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強者目指して一直線  作者: 枯木人
小学校低学年編
36/254

入学して最初にやること

「……ボケカスタコナス屑きゅうりがぁ……」

『どうしたの?』

『ちょっと苛ついただけ……』


 相川は顔合わせだけだった本日の学校を終え、校舎裏で廃棄のタイヤに八つ当たりしていた。因みにクロエはずっと付いて来ている。


(最底辺のクラスの男女比は1:9だと……すぐに退学になってやりたいところだが……この学校殺人しても試合中の事故で片付けて退学になりやがりゃしねぇからな……寧ろ学校なのかどうか……)


 自主退学も許されない。甘ったれた根性を見せたらそこで指導が入るような学校だ。教師陣との無駄な争いを避けるために相川はそこまで大事は起こさないように教室から出て寮に向かう。


『どこに向かってますか?』

「……寮って何て言うんだろ……『……ここの、家』?」

『こっちです!』


 クロエに手を引かれて相川は寮へと向かう。形態としては女子寮にほぼ近いその寮はかなり巨大だった。相川はボロイなと思いつつ扉を開く。


『あっ、そっちはクラスの上級生の……』


 相川が扉を開こうとしていたことに気付いたクロエが止めるがそれはもう既に遅かった。


「おい、新入り。ここじゃ力が絶対だ。お前は寮に入れないぞ。その金髪と一緒に納屋で寝てろ。」


 小学生とは思えない熊のような巨体をした、辛うじて髪の長さと胸の発達具合から女と思われる生徒から相川は恫喝を受け、胸ぐらを掴まれそうになる。それを普通に避けた相川は一度外に出てクロエに納屋という物の案内を頼む。


 捕まえ損ねた熊みたいな女生徒は首を傾げながら小さくなっていく相川とクロエの後姿を見送った。




 しばらく林の中を歩いた先にそれはあった。黙って周囲を見ながら移動していた相川を気遣うようにしてクロエが空元気を出す。


『ここ、だよ……私と一緒ってことは、この納屋二人で使うってことだね……でも広いから、大丈夫!』

「……ふむ。間取りはモノが少ないのもあるが広くていい。水も引かれてる……日当たりも良好。林の中には漢方薬の材料がたくさんあったし……この周辺でも育てやすそうだ……素晴らしいじゃないか!」


 納屋は先程の寮より更にボロかった。しかし、木造で至る所に穴が開いているその小屋の中を案内されて相川的に実に素晴らしいと断じる。クロエはほとんど聞き取れなかったが最後の素晴らしいじゃないかという言葉だけ聞きとり相川を二度見した。


「えと……?」

「アハハハハ! 正直こっちの方が微妙にいいクラスよりもずっとやりたい放題できる! さぁ、変なのが言う力とやらを魅せてやろうじゃないか……まずは財力からだな……いや、権力から行こうかね。改造の許可を貰う……そう考えれば知力かもな。」

「ダイジョブ、デスか?」

「勿論だ。安心しろ、10日後には冷暖房完備の清潔な家にしてやる……工事は奴らに頼むかね……ゆくゆくはオール電化だ……」


 クロエは突然笑い出した相川のことを気遣いながら相川が急に行動を起こし始めたのを見て慌てて追いかける。


(速い……この学校に来て私も相当速くなったのに……)


