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強者目指して一直線  作者: 枯木人
終章・高校生編
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本允坊

「【遊神星虹流ゆがみせいこうりゅう 一心】!」


 瑠璃の凛とした声と共に放たれたその一撃は油断しきった相手が避けられるようなものではなく、相手は物も言わずに昏倒する。


 そう。相手が、油断をしていたら。


「っとぉ……」


 歴戦の裏切られ者相川に瑠璃の虚撃は通じなかった。しかし、間一髪でその腹部への一撃を避けた相川が思わず息を漏らしたところに瑠璃の連撃が入る。


「【遊神星虹流 裏肘逆撃りちゅうぎゃくげき】!」

「【雷肘飛膝らいちゅうひしつ】!」


 伸ばした腕をそれ以上の勢いで引きながら体捌きの重みを乗せ、更に左手でそれに力を加える肘での攻撃は避けきれないと判断した相川はその攻撃を受けつつ肘と膝の挟撃によって自らが受けた以上のダメージを負わせるべく対応する。


「おいおい、見送ってくれるっていうのはどうした? また嘘ついたのか。」

「嘘をつかせたのは仁だよ……ボクだって、本当ならどれだけ悲しくても、仁の幸せのためなら笑顔で、見送る……でも、君は自分を大切にしないから……信じられる君ならこんなことしなかった……」

「何言ってるかわかんねーや。」


 問答を仕掛けた相川の方から瑠璃に攻撃を仕掛ける。それを受ける瑠璃は攻撃の際、案の定自分のことを一切信用せずに近づきながら警戒心マックスだった相川のことを悲しく思いつつ頭の中がごちゃごちゃになりながら目の前の攻撃を機械的に処理する。


「瑠璃さん瑠璃さん、何考えてるの? 君がやりたいことは矛盾だらけ。どうでもいいことはー放っておきなさい。」


 歌うように心を乱し、機械的な処理の手を崩そうとしてくる相川に対して瑠璃は完全に無視して攻撃の合間に相川に反撃を入れる。想いが拳に宿るように、祈りながら一撃一撃を重ねていく。


「瑠璃さーん! 僕も加勢します!」

「おらやって来たぞ瑠璃の愛しの色男が。喜べ。加勢しに来たってよ。」


 瑠璃は無言で歯噛みする。揶揄する相川の拳からは何も伝わってこない。心ここにあらず。嫉妬から翔のことを言うのではなくただ事実を告げたというスタンス。瑠璃の方が嫉妬のあまりに目の前を黒く染めてしまう。


「……っ!」

「そら乱れたぁっ! 【桜花乱舞】!」


 打ち上げられ、9連撃を喰らった後地面に叩き付けられる瑠璃。翔も巻き込んで地面に叩き付けられたおかげで翔が勢いを殺してくれたため致命的なダメージにはならなかったが、瑠璃は泣いていた。


「どうして……どーして、ぇ……」

「瑠璃さん……?」


 心配そうに翔が瑠璃のことを気遣うも瑠璃はそんなことを気にする余裕もなかった。笑っていようが泣いていようが相川は容赦なく攻めてくるのだ。近くにいた翔は巻き込まれただけで意識が飛びそうになる攻撃を受ける。


「おい、お前は引かないと殺すぞ?」

「る、瑠璃さんは僕が守る……!」

「ハハッ。瑠璃さんは愛されてるねぇ? おめでとう。……ただ、引かなければ本気で殺すとだけ言っておく。」


 翔と短く言葉の応酬を終えた後、相川は奏楽の方も探る。あれだけ疲弊していたのにミカドとクロエを相手に接戦できているようでもう少し時間がかかるようだ。時間の問題だが。


「それにしても……瑠璃は強くなったねぇ。精神は脆いけど。後、翔も避けるのだけは上手くなったね。」

「余裕アピールか……⁉」

「いや別に。最後に褒めてあげてるだけ。」

「終わらせない……!」


 喋った瞬間に相川は瑠璃にキツい攻撃を入れる。瑠璃には喋っている余裕はないので喋っている瞬間には攻撃を通してしまうのだが、翔がそれを庇って瑠璃から相川に反撃が入る。


