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強者目指して一直線  作者: 枯木人
終章・高校生編
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最終局面

「……黒猫君強っ……!」


 ミカドは獲物の捕獲によって留飲を下げたらしく戦闘後のグルーミングしている黒猫君を横目で見て引きながら思わずそう呟いた。その間にも茜音を拘束していると苦い顔をしながら相川が近づいてくる。


「ん? どーしたんすかボス。」

「いや……この馬鹿が自爆テロを起こすために猛毒ばら蒔きやがってな……」


 その言葉に今まで大人しく拘束されていた茜音の顔が驚愕に染まり、そして勝ち誇るような顔を作った。


「気付いてももう遅い!」

「そうなんだよなぁ……あ、安心しろ。毒自体は大したことないから異世界行きのために訓練した俺らに効きはしない。」

「……え?」

「何だそれ、聞いてない……」


 この場にいる相川以外の全員が相川の発言に呆気に取られる。しかし相川は平然と告げた。


「毎回、異世界に行くと確認を取った時に耐毒性を身に着けさせるために3年くらいかけて少しずつ毒を摂取させてきたからな。思い込みで死なれても困るから黙ってたけど。……あぁ、その辺が別の奴にはついて来れない理由だな。」

「…………必要なのでしたら、仕方ないですが……」

「まぁそれを置いとくとしてもだ、なら何で毒をばらまいたことが問題に?」


 軽く流した二人に茜音は気味の悪い物を見る目を向けるがそれも苦々しいものに変え、そして毒のために意識が朦朧とし始めていた。その様子を見降ろして相川は溜息をつく。


「……こいつに死なれると遊神一門が面倒過ぎることになる。」

「あー……一先ず解放した方がいいですかね……?」

「そうだねぇ……ついでに治療もやるか……」


 ところが、茜音は解放されたと同時に朦朧とした意識の中でも相川に襲い掛かった。


「あぁうっ! ぅがぁっ!」

「筋弛緩してるのに噛まれてもねぇ……意識がなくなるまで待つか……」

「ぁーかわ、ゆーしゃな……」

「見つけた!」


 首筋に嚙みついて喉笛を引き裂こうと頑張っていた茜音と相川の下に瑠璃がやってくる。そんな瑠璃の目には状況はよくわからないが、茜音が相川に抱き着いて首元にキスをしているように映った。


「嘘……何でボクじゃないの……?」

「……なんか色々と勘違いを招いてますけどどうすんスか?」

「まぁ、どうせもうすぐいなくなるし放置で……とは、いかんな。奴が来る……」


 呆れたように笑いながら相川は茜音を蹴り飛ばして瑠璃にぶつける。瑠璃は茜音を受けとめると彼女の異常にすぐに気付いて相川の方を向き、飛来物が迫っていることに気付いた。


「何?」

「そこの自爆馬鹿用の解毒薬だ。平常時だと猛毒だから間違っても飲むなよ?」

「敵の、なしゃぁ……受けるか……!」

「……反抗する元気があるみたいだから大人しくなるまでおいておくよ?」


 抱き止めた瑠璃にも噛みつこうとする茜音を一度地面に下ろして瑠璃は相川を見据えた。言いたいことはたくさんあったが、この際望むことは一つだ。


「ボクも仁と一緒に居たい……連れてって。」

「無理。お前遊神流どうするの?」

「……ボクは……ボクは!「瑠璃ぃっ! 無事かぁっ!」」

「おいでなすったか……」


 現れたのは体長2メートルを超える大男。遊神流のトップにして活神拳の頂点。【氣征天源】遊神 一だ。彼は榊と戦った傷を生々しく残したまま瑠璃と相川を追ってここまでやって来た。


「何と! 茜音まで……! おのれ、相川ぁ……!」

「おっと、悪意のスパイスが効き過ぎてるようだねぇ……まぁ仕方ない。ちょっとばっかり早いけど始めようか。【悪意の根源】!」


 瞬間、そこに何もないはずなのに確かに存在する熱量を感知して相川を除いた全員が周囲を警戒する。しかし、その熱量は相川と黒猫君を除く全員の体自身からも発されているようで妙な虚脱感が生じて一瞬だけ体を支えることが出来ない状態に陥った。


