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強者目指して一直線  作者: 枯木人
終章・高校生編
236/254

お呼び出し

「あれ? どこ行くの?」

「ちょっと桐壺のところに呼ばれたから出かける……家の中漁るなよ? 罠仕掛け直すの面倒だし。」

「はーい。」


 もうすぐ夏休みに差し掛かる……と言っても相川は基本的に毎日が自由だが、一般的には初夏の頃。相川は桐壺に呼ばれて外出することになった。アヤメがそれに反応するが、今日は技術関係の話だと釘を刺されてその場に残される。


「……それにしてもあいつはいつまで俺のことを『にぃに』と呼ぶのだろうか……まぁ別にいいけど。」


 初夏というのにもかかわらず外気温30度を超えている熱気を遮断しながら相川はアヤメからの呼称について少々考える。尤も、別に自分から要求しているわけではないし人の好き好きなので別にいいかと呼び出された場所へ向かった。


(……でもやっぱりにぃに呼びはヤバいかなぁ……雰囲気も言動も完全に大人びてるのに俺の呼び方だけあれじゃあねぇ……しかも世間は見目麗しい方に勝手な理想をつけるし、俺は呪われてるから碌なことに……)


 色々と考えながら移動していると不意に相川は違和感に襲われる。そこで溜息をつきながら一度止まって間違っていたら微妙な気持ちになるなと思いつつ告げた。


「居るんだろ、ノア。」

「……うふふ……流石です、仁さん♪」


 先ほどまで何もなかったその場所にずっといたかのように佇んでいたノア。その隠形に対して相川はここまできているのかと内心で舌を巻く。


「ここまでくればもう少しですので、よろしければお話ししながら行きましょうか……」

「そうだな。」


 大人気アイドルユニットがどうして、桐壺と関りがあるのかなどという問いはない。過去、相川が桐壺に高値で売りつけた薬、【反憎禍僻嫌】を餌に抱き込んでいることは既に知っているからだ。


「それにしても凄いな。隠密に関しては達人レベルじゃないか?」

「そうですねぇ……一応、この前の試験では本試験に勧めましたよぉ……?」

「春のやつ?」

「はい。今度の夏はご一緒に戦争することになるかもしれませんねぇ……」


 ノアの言葉のつながりに一瞬疑問を持ったが、本試験の内容が戦争参加なのかと納得して相川は苦笑する。


「ウチの部隊だけはやめとけ。死にたいなら別だけどな……」

「仁さんのお役に立てるなら本望ですよぉ……」


 うっとりするように熱を帯びた口調で語るノアにそういえばこいつこんな奴だったかな? と今更ながら人格がおかしい気がし始めてきた相川。しかし、目的地もすぐそこだったので何も言わずにそのままビルの中に突っ込んだ。


「……あの、普通に入ってきてくださると助かるのですが……」

「俺が普通だ。ちゃんと空いてる窓から入ってきたぞ?」

「……ここ、27階ですわよ……?」


 その部屋に既にいた桐壺 真愛は相川に呆れたような視線を向けながらもそれは既に慣れていることなので流しつつ本題に入る。その前に相川に気になることがあった。


「何か今日は人が多いな。しかも見たことある顔ばっかり。お前に味方はいませんよーって話のために準備したならそんなこと既に百も承知だから無駄なんだが。」

「……誰もそんなこと言いませんわ。被害妄想も甚だしい……」


 笑いながら告げられる相川の言葉に苦々しい顔をする部屋の一行。相川と一緒に窓から入ってきたノアもいつも絶やさない笑顔を欠落して真顔になっていた。


「被害妄想……まぁそれでいいや。そんなことより何の用? 第一段階におけるロケットの小型化についての話があるって聞いてたんだが……」

「そんなことで片付けないでほしいですわね。今回の目玉となるお話はそれに関するものですのに。」


 じゃあロケット云々ではなく、その話を先に伝えろと思いながら相川が軽く睨むが交渉に関しては百戦錬磨の桐壺は全く動じずにその豊満な胸の前で手を開いた。


「ここにいる皆さんは仁さんを前にしても動じません。それが何故だかおわかりいただけませんか?」

「窓からゴミが入ってきたくらいの感覚だから。」

「……真面目にお答えしてほしいのですが。」

「俺が怖いから。」

「…………【反憎禍僻嫌】の複製に成功しました。」


 この調子では一生正解が来ることはないと判断した桐壺が先に答えを言う。それに対する相川の反応は淡白なものだ。


「……あっそう。で?」

「これであなたがこの国から出ていく必要はなくなるということですが。」

「ちょっと何言ってるかわかんないですね。ふふっ……」


 空気に亀裂が走った。笑いながらも冷徹な空気を纏い始める相川と熱を帯びてきた蠱惑的な空気を生み出し始める真愛。気付けば窓側には美女から美幼女までずらりと並んでおり、入り口付近に至っては扉の向こうの通路まで何かがいる気配がする。


