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強者目指して一直線  作者: 枯木人
終章・高校生編
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脱出劇

「……さて、全員倒れてしまったから一人で儀式を済ませるかね。」


 榊と遊神も両者ノックダウンで沈み、協力者も瑠璃にやられて気絶している会場で相川は協力者二人に手当てを行ってから一人動いて儀礼を開始する。


「よーし、これで起動。」


 相川がそう言って元々榊と遊神が座っていた上座にあった機器を弄るとリングが一度瞬くように光り、その奥への道が開く。本来であればその道を守るために榊と遊神が入り口で立っているのだろうと思いながら相川は普通にその道を進み、中に入る。


 その奥には祭壇の間があり、長いこと誰も入っていないはずなのに燭台の火が祭壇全体を煌々と照らしてその中央にある台と年季入りの竹簡と何故か固まっていない墨に浸された筆の存在を訴えていた。


「……でっと。恩恵を宿すのは活神拳でも殺神拳でもない俺だけで十分だからなんか新党を立ち上げていい感じの名前をつけないとね。……ありゃ、俺が考えて来たのは大昔のと被ってる……【無拳派】でいいか。」


 被っていない名前を付けて相川は備え付けられていた筆をおく。その直後に燭台の火が揺らめき、周囲に一度影が訪れたかと思うと相川は自らの身体に神氣が宿るのを感じ取った。


「よし。これで完璧。」


 これで最終段階もクリアしたことを確認した相川はそう言いながら笑って後ろを振り向く。


「ということで、失礼します。殺神拳、活神拳のお二方。」

「貴様……!」

「遊神、待て。……相川、本允坊となったお前に訊きたいことがある。」


 相打ちになって倒れ、体中傷だらけの榊と遊神は祭壇の入り口で相川を睨みつけながらいつ攻撃が来てもいいように構えつつ尋ねる。


「はい?」

「儂は遊神と戦いながら貴様の動きも把握していた……近づけばすぐに殺してやろうとな。だが、貴様は儂の攻撃範囲を完璧に読み取った上で会場にいる全ての武術家を圧倒した。」


 その動きを思い出すかのように相川を睨みながら苦々しく榊は続けた。


「……何故だ? それほどの技量があれば普通に戦っても本允坊の名を冠することは出来ただろうに。」

「効率的に面倒だったのと、この後のことを考えると被害を少なくしておくにはこうした方がよかったんでね。質問に答えたので通らせてもらってもいいですか?」


 相川の問いに対する答えは二人の武術家の構えで示された。断じて逃がす気はないとばかりに構える二人に相川は邪悪に嗤いかける。


「【悪意の根源】」

「がぁあぁっ! 相川! 榊! ゆ゛る゛さ゛ん゛!」

「遊神! 貴様また!」


 突如暴れ始める遊神に榊は激怒しながら相川と遊神を睨みつける。その隙に相川は入り口から出て行った。それを即座に榊が追いかける。


「逃がさん! 三傑の座は不正者に与える訳にはいかん!」

「安心してくださいね~明日にはまたその座は帰ってくるので。今度の本允坊決定戦に俺は来ないので今回の被害者たちでもう一度決め直してくださーい!」

「そう言う訳にもいかん! 不正者とはいえ今は貴様が本允坊! 仮に再決定戦を行うのであれば貴様にも出場してもらう!」

「……そういう面倒くさい制度があるから強硬手段を……」


 相川を筆頭に榊、遊神が追いかけるレース。それに横槍が入った。


「……ボクは、諦めない……でも、これ……どうすればいいの?」

「遊神の娘! そこのガキを逃がすな!」

「瑠璃ぃっ! わしを頼れぇっ!」

「チッ……もう起きやがった……」


 何とか建物から脱出しようとする相川とその方向に逃げた瞬間に意識を刈り取りにかかる一撃を繰り出そうとする榊。そして何か頭の螺子が一本壊れている実父の姿に瑠璃は混乱した。


