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強者目指して一直線  作者: 枯木人
小学校低学年編
38/254

建設中

「……まぁ開き直るからいいんだけどさ。広いな……」

「一人で使うには広すぎるよね~?」

「……腕を組むな。コケたら共倒れになる……」

「コケないよぉ~」


 全裸で児童2人は流し場へと足を運んでいた。シャワーと椅子は何故か3つあるが、瑠璃はそんなことお構いなしに椅子を相川の前へ持って来て洗ってもらう態勢に入る。


「……洗えと。」

「ん!」


 大きく頷かれた。取り敢えず仕方がないので相川はシャワーの温度を調節しながら和草プレミアムとか言うシャンプーを手に取って黒の絹のような艶やかな瑠璃の髪を洗い始める。その間、瑠璃はぎゅっと目を閉じたままだ。


「もっとやって欲しい所は?」

「んーとね……前頭筋の帽状腱膜の辺り?」

「この辺か。」

「うん~」


 6歳児とは思えない会話をしながら相川は瑠璃の髪を洗っていく。そうしていると瑠璃が簡単の声を漏らした。


「やっぱり上手だね~髪の毛引っ張られないから痛くないもん。」

「瑠璃の髪が凄いからな……」


 櫛を通しても引っ掛からない瑠璃の艶髪。カツラにすれば高値で売れるだろうと思ったのは過去の話だ。そんなことなど知る由もない瑠璃は褒められて無邪気に喜びながらマッサージを受ける。


「えへへ~」

「流すぞ。」

「うん。」


 軽く身をかがめる程目をぎゅっと閉じた瑠璃の頭からお湯を被せて泡を洗い流すと今度はコンディショナーを付けて髪を上げ、しばらく放置だ。


「今度、瑠璃の番! 洗うよ~!」

「……いや、」

「大丈夫! いきなり背後に立ったら振り向き様に回転肘打が来るの分かってる!」

「……そう。」


 じゃあどうする気なんだろう。相川がそう思っていると瑠璃は椅子に座るように催促してくる。何をする気か少し気になりつつ言う通りに座ると瑠璃が目の前に来た。


「洗いま~す!」

「ふむ……まぁ、見てしまうのが多少アレだが……」

「よいしょ。」

「……それは流石にどうかなぁ?」


 瑠璃は相川の太腿の上に座って洗い始めた。相川が困っていると瑠璃と視線が合い、にっこり微笑まれる。仕方がないので相川は瑠璃の顎に頭突きを入れた。


「ぅわっ! い、痛いよぉ……シャンプー目に入った……口、にがぁ……」

「……まぁでも7割くらい瑠璃が悪い。何笑てんねんって気分。」

「う~っ、もう洗ったげない! 体こすりこすりするもん!」


 体は洗うのかと、相川が突っ込みを入れるかどうか考えた瞬間、瑠璃が起こした行動は相川の想像を突破してもうその辺のことをすべて忘れさせた。


「……どこでそんなん覚えたんだよ……」

「え? これ? これはねぇ瑠璃が、思ったの。体の間にね、この体洗うわしゃわしゃ入れて片方が動いたら二人とも洗えるんじゃないかって!」

「うん。チェンジ。」


 ドヤ顔の瑠璃に相川は断言した。すると瑠璃は不満気な顔を浮かべる。


「え~? でも、良いと思うよ~?」

「……まず、効率的に考えて手を動かした方が楽なのは自明という点でアウトだ。次に倫理的・精神的側面でどう考えてもアウトだ。最後に社会的でスリーアウトチェンジ。」

「う~……でも、仁くんだけなら……」

「……いや、何を以てそれが罷り通ると思ったのか知らんがダメ。」


 がっかり瑠璃さん。相川の方は一先ず髪を洗い流して瑠璃を見る。そろそろコンディショナーを流す頃合か。


「流すから座りなさい。違う! 俺の上にじゃない! 何ですぐに密着しようとする!」

「だって、どっか行っちゃうから……瑠璃、一緒がいいもん……」


 寂しげな瑠璃の呟きに相川は意見の封縛も反論もできない。だがしかし、反論できないからと言って許容するかどうかは別だ。論点を逸らして棄却する。


「瑠璃は好きな人いるでしょう? その人たちが俺と一緒を嫌がるんだよ? でも彼らは多分ずっと一緒なんだよ? だから彼らの方が大事だろ? よって彼ら言うことを聞いた方が良いよ。取り敢えず俺から退け。」

