大金だろう。
「はぁ……駄目だな。俺も今日は疲れてるし……瑠璃が俺の部屋で寝るならいい「そーする……」そ。」
ブランケット症候群になり始めてないか気にしつつ相川は瑠璃の手を引いて小銃で近くの木を撃ち抜いてから寮の部屋へと戻って行った。




