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強者目指して一直線  作者: 枯木人
小学校低学年編
35/254

入学

 入学の日


 相川は窓が壊れ、照明器具が点滅し、床のタイルや壁紙が所々剥がれているボロい教室へと案内されて楽しそうだった。


「おっ、底辺に相応しいクラスだなぁ……」

「……そんな笑顔でこのクラスに入って来る人初めて見ましたよ……初めまして相川くん。」


 案内をしてくれたのは相川の担任となる福林先生だ。彼は呆れたような顔をして立てつけの悪い扉のすぐ近くにある相川の席を案内する。そこで相川は露骨に顔を顰めた。


「……しまった。相川だと出席番号が1番になる可能性が死ぬほど高い……今度何かこういう機会があったら別の名字にするべきだな……」

「今度って何ですか……? まぁいいです。お友達と仲良くするんですよ?」

「いないですし、作る気もないので無理です!」


 にっこり笑って返した言葉に福林先生は疲れ切った中年の顔で応じる。彼はくれぐれも問題を起こさないようにとだけ言ってまた教室から出て行った。それを見送りつつ相川は自分の席を探す。


「アイカーワ!」

「うおぅ!? あ?」


 席に着いて大人しく本を読もうとした瞬間、後ろから何者かが突撃してくる音と気配がして相川はすぐさま飛び退いた。

 そこにいたのは金髪にゆるいウェーブがかかった碧眼の、まるで天使のような風貌をした絶世の美幼女だった。そんな存在を前にして相川は面食らう。


「凄まじいなこれまた……この世界って美男美女率高いけど瑠璃といい、奏楽といいこいつら異常じゃないかね?」

「Sprechen Sie bitte langsamer……? ah Entschuldigen, Verstehen Sie mich……?」

(少しゆっくり話してくれませんか……? あ、その……すみません。言ってること分かりますか?)

「……うっわ……面倒だしKeine Ahnungわかりません!」


 相川は突如として現れた金髪美幼女にそう返す。すると彼女は百面相……具体的には一瞬喜んで悲しげな顔に変わると困った顔にすぐになって困惑した顔になってから何かを思い出して紙切れを相川に渡してきた。


「うん? ……カーラ・アテル・ルウィンス……あぁ、あの人……」


 宛名は武術大戦の際に見捨てられ、相川の手術を受けた金持ちの女性からだった。その手紙を読むと武術大戦の時にドイツから来て親が戦死したから去年からここに住むことになっている彼女の姪っ子のことを任せたという文言が。


「……医者だから大丈夫だよね……? おい、無茶いうな……基本的に医学の論文は英語だよボケ……ドイツ語なんざちょっとしか使わんわ……最悪使えなくても英語で注釈入ってることも多いしな……趣味でドイツ語をやってる人たちもいるが全員を同じにするな……」


 相川がおどろおどろしい口調でそう言っているのを焦ったり困ったりしながら眺める金髪天使。相川は溜息をついた。


「……Spreche Sie Japanisch?」

(日本語喋れるか?)

「J, Ja! ich spreche etwas Japanisch!」

(は、はい! 私、日本語話せます!)


 どうやら普通に話してくれるようだと分かった金髪ロリ天使は顔を跳ね上げて相川に密着せんばかりに近付いて返事をした。相川は近づかれた分だけ少し下がって真顔で返す。


「じゃあ日本語で喋れやタコ。」

「Sprechen Sie bitte langsamer?」

(もう少しゆっくりお願いします……)

Neinやだ……はぁ、えぇと、じこしょうかい、できる?」

「……! できマス! クロエ・アテル・ルウィンス、デス! よろしく、であります!」

「Wunderbar.」

(よくできました。)


 目の前の幼女さんは自己紹介できた上、相川に褒められて満足気だ。それに対して相川は少し悩んでドイツ語で挨拶しておいた。


「Freut mich sehr, Aikawa.」

(相川だ、よろしく)

「アイカーワ! クロエです!」


 会って10秒で懐かれた。飛びつかれた相川の感想はそんなものだった。周囲の視線が痛いが瑠璃と暮らしていた時の相川の日常だし、最悪一人でいても同じみたいなものなので気にしないで席に着く。

 その間、後ろでクロエはもじもじしていた。初めてドイツ語が通じた同級生。クロエの方が1つ年上だが、そんなことはどうでもいい。クロエには言わなければならないことがあるのだ。


 そう、この学校で初めての友達を作る。もう、言葉も上手く伝わらない地での一人きりの生活には精神的にも、肉体的にも疲れたのだ。

 クロエは頑張って言葉を探し、相川の服を後ろから引いて振り向かせることに成功する。そして、意を決して言った。


「アイカワ……友達、いいであります?」

「……まぁ一般的には良いとされてるが……俺的にはどうかなぁ……」


 何て言ってるのか分からないが、おそらく通じていない。クロエはドイツ語に切り替えて言った。


「Können wir Freunde werden……?」

「Nein.」


 友達になることを拒否された。いや、相川が聞き取れなかっただけかもしれない。クロエは少し泣きそうになったがもう一度頑張った。


「Können wir Freunde werden!」

「あぁもう……面倒臭い本っ当に……Spinnst du?」


 頭おかしいのか? と言われた。クロエの目に浮かべていた涙が悲し過ぎて止められず流れ始めることに気付いた時には既に号泣していた。

 それに驚くのは相川の方だ。突然背後で号泣され、周囲の視線が突き刺さる。その上新しい生徒を連れてきた先生にもじっと見られて相川は頭をガシガシ掻いてドイツ語で前半は聞こえるか聞こえないかの声量で告げた後、後半から聞こえるように呟く。


「Du hast wirkich`ne Scheiße gebaut…… Versöhnen wir uns, das war zu viel. Können wir Freunde werden?」

「Freunde(友達)……? |Wirklich(本当に)……?」

jaあぁ……」


 また飛びつかれた。今度は涙も服にプレゼントだ。喜ばれる中で相川は非常に嫌そうな顔をしている。そんな相川は顔を上げたクロエに対して少し顔を下げるようにして見返すと彼女は抱き着いたままお礼を言ってきた。


「ありがと、ごじゃます、あります!」

「何があるんだよ……」

「うれしい、デス! アイカワ、大好きあります!」

「俺に好意の感情はあんまりねぇよ……」


 ぴょんぴょん跳ねては相川を離さないと言わんばかりに抱き締めて来るクロエに相川は困った。そんなことをしていると廊下にクロエを越える可愛らしさを持ち合わせた大和撫子が現れた。


 瑠璃さんだ。深刻な相川不足に陥っていた瑠璃さんは各クラスのドアに張り付けられた名簿を探って相川の名を見つけてこの場に現れたのだ。


 そして、相川に飛びつこうとして先客がいるのに気付き……


「……誰?」

「Wer sind Sie?」

「……あぁもう面倒臭い……」


 何? 何て言ってるの? この人誰? と両方から訊かれる相川。この日は単位制の授業説明と基本時間割の説明だけで実際の授業は一切ないのに非常に疲れて学校を終えることになった。




 

 ……ドイツ語と日本語を一緒に書くと二度手間で面倒なので次から全部日本語で書きます。『』だとドイツ語的なノリで……

ただ、スラングはニュアンスが違う気がするのでドイツ語にしようかと……

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