「ヤダ!」


 一言で上告は破棄された。相川は何かイライラして来た。


「瑠璃、怒っていい?」

「う……」


 しかし、瑠璃はこの一言ですぐに怯む。嫌われるのは怖いのだ。特に相川は無言で予想の斜め上から酷いことを実行してくる。


「退くか退かないか。答える。」

「……退きたくないけど、怒られるの怖いから退きます……」


 意気消沈する瑠璃。流石にそこまで落ち込まれると相川の方が居心地が悪い。何せ彼は居候なのだから。


 無言になって何かを考える相川。それを見て瑠璃は微妙に期待した目をちらちらと向ける。しばしの間の後、相川が折れた。


「まぁ……仕方ないか……瑠璃がどうしても俺の上に座りたいならいいよ……」

「じゃあ座る。」


 瑠璃に早い所誰か優しい保健体育の授業をして欲しいと思いながら相川は洗い場では瑠璃の為すがままにされた。結果、湯船で瑠璃は超ご機嫌になる。


「お風呂で1000まで数えるんだよ?」

「瑠璃、頼むから風呂に入ったこと誰にも言うなよ……」


 疲れた相川とご機嫌な瑠璃さんが広い湯船で密着していると相川の方から瑠璃にお願いし、瑠璃は首を傾げた。


「え~名奈ちゃんに自慢したい~」

「……そしたらすぐさまここから脱走してそれ以降二度と会わない。」

「う……言わない……」

「んむ。ならいい。」


 相川の返しにまた少しだけ気分が沈んだ瑠璃だが、現在はとても幸せなのでいいことにする。しかし、じっとしているのはあまり好きではない瑠璃は相川の周りを回り始める。


「……何?」

「ん~? 楽しいね?」

「何が?」


 相川の問いに瑠璃は明確な答えを持たない。その時思い浮かんだ言葉を告げているだけだ。


「……瑠璃のお隣の部屋、空いてるから……仁くん頑張って瑠璃のクラスに来て欲しい……」

「嫌だ。折角マイホーム建てたんだからDクラスに居座る。」

「……でも、Dクラスは悪い子ばっかりみたいだよ……? 皆言ってたもん……それにね? 瑠璃、仁くんが悪く言われるの嫌なの……」

「ふむ。でも事実だしねぇ……」

「出島先生とか、Dクラスとの合同練習、すっごく馬鹿にしてるんだよ? 常識がないとか……品がないとか……」


 その件に関しては全面的に相川が悪いので何とも言えない。答案の余白には何も書かないで下さいと言う文言が問題用紙にも解答用紙にもないのを確認した相川はそのことを答案用紙の裏に指摘した。

 そして、何となく時間が余って暇だったので『出島先生のゲテモノ天国』というグルメ小説を書き綴ったのだ。主に虫系を食べさせ、料理の挿絵も頑張っておいた。

 答案後、あまりの気持ち悪い出来に頷いてそんな発想をする自分に引いたほどの出来栄えのそれはさぞかし気持ち悪かっただろう。


「……まぁでも、教育者としてはどうかと思うけどね。一個人としてブチ切れるのは仕方ないとして……教室で生徒に向かって言うことではないな。」

「きょーしつじゃないよ? 瑠璃、何か放課後に呼ばれて先生と二人っきりでお散歩に行って、武術するの。入学してずっとそんな感じなの。その時にね、すっごい言われるの。」


 何となく出島と瑠璃の二人旅を想像し、相川の中で誘拐というワードが浮かんできた。


「……変なことされないように気を付けろよ……? 瑠璃は自分が思っている以上に可愛いから誘拐とか児ポとか大変そうだな……」

「! 瑠璃、可愛い? 可愛い?」

「そこは認めよう。これまで見てきた中で一番可愛い。」

「やったぁ!」


 湯船のお湯が飛び跳ねて相川の顔面にかかる。ムカついたので靠撃で軽く押し飛ばすと溜息をついて瑠璃に忠告する。


「はぁ……出島先生とかじゃなくても何か妙なことされたとか、何でそんなことしないといけないのか分からないことがあったら取り敢えず誰かに相談しろ。何か新しい友「仁くんに相談ね。わかった!」……まぁ俺でもいいけど……」


 現在進行形で問題になりそうなことしておきながらどうなんだろ……と相川は思わないでもなかったが、一先ずそう言うことにしておいた。



 因みに、クロエは相川たちが上がるまでずっと筋トレをしていた。




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