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強者目指して一直線  作者: 枯木人
幼児期編
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病院

「はい。基本的には重傷にならないように処置したつもりです。ただ、優先順位的に最低限の機能を保全することを最優先にして主要血管なんかを繋ぎはしてますが……他はステープルで止血しただけですので早目の処置が必要です。その他骨折とかはまぁ何とか見てわかるんですが、皹は外から見ただけじゃ良く分かんないんで放置です。後気付いたんですが腰とかが曲がってるままで前みたいに激しい運動ができなくなってます。」

「ど、どこで誰が処置を……? もしや、これも……」

「まぁお察しの通り道場で俺がやったんですが……あ、それで手術費用を報酬として貰いたいですので起きたら伝えておいてください。」

「君は、一体……?」

「しがない化物です。」


 相川は患者を連れて病院に来ていた。そして院長に呼び出されて超法規的措置としてお咎めなしになること。そして色々なやり取りの結果、今回使った器具以上の報酬やこの病院で内密に協力を得られることが決まった。


(よし。最悪の場合は病院で暮らせるな……でもなぁ……オペった俺が言うのも何だけどこの人、常識外のことを平然と受け入れて利用して来てる……医師倫理的にいいんかねぇ……?)


 相川は小さな拳でガッツポーズを行ってからそんなことを考える。それはともかく、バックに何か付けておけば後々役に立つだろうと思いながら相川はお菓子を食べた。


(……本当は何にも頼りたくないんだが……まぁ、この形じゃ仕方ない。)


「……にしても、驚異的な人ですねぇ……まさに化物と呼ぶにふさわしい……」


 院長が冷や汗をかくような取引を終えて、10分にも満たない空き時間で相川と談笑をしようとしたその時。早足で看護師がノックをしてきた。


安心院あじむ先生! 遊神さんの容体が!」

「相川くん、君も付いて来てくれるかね?」

「……え、まぁいいですけど……」

「助かる。」


 え? 何で俺が……手術明けで仮眠しか取っておらずこの5歳児の体には滅茶苦茶な疲労とストレスが溜まってるんだが……そんなことを思いつつ相川は安心院院長に連れられて移動を開始した。


「おやっさん。……そのガキは!」


 ドアの前で麻生田が相川を見てブチ切れる。そんな麻生田を制して安心院が告げた。


「今、院内で私のオペを補助できるのはこの子しかいない。麻生田くん、下がりなさい。」

「おやっさん!? あんた……何を……?」

「ママぁ!」


 病室内からの悲痛な叫び声に安心院と相川はすぐに病室に入った。


「……これは……」

「お医者様! ママが! ママが!」


 心臓が停止している。安心院は急いでAEDを持って来させるが、絶望的な状況だ。そんな中で所在なさ気にしている相川に瑠璃が縋りつく。


「仁くん! ママを助けて!」

「魔法ないしなぁ……流石に無理。そうだね……延命できて1週間? しかもこの世界にはない方法だし、俺も量産はしてないから滅茶苦茶高い上に効果は保障できないよ?」

「お願い!」

「相川くん……本当に、あるのかね……?」


 相川と瑠璃の会話を聞いていた安心院が驚愕の目を相川に向ける。相川は微妙な顔をして答えた。


「いや、治せませんよ? ただ、延命くらいなら魔核を入れれば出来そうなんですけど……まぁわかんないでしょうね。寧ろわかるなら人間じゃないんですが……まぁその辺はいいや。俺がその魔核という物を創った世界だと大気中から魔素を取り込んで動き続けられるんですが、この世界に魔素がないから充足できないのでもって、1週間? ってことですかね~」


 軽い口調で告げた物質。この発明が禁忌に触れるとされて元居た世界での相川への迫害が始まったといういわくつきの物体だ。その話を聞いて安心院はしばし瞑目した後、決断した。


「……この方は人間国宝……いや、人類の宝だ。少しでも延命できるのなら……」

「別に親とかじゃなくていいんですがマイルール的に誰か肉親の同意がいるんですけど、瑠璃はそれでいいの?」

「うん!」

「じゃあ……まぁどっちにしろ心臓まで開きますか。」


 準備されていたベッドに乗せ換えられ、施術室に搬送される妙。それを祈るように見送る瑠璃。

 相川は無言でその部屋に入り、すぐに部屋の扉の上にある赤いランプが灯り手術中と光る。


(……まぁ、量産はしてないとは言ったが複製がないとも言ってないけどね。瑠璃にゃ悪いが……実験台と、させてもらう。)


