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強者目指して一直線  作者: 枯木人
終章・高校生編
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大噓吐き

「相川ぁぁぁあぁぁぁっ!」

「……あのクソガキか……!」


 会場が暗転し、パニック状態になる中で上座に座っていた遊神は激怒して相川の名を叫んだ。それに続いて榊が感情を押し殺した声でそう呟くも次の瞬間にはその場から飛びのくことになる。


「……何のつもりだ? ここで貴様と……」

「茜音を返せ! 相川も気に入らんが貴様の方が気に入らん! 妙を儂から奪い、茜音も奪い、更に貴様の息子に至っては儂から瑠璃をも奪う始末! もう許さんぞ!」


 榊を襲撃したのは他でもない遊神だ。その目は闇に包まれていて誰にもわかることはないが、赤く染まっている。


「……武術神の前で掟に逆らうつもりか?」

「貴様らとは不倶戴天! 死ね!」


 遊神の暴虐に対して榊が応戦し、ストッパー役の消失によって場の混沌が更に深まる。その間に達人たちはどんどん倒れて行った。


「……見つけた。」


 狂乱の宴の中で瑠璃はそこに在るはずなのにそこに存在していないかのように動き回る闇を感じ取り、静かに呟いた。どさくさに紛れて自らの肢体を触ろうとしてくる不埒者を叩きのめしつつ瑠璃はその相手を追い始める。


「っ! 邪魔!」


 行く手を阻む痴漢や痴女たちをなぎ倒し、瑠璃が目的地に向かおうとするとその攻撃によって新たな火種が生じ、パニック状態が更に進展していく。しかも目的地、目的となる人物が動き回るので被害は恐ろしい勢いで広まっていくのだ。


「瑠璃さん! よかった、ここにいた!」

「おっと、少し先を越されたか……」

「呼んでない! どいて!」


 混乱の坩堝から瑠璃を守ろうと翔と奏楽が瑠璃の前に現れるが、瑠璃からすれば動きの制限となる邪魔者だ。無視して突破しようとするも二人は瑠璃がパニックに陥っていると判断してそれを押し留める。


「奏楽、悠は?」

「あいつなら照明を点けに出て行ったよ。」

「そっか。」

「放して! 離せー!」


 瑠璃の抵抗の言葉によって自称ナイトたちが下心マシマシで翔と奏楽に対して襲い掛かる。この試合会場にいる達人レベルになれば暗闇でも氣を辿れば大して行動の阻害とならないため、激しい戦闘が繰り広げられることになる。

 尤も、その氣の感知に頼り過ぎていることがそれに引っかからない何かに暴れ回られることによるこのパニック状態を引き起こすことに繋がっているのだが。


「おい! 瑠璃を黙らせろ!」

「わかってるけどあんまり手荒な真似は……」

「甘いこと抜かしてんじゃねぇ! このままだとこの変態どもに瑠璃を掻っ攫われるぞ!」

「ボクはモノじゃない! 君たちに心配されなくても大丈夫だから離して! 置いて行くなんて許さないぞ仁ー!」


 そんな混沌の場に対してそれを仕掛けた張本人たる相川はめぼしい相手からどんどん1両日は目を覚まさないように気絶させていた。


(……瑠璃に何か知らんが因縁つけられたときは予選位は戦わないといけなくなるかもと覚悟したが楽に済んでよかった……)


 通り道にいる者も倒していくのでこの場に残っている者は既に2桁程度しか残っていなかった。しかもその内、戦闘に巻き込まれていない人物は殆どおらず、いても相川と協力者の手によって戦闘不能状態にされている。


「ボス、Bブロック全滅完了です。」

「ご苦労ミカド。Hブロックが少々多いな。そちらへ。」

「了解!」


 協力者を見送って相川は遊神と榊の争いに目を向ける。この二人の戦いは周囲の群を抜いており、相川も迂闊に近付けばミンチ状態になるだろう。


「ひゅー……♪ 楽しいね。」


 しかし、遊神が相川に近づくことはない。それは確実なことで相川は安心して作業に勤しむことが出来た。


(全く、素人が【呪いの忌み子】の前で呪いの力に手を出してくれるなんて最高だぜ! 操ってくださいと言わんばかりに隙だらけ。おまけに悪意をたくさん補助してあげたよ。)


