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強者目指して一直線  作者: 枯木人
終章・高校生編
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23時頃

「……んむ?」


 相川が目を覚ますとそこは自分の研究室だった。そして周囲を確認し、日時と自らのバイタルサインについての確認を終えると排出するように操作し、地面に降り立つ。


「ぐっ……あぁ……ふぅ。あーよく寝た。2ヶ月ぶりの目覚めか。」


 まずは自分の声が出ることを確認し、体の状態の確認も行って自らが作り出した機械の性能を自画自賛する。


「筋力低下もなし。動作確認もばっちり。傷もなし! 素晴らしい!」


 多少、体の組成が変わっていることには目をつぶって相川は研究所の状態を確認する。備蓄品が使用分だけ少々少なくなっている以外に特に変わりはなく、相川は起きて早々に外に出ることにした。


「周囲はっと……うん大丈夫だな。」


 基地周辺のモニターを確認して相川は外に出る。修羅の国出発前のような茹だるような暑さは影も残しておらず、肌寒い風が辺りを吹き抜けていた。そんな中を移動しながら相川は電波の入った携帯を起動して怒涛のメールと電話のラッシュに遭う。


「……鬱陶しいな。壊れたことにしよう。」


 確認が面倒だったので相川は携帯を地面に落として踏み壊し、文明世界からの解放感を味わう。しがらみがなくなったところで相川はコンビニでおでんを買うことにした。


「らっしゃぃませー」


 何となくピザまんも食べたくなってきたのでそれも買うことにして相川はアイスティーを取りに行き、そして卵、大根、白滝、牛筋とピザまんにおにぎりを買って外に出る。


「んー……フードコートで食えばよかったかな? まぁ出たものは仕方ない。公園にでも行くか。」


 先にピザまんを食べながら相川は公園に向かう。寒さのためか、夜遅いからか周囲に人はおらず精々露出に興じているイヌさんがいた程度で相川はそれを鼻で笑った後ベンチに座った。


「すっかり寒くなったねぇ……」

「えぇ。本当にそうですねぇ……」

「なら服着ろよ……ぉ? ⁉」

「お久しぶりです。あなたのノアですよぉ?」


 さっき貧相だなと鼻で笑った露出狂が話しかけて来たのかと思いきや何故かそこにいたノアに相川は驚いて思わずおでんを勧めた。それを受けたノアも予想外の行動に牛筋を一本もらうことにする。


「……おいしいですねぇ。」

「寒さがいい感じにおでんを冷ましてくれるよな。で、君は何でここに?」

「それより私としては何で誰かもわからない内に服を着ることを進めて来たのか気になるんですが……」

「いや、さっき露出狂に遭遇したから。」

「……普通、その方がフランクに話しかけて来るとは思わないと思いますけど……まぁ、仁さんでしたら仕方ないですかぁ……」


 質問に答えずに話を逸らされた相川はもう一度同じ質問をしてノアに物凄く近距離でじっと見つめられる。その目は情熱の赤い炎を燃やしていた。


「安心院さんの病院に搬送される途中で逃亡し、2ヶ月間行方不明になった方がいらっしゃいましてねぇ……心配で心配で心配で、心配で……本当に心配で………………わかりますかぁ……?」

「ほう。その心配される人を探しているわけだな。生憎、俺はさっき起きたばかりで「とぼけないでいただけませんかぁ……? 私、こう見えて怒ってるんですよぉ……?」知らん!」


