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強者目指して一直線  作者: 枯木人
終章・高校生編
241/254

激戦場

「全軍突撃。」


 出陣した相川の軍勢に命じられたのはごくごく簡単なこと。即ち、前に進んで敵を倒せという命令だ。遅れた場合は相川が率いる部隊とは異なる修羅の国の兵たちによって殺される可能性があるため、なるべく相川の近くに来れるように全軍が死に物狂いで突貫する。


「酷い……」

「師匠らしくありませんね……」


 その中でクロエと瑠璃は微妙な顔をしながら敵兵を屠っていた。修羅の国に来る前のイメージからはこの戦場の現状は離れていないが、相川が率いるというイメージからするとかなり泥臭く、戦っていて妙な気分になる戦なのだ。


「……確かに効果的で相手もたくさんやっつけてるけど……」

「そうですね……戦後のことを考えて国力を殺いでるんでしょうか……」


 後半部分の呟きは誰にも聞こえないように小さな声量で言いつつ近くの敵兵の断末魔の叫びでそれを掻き消す。


「……それにしても相手は銃ばっかりだよね。突撃して相手の懐に入ってからは単調だけど、これで武術のテストになるのかな……」

「……まぁ、相手が銃を使っているのにそれを見切って避けたりそもそも人を殺傷するために作られたそれが直撃しても無傷な時点で色々とおかしいんですが……」

「そう言えばそうだね。周りの人たくさん死んでるし。」


 瑠璃の何の感慨もない一言にクロエはこの人も相当毒されているよなと思いつつ殺した相手の武器を投げつけて新たな死者を生み出す。


「あとどれくらい戦うんでしょうかねぇ……」

「あ、そういう試験なのかな? ペース配分を考えて……」


 瑠璃はそこで不意に言葉を切って自陣前方を睨んだ。出陣前から感知できていた巨大な氣、相川のそれの近くに別の氣が迫り来ており、更に他の場所にも隠された巨大な氣が感知できるようになったのだ。


「ペース配分の問題じゃないかもしれないね。強そうなのが来たよ……」

「なるべくこちらに回してもらいたいところですね……流石の師匠でも5人ほどの達人相手では分が悪いでしょうし……」


 陣前方に飛び出したい気分を無理矢理押さえつけて呪いの発露が起きないようにしつつペースを上げて周辺をなぎ倒し、こちらに敵兵を呼び込む二人。しかし、当然の如くそんな輩から逃れるように別の個所へ敵が集まるようになり始めた。


「どうしよ。こっちから突撃したいけどダメだよね……」

「……中軍と後詰の部隊を引き連れていれば例え最前線でも問題ないのでは……? いえ、流石に陣形を崩すのはよくないですか……」


 遠巻きに銃で襲われながら瑠璃とクロエは味方の中でも浮き始める。もともと、出陣前に不埒な輩が近づいてきたので排除してから浮いていたがあまりの殺戮姫ぶりに最早一種の信仰を集め始める域にまで達している。


「あ、敵の達人がちょっとこっちの様子見に来るみたいだよ!」

「……⁉ 待ってください。敵の数が増えて……師匠が危ない!」

『策は成った! 相川はここで殺すぞ! 助けに入られないよう敵主要人物【童夢】のメンバーを各自補足せよ!』


 前方から戦場の怒号と悲鳴を掻き消さんばかりの大音声が響き渡った。その声量と肺活量からそれだけでただの人物ではないことがうかがえるその相手に加え、先ほど感知した以上の達人たちの集団が現れたことを察知した二人は呪いのことなどお構いなしにせめて囮になろうと動くが、その前に新手が現れる。


『東洋人の見分けはつき辛いな……まぁいい。強そうな相手だから【童夢】でないとしてもここで殺しておくべきか……』

『役得だな。こいつらを生け捕りにして今夜はお楽しみだ。』


 現れたのはまさしく達人である筋骨隆々たる大男と全身傷だらけの引き締まった小柄な男だ。その相手を見て二人は前方に進むのを諦めてこの相手を倒すことに集中する。


「……今感知できてる中で一番強いのがこっちに来てくれて助かったよ……」

「瑠璃がそちらを選ぶのでしたら私の相手は微妙な方ですか……」


 構える男二人に対して瑠璃は好戦的な笑みを、クロエは苦労性な笑みを浮かべながら相手を見据える。その直後に瑠璃たちの後ろに影が走り、戦場でよく聞こえる銃声とは異なる特殊な発砲音が鳴り響く。


「がっ……おのれぇっ!」

「……気付いてましたが一応、お礼は言っておきます。ありがとうございます。」

「ははは……仕留め損ねてこっちはそれどころじゃなさそうなんだけど。助けて。」


 二人の後ろを取ったかに見えた影は特殊な銃によってその場から一時的に飛びのくことになる。対する男たちは新たな乱入者を見て笑みを深めた。


『これは間違いなく【童夢】だな。高額報酬の名に連ねている【遠雷】……報酬はもらったな。』

『可愛い彼女の家に行ったと思ったら妹まで誘惑してきたってか。こりゃ楽しみだ。』

『どうでもいいが、こいつは俺にやらせろ。左手の落とし前をつけてもらわねぇとな……!』


 先程にもまして戦意が高揚している相手。先手必勝とばかりに瑠璃が飛び出す中で【遠雷】こと遠藤はものすごく困った気分で戦いながら相川へ連絡を飛ばすのだった。






「あー……しくったねこれ。敵勢力の動きじゃなくて武術協会が俺を殺しに来てる……」


 連絡を受けている相川は現在それを取るような状況ではなかった。外道魔王ほどの達人ではないが、それなりの武術家たち8人が相川を殺すために連携を取ってじりじりと追い詰めてきているのだ。


「一応、言っておくが我らは貴様を殺すためだけに来たのではない。三傑への道を歩もうとするに当たって、定められた基準を超えられるかどうかのテストに来たのじゃ。」

「……でも殺すためだけじゃないって辺りに本命は殺しに来てるって感じするよね。」

「当然だろう……我らはロウ様の食客だったのだからな。」


 その言葉を受けて相川は武術協会の動きとはまた別にロウ、外道魔王の食客たちが相川を殺しに来ていることを知る。


「……あれ? じゃあ……」


(一番強くてプロフィール見た感じだとこっちに来られたら逃げの一手しかないなと思ってたあれが武術協会から派遣されたヤバい奴か……つまり、こいつらには二段階とかはないわけで……)


 ある程度死の覚悟を持って死に物狂いで戦えばやれない相手ではないとわかりながら相川はこちらから離れ、中軍の方へと向かってしまった敵勢力を苦々しく思う。


(……瑠璃がどうなることか……俺が行くまでは逃げ回るでも何でもいいから死なないでほしいが……)


 迫りくる敵を前にした相川は瑠璃とクロエに課した呪いを解除して全力を以て応戦を開始する。




 

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