 そんなことを思いながら、しばらくするとそんな余裕もなくなったクロエは相川に追いついた時、彼が迷子になっていたことを知ることになる……










 その頃、瑠璃は小学校で新しい友達を作っていた。特Aクラスの女子生徒で瑠璃と同じ神童と呼ばれるような少女だ。

 彼女と一緒に特Aクラスに補助として付けられる側付きは要らないという申し出を職員室に届け出ているとその奥にある応接室から相川が出てきたのを目撃して声をかける。


「……あ、仁くん……? もう何かしたの?」

「お前は俺を何だと思ってるんだ……」


 可愛らしく小首を傾げる瑠璃に相川は呆れたような声で返す。しかし、瑠璃からすれば相川が何かするのは既定路線だ。

 というより、既に寮の設備の一部改造を個人で行おうとしている相川も呆れたように返す資格はないと思われる。


「……瑠璃ちゃん、ちょっと……」

「んにゃ?」


 職員室から出て少しだけ会話をしていた瑠璃と相川の間に新しく瑠璃の友達になった少女が割って入る。瑠璃は相川の方を確認して少しだけ離れた。


「あの方たち、Dクラスですよ……あまり仲良くしていたら問題です……」

「そーなの? 何で?」

「落ちこぼれで、どうしようもない人たちだからです……ここは武術だけじゃなくて力を見られている場所です。交際力もその一つですよ……?」

「仁くん落ちこぼれじゃないよ?」

「落ちこぼれじゃなかったらDクラスになんてなりません。瑠璃さんはきっと騙されてるのですよ。」


 こそこそと会話をする二人。相川はその話を普通に聞き取ってどうしたものかと少しだけ考え、職員室から道着姿で出てきた教員の気配を感じ取り、二人に用があると伝えてその場を後にした。




 そして、ずっと黙って付いて来ていたクロエは衝撃的な光景を目の当たりにすることになる。


「相川くん。怪我はさせませんから安心してかかって来てくださいね?」


 試合直前、相川が指名した教員は軽いアップを終えて相川に余裕を見せつつそう言って会場に立った。その瞬間、相川は強烈な踏込と共に教員に襲い掛かる!


「はっ!」


 飛び込むようにして放たれた左正拳突き。少しだけ想定外の速さに軽く目を見開く教員だが、それ自体は予想内。正面から少しずれることでその攻撃を躱して体の背面で飛び込んで宙に浮いている相川を轢きにかかる。


靠昇撃こうしょうげき!」

「両備え鎧通し!」


 勝負はそれだけで着いてしまったのだ。最初から囮だった突き。その手は急に進路を変えて教員の背後を拳の側面で緩やかに打つとそこから浸透勁、右手で徹しを放ち、体内を揺らす。


 異なる振動により内臓が外壁に強烈にぶつけられた教員は血を吐いてその場に崩れ落ちる。そこで相川は財布を取りに戻って10万ほど倒れた教員の前に置いた。


「これで買収されたことを装ってくださいね。なぁに、いつもやってることと変わらないでしょう?」

「……ぐぅ……い、いや……僕にも武術家としての理念はあるからね……金はなくてもきちんと……」

「じゃあ2万で。」

「……何が目的なんだい?」


 2万だったらまぁ貰ってもそこまで大きな裏はないかな……と少しだけ考え直す教員は自らの体の歪みを外部から無理やり移動させて氣による回復促進をしながら立ち上がる。


「何、悪目立ちしたくないんですよ。面倒臭いんで。」

「……まぁくれる物は貰う主義だからいいけど……君、実力を本気で解放すれば改造なんてしなくても上位クラスに入れて良い設備が揃うと思うんだけでね……まぁ、自分で決めてることだし、口出しすることじゃないか。」

「そうですね。ではこれで金で負けたことにする時のいつも通りに購買で弁当を豪華な奴買ってくださいね。じゃ。」

「……ふむ……取り敢えずサインだけしておくから書類を。」


 書類を渡して納屋の改造許可を貰った相川はふと静かになっていたクロエを見る。彼女は目を輝かせており、相川と目があると陶然として呟いた。


「Leher……! Geil……!」

「オイ待て、誰が師匠だ?」

「ししょー……! ししょー! アイカーワ、ししょー!」


 我が意を得たりとばかりにはしゃいで相川に飛びつくクロエ。そしてクロエはこの国での言い回しと行動を思い出してその場に正座する。


「ししょー! 私を、イチニンマエ、オンナ、してください!」

「……その言い回しは止めてほしいかな……」


 土下座しているクロエから元気よく言い放たれた言葉に相川は引き攣った笑みを浮かべた。

 その後、相川は何事かと書類から顔を上げた教員と目が合い、誤解を解く羽目になる。その際にクロエに師匠は面倒だと言ってドイツ語で喧嘩腰の会話をし、クロエに泣きつかれると教員に更に誤解を抱かれ、押し切られることになった。




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