「い、今のは……」

「何、俺に対する悪意を回収させてもらっただけだ……そして、これでもう俺の準備は完了。後はタブレットが扉を解錠し……うるさいなこいつ。」


 相川が世界中から己に対する悪意を全て奪い取った数瞬の後からけたたましく鳴り始めるタブレット。瑠璃はその様子を見て相川に哀れみの視線を向ける。


「……戦場で……修羅の国の後で、安心院先生が仁のことを急に心配してたのはこういうこと? 仁が皆に嫌われてたのは、ワザとだったの?」

「んー嫌われたのは俺の性質であって意図的に如何こうした訳じゃないが、まぁ大体そんな感じかな。」

「何で……? そのせいで、いっぱい大変なことに……お家だって燃やされたし、知らない人に刺されたこともあったよね……?」

「何でってそりゃ、俺の力になるし。別に死んでもいいしな。」

「ならば死ね。」


 今まで黙っていた遊神が相川を目がけて稲妻の如き動きで拳を繰り出す。しかし、相川はそれを間一髪で躱していた。


「ハハッ! そんなボロボロの身体でもお強いですねぇ?」

「止めて! 何してるの⁉ 嫌いなのは終わったんでしょ⁉」


 急な暴挙に瑠璃が間に割って入ろうとするも遊神がそれを押しのけた。


「瑠璃、こいつは巨悪だ。今ここで刺し違えてでも殺さねば……!」

「まぁその認識で間違っていませんけど。あんまり俺に構い過ぎてると茜音さん、死にますよ?」


 せせら笑う相川に遊神は声も出せない程激怒して襲い掛かるが相川は回り込んで茜音が嫌でも視界に入る位置に移動する。


「下種が……!」

「ま、お上品な方々に俺の気持ちはわかんないでしょうけど……茜音さんが死ぬ前にちょっと訊いておいた方がいいこととかあると思いますよ? 例えば、失踪していた間の異性関係とか!」


 目を開いて笑う相川は茜音の口の中に瑠璃に渡した薬と同じものを放り込んで混濁していた意識を激痛で呼び覚ます。のたうち回って苦しむ茜音を見て遊神は更に激昂するも先に茜音の方へと向かってしまった。


「茜音!」

「かはっ……お、とさ……」

「因みに今から俺を放置して全力で安心院さんのところとかに連れて行くと助かる可能性は78%! これでも飛躍的に上げてやったんだから感謝しろ。」

「……そうやって油断させたところを仕留めるつもりか!」


 茜音をそっと下ろして相川に襲い掛かろうとした瞬間、それは唐突にやって来て遊神のアキレス腱を切り離した。そして迎え撃つ相川はもろに【破局突き】をねじ込んで遊神を沈める。


「……なーぉ。」

「……黒猫君……君強すぎない?」


 タブレット防衛のために見に回っていたミカドから思わず影と化して遊神を襲った暴虐に突っ込みが入る。黒猫君は優雅にお手手を舐めていた。


「まぁ静かになって良かったよ。それで、瑠璃は抵抗する気かな?」

「……さっきの話に戻るけどね。ボクは仁と一緒に居たい……! ボクも、連れて行って!」

「だから無理って。……仮に連れて行く気になったとしてだ。瑠璃は神化もできない、魔闘氣も使えない。耐毒性も薄い。更には過去の俺の治療によって魔素に適合的じゃない体になってる。それに加えて中途半端に目に魔素の残留が起きてるから脳に対する負荷が著しい。果てはお前用のスーツもない。これだけダメな条件がある。」


 あんまりにも酷い答えに瑠璃は愕然とし、そして気まずそうにしているミカドと表情からは何もうかがえないクロエの方を見て相川に震える声で尋ねた。


「どうして、ボクだけ教えてくれなかったの……?」

「いや、訊かれれば答えたが。」

「でも「でもじゃない。お前は俺に行くなとしか言ったことはない。」」


 断定する相川に瑠璃は何も言えずに黙って俯き、場に沈黙が下りるのだった。





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