「……とにかく、仁を助けたいけど……」

「こーろーさーれーる~」

「えぇい、ちょこまかと……殺しはせん! 貴様は曲がり何も三傑となったのだからな!」


 この会話を聞いて瑠璃は榊に助成する方に少し傾いた。よくわからないが相川が三傑になり、この世界にいてくれるのであれば少なくとも他の世界に行かれるよりも瑠璃の目が届きやすくなるからだ。


「あーもう、ファイターズハイ大っ嫌い!」

「仁! 大人しくして!」


 瑠璃が榊に加勢するのを決めて横から相川に攻撃を入れようと並走した瞬間、相川は瑠璃に冷たく笑いかけて呟いた。


「やっぱり、敵か。」

「っ!」


 心臓を鷲掴みにされたかのように胸がきゅっと痛み、血管が収縮する瑠璃。しかし、そこで止まるわけにはいかない。


「敵じゃない!」

「はっ……流石に3対1は厳しいな……こいつらタフにも程がある……後、腐っても三傑と言うか……」


 瑠璃の行動を見ていた遊神が戦闘対象を相川に絞ってきているのを感じ取って相川は嗤う。術のかかりようから考えて丸1日は操れる試算だったものが1時間にも満たない短期間で、しかも思考誘導までしか通じなかったことがここにきて効いている。


「……はぁ……大体、そんなに俺のことが嫌いなら二度とその面見せるな! くらい言って出ていくのに協力ぐらいしてくれればいいのに……俺が憎いから叩くことしかできないのかねぇ……」

「悲劇のヒロインぶってる暇があったら観念するんだな……」

「誰が悲観してるんだ? 単なる確認だ……周囲はもう全部敵だけになった。これ以上裏切られたらもう俺は独りでいくことにするが……ふむ。これ以上の裏切りはなさそうだ。瓦礫も俺に目がけて降ってくる。」


 瓦礫? 追いかけていた面々が相川の言葉を流そうとしてそこで止まり、不意に相川に影が下りたのを見てハッとする。


「馬鹿!」


 その正体に気付いた瑠璃が限界を振り切って相川をその影の有効範囲から逃そうと急ぐも時既に遅く、相川は巨大な瓦礫の中に呑まれて消えた。





「……! 付いて来やがった! おい、逃げるぞ!」


 そして遠く離れた狭い部屋にて騒ぎは続く。瑠璃がせめて最期の時は相川と一緒にと抱き着いているとものすごい力でそれを振り切り、相川はこの部屋にいる他の二人、クロエとミカドに指示を出す。


「え? あれ?」

「逃げるって、ここはもうロケットの中で……」

「ギリギリまで秘密保持していたがここは会場で万一のことがあった時用の移動場で、簡単に言うならダミーだ。これは異世界転移には使わないし使えない。それよりこいつがここにいるってことは遊神さんがすぐに追いかけてくる。逃げながら話をするぞ!」


 驚くクロエは即座に計画の見直しを考えるがそんな暇はない。相川が飛んでいくのに従って即座に移動を開始する。目まぐるしく状況が変化する中で取り残されないように瑠璃はそれを追いかけた。


「待ってよ! どうなってるの⁉」

「黙れ。近付くな。追ってくるな。」

「ボス、こいつ今の内に倒した方が……」

「いや、ダメ。遊神さんが暴走したら目も当てられないことになる。」


 完全に仲間外れ、敵扱いに瑠璃は涙目になりながらも説明を求めて相川を追いかける。それくらいしか今の瑠璃に出来ることはないのだ。


「……チッ! 仕方ない。もう準備を始めながら迎え撃つ他あるまい……幸か不幸か発動自体は俺がやらないとだめだが起動までは俺が何かする必要もないしな……」


 相川は誰にも聞こえないように風の中でそう呟いて一行の先頭を切るのだった。




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