「……相川 仁さん。あなたはこの国に必要な人材です。」

「残念ながら俺は人じゃねぇ。」

「言葉遊びに付き合う気はありませんが、あなたが人でないのであれば法的に人とみなし、新たな法人を作ります。」

「化物には必要ないね。鎖をつけようとするなら引き千切ってやる。」

「物理的な檻は作りませんよ。あなたがその気になればいいだけのことです。」

「あん?」


 早口で一気にまくし立てていた両者はそこで一度言葉を区切る。その時点で桐壺が合図を出し、その場にいた相川を除く全員が脱衣した。情欲を誘うような様々な恰好をした美女たちが並ぶ中には全裸すらもいる。しかし、相川は全員を睥睨しただけでぴくりともしなかった。


「動じないんですね。」

「……つい最近だがもっと酷い目に遭ったからな。で? 何の真似だ?」


 具体的には強制幼児プレイだ。そんなことはおくびにも出さずに相川は硬い表情を作ったまま真愛のことを睨む。彼女は陶然と微笑んだ。


「お金であなたが動かないことは知っています。ですが、あなたは女性に弱「男女平等パンチ。」痛っ……い、いえ、そういう話じゃないんですが……」

「……ノアか。」

「はぁい……」


 物理的なダメージを追って鼻血を出す真愛はさておき、相川は予想された答えから当該者を呼び出す。彼女はところどころ破れ、下着が見えているセーラー服という格好で微笑んでいる。


「どうせ、この前の瑠璃の一件だろ?」

「その通りです。研究所で催眠をかけていた瑠璃さんの一件から考慮の余地ありとの報告をさせていただきましたぁ……♪」

「まぁそれはいいんだけど……くっだらねぇなぁ……もういい? ロケットの話しようぜ。」


 篭絡しにかかってくる女性たちだが、美女としてはクロエ、美少女としては瑠璃、美幼女としてはアヤメを超えるような人はいない。そういう問題を除いても相川はまず主導権を相手が握っていると考えている状態があまり気に入らなかった。


「はぁ……【跪け】」


 瞬間、この場で立っている者は5名だけになった。


「なっ……⁉」

「……最近暇でさぁ……結局、この世界における霊氣と言霊に関する研究やったんだよね……結果としては微妙な仕上がりで魔力使わずに言霊使うのであれば達人レベルと歴戦者には通じないって感じ?」


 気怠そうに告げる相川はその手に既に打ち上げロケットの資料を持っている。その上、周囲は半ば認識外に置かれ始めていた。


「で、ロケットの話なんだけど「相川さん!」……えーと?」

「美幸です……覚えてます、よね……あんなにお世話になっておきながら酷いことしましたから……」

「知らん。」


 一刀両断。流石に物理的に両断はしなかったが相川は桐壺の方を向く。真愛は美幸の方を何とも言えない顔で見つつ、ノアに視線を向けた。ノアは静かに首を横に振る。


「……あまりに酷い経験はその人の記憶から消されると読んだことがあります……」

「別に何されたかとか、名前とかは知らないけど君のことは知ってるよ。ウチの会社をうろついては撃退されてるアレでしょ? あー……弱み握られてる子。もう映像消してやるから黙ってろ。今忙しい。」

「えい、ぞう……?」

「……美幸さん、もうやめた方がいいですよぅ……?」


 放心状態に近くなる美幸はそれでも相川に尋ねた。


「何の、映像ですか……?」

「何かシャブのバイヤー……つっても正体は君は知らんのか。押しの強いチャラ男にナンパされてそのまま調教されてたやつ。」


 美幸はそれを聞いた瞬間、ノアを跳ねるように見た。しかし、彼女は軽く目を伏せて首を横に振るだけだ。


「……桐壺グループの情報網の大半が被ってますから……」

「ウチのが闇は深いけどね。この件に関してはバイヤーの末路が結構面白かったから覚えてるよ。まