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強者目指して一直線  作者: 枯木人
終章・高校生編
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その日が終わりを告げる頃

「……何か囲まれた。」


 瑠璃を寝かせていた相川は公園のベンチで敵意のない人間たちに囲まれたことを感知して瑠璃を揺り起こす。恐らく彼女が一番の邪魔になるが誤解を解くにはちょうどいいので起こすことにしたのだ。


「瑠璃、起きろ。変態がお前を襲うぞ。」

「ぅむ……ん……」

「瑠璃、瑠璃……このガキどこかに放り捨てようかな……」

「捨てないで! ……? あれ……?」


 一瞬で跳ね起きた瑠璃は状況を理解できないまま相川をがっしりホールドして首を傾げる。そこでようやく隠れていた人物たちが姿を現した。


「お久しぶりです相川様。探しましたよ。」

「……えーと…………」

「……犬養です。」

「あぁ、そう。それで犬養さんは闇討ちでもしに来たのかな?」


 すぐに思い出してもらえなかったどころか敵対している前提で揶揄するように笑う相川に犬養は苦虫を箱単位で噛み潰したような顔になりながら否定する。


「今まさにそのような気分になったのは事実ですが、違います。社長がもうすぐいらっしゃるのでそれまでの足止めです。」

「……へぇ。ボクの旦那様に何かする気なんだ……」


 ゆらりと相川から離れて犬養を睨む瑠璃に相川と犬養はぞっとした。


「何で勝手に旦那呼ばわり……」

「おやめください、私は決して害そうとしているわけではありません。」

「……ボク、まだ成分が足りてなくてピリピリしてるから気を付けてね。」


 そう言い捨てて瑠璃は相川の膝の上に座りに戻った。この状態に当たって相川は一先ず瑠璃に問いかける。


「瑠璃は、一体何をしてるんだ……?」

「補充。」

「何の。」

「夫婦愛……あ、そう言えば仁。満18歳の誕生日はいつなの? 戻ってきたら教えるって言ってたよね? 早く教えて。痛っ……何?」

「いや……叩いたら治るかなって……」


 相川は瑠璃のノンブレーキ状態に押され気味になりながら冷静にストップをかける。そんな状況に犬養が呟いた。


「相川様の誕生日は確か10月だったかと……」

「今月か……あれ? じゃあまだ16歳……? プレゼントはわ・た・しができない……? 代わりに婚姻届けを貰ってくるしか……」

「いえ……戸籍上では確か先週辺りに……」


 犬養の答えに瑠璃は表情を抜け落として相川の方を見る。


「……何でその日までに出てきてくれなかったの……? ボク、お祝いしたかったんだけど……?」

「意識が戻ったのが今日だ。お前、俺がどれくらい重傷だったか知らない癖に黙ってろ。」


 相川の言葉を受けた瑠璃は顔色を赤くしたり青くしたり怒りの表情になったり悲しそうになったり忙しそうにしながらやっとの思いで言葉を絞り出した。


「……なんで、そうなの……?」

「治療もそうだが、準備が色々あったからなぁ……」


 特段何の感情もなさげに答えた相川に瑠璃は自らの頭の中を整理するためにも一度順序立てて質問し始める。


「……仁は、ボクが知らない間に戦争に行ってたみたいだけど……いっつも、そんな、危ないことを……?」

「いつもではないな。3回に1回くらい。」

「十分、多いよ……!」


 歯を食いしばりながら瑠璃は自分が傷ついた時よりも苦悶の表情を浮かべて続けて尋ねる。


「何で、ボクたちに言ってくれなかったの……?」

「別に言う必要性を感じなかったから。」

「それは、どうして……?」

「え? 俺が死んでも誰も困らな「ふざけないで、ちゃんと答えて。」はぁ? 真面目に答えてやってるのに何だそれ。」


 睨みつけてくる瑠璃に相川も憮然とする。しばらく睨み合って、相川の方が瑠璃を自分から引き剥がしにかかり瑠璃がそれに抵抗しながら泣き始める。


「ボクが、何で泣いてるかわかる……?」

「金が「違う! ボクを何だと思って……馬鹿!」いや、怒る前に、離れろ……!「嫌!」」


 傍から見ていてなんだこれはと思う犬養。酷過ぎるにも程がある二人のやり取りだが、二人のバックグラウンドを知っている犬養にはこれが酷過ぎると思っていても否定することはできない。周りが悪かったとしか言いようがないのだ。