 二つの意味で力強く答えた相川はその流れで大根を食べる。そしてノアに尋ねた。


「おでんでご飯って進む? 俺はおでんの作り方によるんだけどさ。」

「……はぁ。」

「まぁおにぎりはそれで完結している場合も多々あるからいいと思う。それで、ノアは何で俺に声をかけたの?」

「……さっきので伝わらなかったんですかぁ……?」

「……あぁ。瑠璃がいつも俺のところにいると思うな。あいつ、本当は寧ろ俺のこと嫌いだぞ。」

「伝わらないんですねぇ……」


 諦観たっぷりに目を伏せて首を振るノア。寧ろノアの方が相川に尋ねたいことがたくさんできた。


「……何で遊神さんがあなたのことを嫌いだと思うんですかぁ……?」

「俺が嫌がることばっかりするから。しかも俺がやろうとすることの邪魔ばっかりだし。」

「それは危ないことばかりするからでは……?」

「いいじゃん。俺の命をどう扱おうとも。金蔓で便利なのがなくなるのが嫌だからってさぁ……」


 ノアは不意に気配は全くそこにないのにもかかわらず恐ろしいほどの情念が背後に存在していることに気付いて背中に嫌な汗を大量に掻いた。


「……い、いえ、でも、相川さんは遊神さんにプロポーズしたんですよね? しきりに自慢されてましたけど……」

「あ、それもあいつが俺のことを嫌ってる証拠の話になるんだけどさ。縁起でもないって全力で拒否されたよ。死んで金だけ残せって「あの! その辺にされた方がいいと!」……?」


 相川がおでんを食べ終わりながら首を傾げていると不意に後ろから甘い香りが迫って後頭部に柔らかいものが当たり、脳を蕩かすような美声が耳朶をくすぐった。


「言ってないよね……? 何? もう浮気……?」

「邪魔。今おにぎり食べてる。」

「っ!」


 衝動的に何かしようという瑠璃の激情を察知した相川は無言で瑠璃の方を見ると妖しく目を光らせて彼女を眠りの苑に落とし込む。緩んだ腕の中で相川は何事もなかったかのようにおにぎりを食べ始めた。


「……今のは……?」

「瑠璃の癇癪……あぁもう。この変態ホイホイが……」


 妙な気配を背後から感じ取った相川は後ろにいる瑠璃をベンチに横たえさせて膝枕をしてあげる。瑠璃は気持ちよさそうに寝息を立て始めた。


「……何といいますか。結局、お二人は仲良しと言うことですねぇ……?」

「まぁ何だかんだ言って俺は瑠璃に甘いからなぁ……あ、結婚のデマだけは嘘だからな。こいつもいつの間に婚約破棄の損害賠償請求について知ったのかは分からんが……相当前から練りこんでたんだなぁ……」


 そう言いながら相川は瑠璃の頭を撫で、瑠璃が相川の隣で眠っているのには珍しく顔を顰める。その光景を見ていたノアは引き攣った笑いを浮かべていた。


「あ、はは……何でそういう意味につなげられるのか不思議ですねぇ……」

「いや~……慣れ? ……あ、いかん。やるべきことを忘れてた……」


 そう言って相川は瑠璃の可愛らしい口に試験管を咥えさせて液体を流し込む。眠っている瑠璃が顰めっ面をしながらそれを飲むのを見てノアはそれが何なのか尋ねた。


「それは……?」

「【憎禍僻嫌】。間違えて悪意の収穫を行ってしまったからもう一回種を蒔いてる。これがこいつが俺のことを嫌っている最たる理由だ。……こいつには何かあんまり効かないみたいだから表面上は普通に接してるけど。」

「マッチポンプじゃないですか……! 何がしたいんですかあなたは!」

「自由を取り返したい。」


 珍しく語気を強めて迫るノアに相川は混じり気のない真っ暗な目で即答した。


「俺が、俺であるために。」

「そのために得られた幸福を自分で破壊するんですか……⁉ 狂ってます……最低です……」


 怒りのあまりに震えるノアを見て相川はそれすらも捕食対象の増大と見て邪悪な笑みを浮かべる。しかし、続く彼女の言葉は怒りや怨念ではなかった。


「ですが、絶対に私はもう、あなたのことを嫌いになんてなってあげませんからね……」

「はっ! こんな時間でもう寝言が混じり始めたか?」

「ふふ……この時間ならシンデレラの魔法はまだ続いてますよぉ……あなたを虜にするとっておきの魔法の、その準備のために私たちは……」

「何をごちゃごちゃと……」


 相川が揶揄するように笑っていると彼女は意味深な言葉を残して微笑みを浮かべながらその場から姿を消した。残された相川は瑠璃が目を覚ますまでそこに残ることになるのだった。




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