「っと。翔君の愛の献身によって助かったね瑠璃さん。お似合いのカップルだ。」

「ふーっ! ふーっ……!」

「る、りさ……落ち着いて……」


 闘氣が先走って後先考えない瑠璃を翔が窘めるが瑠璃は翔の忠告を無視して相川に強襲を仕掛ける。翔は完全に置いて行かれて瑠璃から無言でついて来ないようにというメッセージを受け取った。


「……それでも、僕は瑠璃さんの……」

「あんまりしつこいとストーカーだぜ? 大人しく寝てろよ。」


 不意に背後からかけられた声。それに気付いた瞬間に後ろを向くも時すでに遅く翔は地面に叩き付けられた。


「やぁっと最終段階だ……奏楽の奴強くなってたなぁ……」

「無駄口叩いてないで早く師匠に合流しないと。」

「……だな。」

「おい、クロエに男……勝手に置いて行かれたら困るぜ……?」


 翔と倒して相川に合流しようとした二人を呼ぶのは血塗れになって既に立つことすら危うい奏楽だ。その目は血走っており二人を逃すまいと視線だけで拘束してきそうなものだった。


「ったく、加減してやったというのに……」

「せっかく、瑠璃の旦那様だから生かさず殺さずで……」


 心底面倒くさそうにその視線を受けながらどちらがやるか決める目配せを行うが突如下から湧き起った闘気に二人は苦々しい顔になる。


「例え瑠璃さんが僕の助けを求めていなくても……それでも僕は助けるんだ!」

「押しつけがましい上に傲慢と来たもんだ……まぁ、活神拳なんてエゴを押し付ける武術だからな。クロエは奏楽を。俺はこいつを殺すわ。活神拳のこういうところは本気でウザったいからな……」

「うるさい! 僕は僕のやり方でみんなが幸せになれる道を作ってみせる!」


 まさに激突しようとする二人だがそこに戦嵐が飛んできて巻き込まれまいとミカドは飛びのく。それに対して反応が鈍かった翔はその戦いに巻き込まれた。


「おい、引かないと殺すって言っておいたよな?」

「僕の信念は誰にも曲げさせない!」

「……忠告はした。」


 瑠璃との一騎打ちでは埒が明かない相川は瑠璃を相手にしつつも決定的な隙を生み出し、逆に誘い込むように見せかけて瑠璃の動きを惑わす。反射的にそこに攻撃を叩き込もうとした瑠璃は次の瞬間には理性によってその危険性を鑑みて手を引き、危険がないことを武術的本能で判断して攻撃を入れる。


 しかし、その葛藤の数瞬の間に相川がこの行動を起こす目的となる挙動はすべて済んでいた。


「ミカド! 奏楽を!」

「あーあ……人の獲物を……」


 先程までイラついていた相手の頸部から血が噴水のように上がるのを見ながらミカドはボヤキつつ職務遂行のために奏楽へ急襲を仕掛ける。衝撃的な光景に呆気にとられてしまった奏楽はクロエが抑え、更にミカドが奇襲を仕掛けたために物も言わずに昏倒した。残されたのは瑠璃だけだ。


「ほら、憎め。恨め。俺なんざ二度と見たくないだろ?」


 煽る相川に瑠璃は無言で飛び下がり、攻撃の手を緩める。その対応を見て相川もようやく一息ついた。


「ふぅ。それじゃ、降参と言ってくれれば終わり。君は二度と俺を見なくてぇっ……」

「……今更その程度で揺らぐとでも?」


 今度の瑠璃の奇襲は完璧に決まった。相川は歯を食いしばってその場から反撃に出ようとするがその衝撃に耐えかねて飛び下がることにする。


「ぐっふ……今のは効いたぞ瑠璃……」

「……まだ全然伝わってないみたいだからもっと頑張るね。」


 口から血を吐く相川に瑠璃は無表情に襲い掛かる。しかし、この戦闘は既に終わりを告げていた。瑠璃は背後から来るクロエとミカドに反射で反撃を入れながら苦り切った顔になる。


「お休み。」


 そして、案の定相川は瑠璃の意識を刈り取る一撃を繰り出す。その閉じた目からは涙が一筋流れ落ちるのだった。




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