(全てから無条件に嫌われた彼には誰かを必要とする人の心が分からない。皆から無条件に好かれ過ぎた彼女には本当に好きになってほしい人から好かれる方法が分からない……壊れた二人は他と交わることが出来ずに反対方向に進んで合うことはない……)

『詩的だね。いつからそんな感じになったの?』

(直接脳内に……⁉)


 驚いた犬養が相川の方を向くと彼は一先ず瑠璃を離す作業を諦めて犬養を見て笑っていた。その笑顔に犬養は背筋が凍る思いがする。


「はぁい? そんなに熱視線注いじゃってどうしたの?」

「……それが、準備ですか?」


 警戒するように一歩下がる犬養に相川は笑いながら首を振る。


「まさか。これは副産物だ。しかも失敗作でね。抵抗力が高い相手には効かない。」

「……ボクの話終わってない……」


 別の話が始まろうとする前に瑠璃は軌道修正を図る。対する相川は無慈悲な答えを返した。


「準備は終わった。結果は上々……ということで瑠璃、俺は結婚できる年齢になる前にこの世界から出ていくから。」

「……え……?」


 この世の終わりが来たかのような顔になる瑠璃。あまりの驚きに涙すら浮かばずに相川を見上げると彼は笑顔のままで瑠璃の思考回路は止まったままになってしまう。


「待ってください。あなたがいない間、異世界渡航計画は別に早められて……」

「なぁに、エネルギー問題に関してはすぐに終わる。元々は周期が完全に合う来年の5月ごろの予定だったが……もう多少のずれがあっても大まかに合っていればこじ開けることが可能になった。後は、三傑と言う名を得て秘密の暗号を使えれば問題ない。」


 犬養の言葉に相川が笑いながら答えるのを見て瑠璃は止まった思考で何で彼が笑っているのかについて考えた。しかし、意味が分からない。


「何で……?」

「にぃに! 会いたかった!」

「……すさまじいエアブレイカーだなお前。」


 やっと頭が動き出した瑠璃が相川に疑問を問いかけようとしたその前に公園の入り口からアヤメが突っ込んでくる。瑠璃の何故何故期の対応準備をしていた相川も苦笑してそれを受けとめると一頻り甘えさせてから地面に下ろした。


「ねぇ……」

「ふぅ。堪能しました。さてにぃに、話は大体犬養さんを通して窺っていますので早速準備に取り掛かりましょう!」

「……おう。」


 声を出して瑠璃が相川の袖を引こうとするが、それに被せるようにアヤメが声を上げて相川の手を引いて袖引きも躱させる。そのせいで瑠璃が相川を止めようとしていたのに気付かなかった相川は現時点で優先すべきことは瑠璃への弁明ではないとアヤメに指示を出すために移動を開始する。


「じゃあ悪いけどそういうことで。」

「フフ。久し振りににぃにと一緒だぁ……」


 口調は幼子よりも酷いそれだが犬養にそれとなくインマイクで出している指示はえげつなく、瑠璃が相川を引き留められないようにする妨害工作だ。心が乱れきっている瑠璃は上手く犬養を躱すことが出来ずに相川を連れて行かれてしまう。


「何で、何でみんなしてボクの邪魔するの……? ボクはただ、仁と……好きな人とずっと一緒に居たいだけなのに……」

「……申し訳ありませんが、あなたが相川様を止められる段階はとうに過ぎてしまっていますので……より確率のある方へ作戦を移行させていただいています……」

「……何なのそれ。ボクのことなんだと思ってるの……? ボクは君たちの駒じゃない!」

「あなたは周囲に気付かなさ過ぎたんです。ご退場願います……」


 数瞬の後、犬養は我が身に何が起こったのか理解できないまま瑠璃に滅多打ちにされた。そして瑠璃は相川を追うがその手は彼に届かずにただ空を切るだけだった。




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