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強者目指して一直線  作者: 枯木人
終章・高校生編
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出陣

 懲罰室での治療を終えた一行は3時間程度その場で細かい取り決めなどを行った後、そこを出る。


「じゃ、確認。まず最初にお前らはここから出たらどうする?」

「ずっと下を見ながら誰とも目を合わせないようにする! 後、暇があれば今覚えた軍規を小声でつぶやき続けて栄光あれって笑顔で言う!」

「私はそんな瑠璃のことを可哀想な子を見る目で見て、質問されたら無言で首を振って察してもらうようにします。」

「……ま、妥当なところだな。」


 答えに満足した相川は扉を開いて二人を伴い移動する。その途中で相川だけ司令室に移動のため分かれ、二人は試験官の下へと移動することになった。


「おぉ……まさか生きて帰ってくるとは思ってなかったが……あの化物閣下にも色仕掛けが通用するのか……」

「軍規違反の可能性が見受けられます。部内におけるセクシュアルハラスメントが見られるため、処罰対象になります。」

「……あぁ、そっちか。」


 無機質な瑠璃の声に何かを察したらしい試験官はクロエの方に目をやって頷かれると謝罪してこれからについての連絡をする。


「無駄な時間が入ったため、休憩時間はほどんど与えられません。これより準備を行った後、この隊に同行して試験が始まることになります。尚、合否に係る基準に関するご質問は一切お答えできませんのでご了承ください。」

「わかりました。」


 懲罰室に行く前までの怒気が嘘だったかのように冷静な対応をしてくる試験官にクロエは頷き、瑠璃も無機質な目で頷く。


「配置先につきましてはこちらの参考資料に目を通してください。これ以後の干渉は不正行為となりますので控えさせていただきます。では、ご健闘をお祈りいたします。」


 そう言って試験官は深々と一礼をして去っていく。残された瑠璃とクロエは参考資料を見ながら与えられていた部屋に移動する。そして中に入ってからようやく瑠璃の状態が元に戻った。


「ねぇ……これってさ。危ないところだよね……」

「普通に考えるとあり得ません。反乱を起こしても誰も文句を言えないと思いますよ。」


 歯噛みしてクロエはその端正な顔を歪める。相川たちが配備されたのは最前線。完全なる弾除けのための配置のようなものだ。要するに、相川とそれに組する輩には死んでもらいたいというのがこの軍隊の大本の意思ということになる。


「やっぱり守ぁぐっ……」

「……これが、さっき師匠が言っていた……」


 相川を守るため、弾除けにでもなれればいいと命じられた場所から離れて行動しようとした二人の頭を猛烈な激痛が襲う。これでは戦場に行くことすらままならないのでその意思を誰に言うわけでもなく撤回することでその痛みから逃れる二人は苦々しい顔で顔を見合わせた。


「……変な約束しちゃった……こんなので傍に行っても邪魔にしかなんないよ……」

「かえって邪魔ですね……与えられた職務の身を遂行しろと言うメッセージでしょうが……」


 まるでお前たちのことなど眼中にないから邪魔だけはするなと言わんばかりの措置を取られていたことを知った二人は胸中に処理しきれない思いを抱えながらも初陣ということで緊張しながら出陣のための準備を整えるのだった。







「……もう約束を破ろうとしたのかあいつらは。」


 その頃の相川は最終確認を行いながら既に敵軍へ放ってあった、配下の内でも修羅の国所属ではなく自分の部下である直属兵たちを集めて会議を開いていた。


「正直、あの二人の戦力を考えますと中軍では宝の持ち腐れと言いますか……」

「後が面倒だから嫌。この戦いで二人には戦争において自分は役に立たなかったという思いを持って国に帰ってほしい。後、他の奴らから勧誘を受けた場合は恐らく俺に仲介も嫌がらせも紹介も来ることになりそうだから怠い。」

「……まぁ、確かに……」


 瑠璃たちが釈然としない思いを抱えながらも初めての戦争ということで緊張している一方でこちらは慣れたものというムードで既に全身フル装備で固めてお菓子を食べながら談笑していた。


「役に立たなかったと思わせるにしても試験の問題があるので、トータルで1000人は戦闘不能に陥らせる必要があるのですが……」

「まぁある程度勝ちが決まってから失策を犯したように見せかけて退却したらあいつら軍列が乱れてるからとか屁理屈言って危険な場所に乗り組んでくると思うから何とかなるだろ。最悪、無能な味方の処理のために動かせばいいし。」


 この場にいる一部からまばらな笑いが聞こえる。


「無能な味方よりも邪魔な味方の方がいいんじゃないですか? いっそ、射撃に巻き込んでくるゴミどもの一掃でもしませんかねぇ? 効かないからっていい加減イライラしますから。」

「あー……そっちもいいかもねぇ。毎回面倒だから中央突破してるけど今回は舵切って右方展開して中央がら空きにして襲い掛からせてみるか?」

「彼らの帰りを待つ無辜の民……あ、でもこの国は軍も民も一応解放軍として来てる私たちに対してゆすり集りはもちろんのこと武装して襲撃してくるくらいのこともしてくるんだからどうなってもいいか……」


 割とストレスゲージが溜まってきていたらしい一同は今回は意図的にミスをすることを聞いてどこに被害を大きく与えるかで盛り上がり始める。そんな中で相川は遊神一門がどの部隊に配属されたのかを思い出しながら黙って考える。


(麻生田が近いな……あいつとかは後先考えずに瑠璃が危ないとか思ったら飛び込んできそう……いや、寧ろ現時点で危険な舞台に配備されてるからとか言ってそう……)


 相川の想像は的中しており、あまりにも試験官の命令に従わない彼は今回の試験で既に性格面での大幅な減点をされていた。そのような相川の思案中にも話は進み、我に返った相川は現在の話がどこに行っているのかを聞いて話の流れを理解することにする。


「待て待て、憂さ晴らしも大事だがその後の処理のことも考えないとダメだ。ここは自然さを出すために予めの動きは決めておくものの、どこを狙うかについては敵に選ばせるべきじゃないですか?」

「んー……まぁ大体どこにもイラっと来てたからそれでもいいかな……」

「……多分、少しでも動揺があると視たら俺のところに殺到してくると思うけどな……」


 盛り上がる場の中で話の流れをすぐに理解した相川は誰にも聞こえない程度の声量でそう呟く。果たしてそれは誰にも聞かれることなく空気の中に溶けて行った。その言葉の代わりに相川は告げる。


「じゃ、そろそろ行こうかね。作戦としては別にどこに被害が行こうとも気にしない方向で、ここにいる12人を最高レベルで保護、時点でまぁ……こと戦いにおいて君らがあいつらの心配するだけ無駄だと思うけど瑠璃とクロエ。その下に下っ端社員。こんな感じで行きましょうか。」


 全員が賛同する中で相川は司令室から全員出ていくように言って周囲の確認を行う。


「……さて、往くとするかね。」




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