 邪悪に嗤いながら相川は遊神の思考を少々誘導して次に人が多いFブロックで激闘を繰り広げさせてそれに巻き込まれた人間を倒させる。多少、死人が出たがそれは仕方ないことにして相川はそろそろ2桁を割り込みそうになったところで人が集まっている部分を見る。


「さて、あのお姫様は本当にヒロイン体質だなぁ……瑠璃さん、瑠璃さん、瑠璃瑠璃さん♪」

「Hブロック、戦闘終了! ということでボス、ここはリングですか?」

「おう。」

「では、私はここで降参します。」


 ミカドが降参宣言を行うことで一瞬だけリングに淡く弱弱しい光が灯る。しかし、真っ暗闇の中での光源として、達人レベルの者たちには十分なモノであり、それは誘蛾灯の様に人々を惹き付けた。


「仁!」

「あんなところに!」

「あいつが黒幕か!「余所見とはいい度胸だなぁっ!」しまっ……!」


 前回の対戦と真逆の状態に進んでいる榊と遊神の戦い。しかし、その消耗は前大戦と同じく著しく、そろそろ相川でも何とかなるレベルだ。


(……まぁ、でもあの人たちを倒すのは三傑の条件にはないしな。ここにいる全員に敗北者になってもらうのが条件であって……)


手負いの獣を倒しても何の得にもならないので相川はそちらを無視して周辺を蹴散らして暴風の如き勢いで相川に迫ってくる瑠璃の方に顔を向けてミカドを置き去りに、この場から去る。


(……ま、後は不意打ち……この状況以上の不意打ちはないだろうが瑠璃倒してさっさと儀式に……)


 気配を消してミカドと戦っている間に背後から気絶させようと考えていた相川だがそれは瑠璃が急激に進路を相川の方向に変えたことで改めさせられることになる。


(……マグレか?)


 無音で空を駆けて瑠璃の進路から外れる相川だがそちらにも当然のように瑠璃が向かってきたのを感じ取ってこれは偶然ではないとこちらに飛んでくる瑠璃を睨んで地面に降りる。


「ミカド、クロエと連携を取って奏楽を倒せ。」

「了解。」

「わかりました……」


 既に数多の達人から瑠璃を守るために疲弊している奏楽に集団で襲い掛かるクロエとミカド。それに応じて近くにいた翔がどちらかを引き受けようとするも奏楽に瑠璃を追えと強い語気で言われて即座に翔も瑠璃を追った。


「……さてさて、瑠璃。どうして俺の邪魔をするのかな?」


 相川は特殊な声を出して遠くの壁に反響させ、そちらを音源として瑠璃の耳に声が入るように細工をして瑠璃に尋ねた。瑠璃はそれに一切騙されることなく本当に相川がいる場所を睨んで小さく告げる。


「仁がダメな方向に行こうとしてるからだよ。ボクは仁の幼馴染として、一番の身近な人として、そして何よっ!「チッ!」……捕まえた。お話はこの後でいいかな。」

「では先に言っておこう。生まれてくること自体が間違っている俺にいい方向なんざありゃしないね。いいから黙って退け。」


 瑠璃の口上を遮って奇襲を仕掛けた相川は瑠璃から距離を取りつつ翔との合流を果たさせないように榊と遊神の戦いの向こう側に瑠璃を誘導する。


「……どうしても、なの?」

「どうしてもだな。」


 誘導についてきた瑠璃は悲しげな声音で相川にそう確認を取り、相川のにべもない返事を受ける。


「じゃあ、せめて最後に激励の抱擁くらいはさせて……お守りもあるから……」

「……まぁそれくらいなら。」


 心底悔しそうな瑠璃の言葉にそう応じた相川は瑠璃が距離を詰めても下がらない。程なくして二人の距離が縮まった。


 その時


「【遊神星虹流 一心】!」


 瑠璃の鋭い突きが相川の腹部目がけてノーモーションで放たれた。




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