 瑠璃の縋るような目に別の感情も起き上がる気もするが、それは気のせいとして自分のために行うと自己暗示をかけて手術を開始する。まずは安心院院長が執刀してくれる。


「凄いな……」


 安心院院長は凄腕の医師だった。恐ろしいほど正確に、そして早く開胸していく安心院院長に相川は驚きつつギミックを開いて魔核を取り出し、準備を行う。


「この程度なら補佐は要らんよ。流石に麻酔医はいるがね……」

「魔核を入れますが……取り敢えず、言っておくのは見て驚くと思うということです。それから麻酔とは別に俺が渡す鎮静剤を頸静脈に準備してもらえますか?」

「……何が起こるのかね?」

「……まぁ、一言で言うなら人外になるための侵略ですよ。」


 心嚢まで開いて鼓動を止めた心臓が見える。脳波も停止し掛けたその時に相川は魔核と呼ばれる黒い球体を妙の体に押し付けた。何が起きるのか分からず安心院は胡散臭いものを見る目で相川の手元を見るが突如として強く脈動した心臓を見て思わず声を漏らす。


「こ、これは……!?」

「鎮静剤を……この分なら32秒後にお願いします。」


 心臓が黒く染まるとそこから連なる血管が次々と黒く汚染されて行く。彼らが心臓を直接見れたのはそこまでだった。傷が塞がり、計測機器たちが正常を示すように動くと妙は目を開いて……


「今です。」

「くふっ……」


 鎮静剤、いや鎮静剤と相川が呼ぶナニカにより力を抜かれてベッドに仰向けのまま動けなくなった。驚いて呼吸すらも忘れかけていたこの場の全員に対して相川は機械的に告げる。


「33秒近かったので、気を付けてください……」

「あ、安心院さん……? わ、私は……」

「……何てことだ……」


 先程まで死にかけていた妙。彼女は現在全ての検査をクリアできるほどの状態になって話しかけてきている。


「……くれぐれも、内密に。1週間とは言え死者の蘇生が出来たとなると面倒臭いですし、先ほども言いましたがこの世界に魔素はないのでこれからこの世界で創ることは不可能です。」


 持ってないとは言っていない。


「そ、それで……妙さんはこの後……」

「……まぁ、元の世界と同じに扱うのであれば……普通に退院していいですよ。にしても安心院先生は凄いですね……名医だ。あなたがいたのに何でこの人が死にかけたのか……」

「陰陽活殺戦で、人手が圧倒的に足りていませんでした……遊神さんのオペも私以外では開腹すらできない。そのため、別の医師が妙さんを……」


 相川の言葉を詰問と受け取ったのか安心院院長は相川に尋ね返す。


「そうとしても、相川くんのような人物が先に診ていたのに、どうしてウチの優秀な先生方が間に合わないような危篤状態でここに来たのでしょうかね。私としてはそれも気になるところですが?」

「あぁ、私が見る前にガキが邪魔するなとか言ってあの病室の前に来てた麻生田とか言う人が診察させなかったんですよ。病室の前でのあの人の剣幕見たでしょう?」


 安心院は何も言い返せなかった。実際に目の前で搬送されてきた女性に付いて来た待合中で仮眠しようとして五月蠅い……という理由で有無を言わさずに麻酔を打ち、夢か現か分からないほど鮮やかな手並みで素早く圧迫縫合法を行っているのを見なければ自分でも信じられなかっただろうし、実際に見ていた時も過労で頭がやられたのかと思って休職した方が良いか悩んだほどだ。


「……彼に、悪気はなかったんでしょうがね……」

「まぁ悪気はないでこの人死んじゃうんですけどね。頑張って? 余命は……武術しないで1週間程度? 徐々に魔力が足りなくなってに衰弱死すると思うよ。恨むなら麻生田とか言う人を恨んでね? で、仮に武術をするならどれくらい寿命が減るのかは知らない。」

「相川くん、言い方というものが……」


(うっせー眠いんだよ……糞ガキに何求めてやがるんだこいつ。こちとら発生当初から身分証なんかがなくてスラム生まれの自己本位育ちなんだよ。)


 技術はあるが医師としてはダメだ。後で指導をした方が良いなと勝手に考えている安心院の抗議に相川はそう思ったがそれは言わずに別の話題をする。


「魔核のお値段なんですが……取り敢えず私の戸籍やその他の手続き、そして保証人として名前を貸してくれること。……あぁ、別に消費者金融系統じゃないです。将来、何かに使う可能性があるだけですからね。それで、それとは別に……そうですねぇ……3000万もらいます。」

「……ウチにはそんな大金……」

「私どもへの口止め料をそこから引いてくれますかね?」


 安心院と麻酔医が相川にそう言ってきた。それを受けて相川は頭を上に向けて考える。


「……じゃあさっきの条件から1000万引きます。でも5歳児の俺に徹夜に近い形で手術させた挙句にこんなに頑張らせて値引くとか……」

「む、う……そ、それは心苦しいが……そもそも、君は5歳なのかね?」


 相川は最後の問いに対しては無視した。


「まぁ、その辺は使用器具とか薬剤系統なんかで色付けてもらいますか……あぁ、そろそろ落ち着いて来たと思うんで瑠璃の母親さん? 外出ていいですよ。瑠璃を安心させてあげてください~」


 妙は何度もお礼を言った後、手術室から自分の足で出て行った。その後、この部屋では薄暗い会談が開かれることになる。






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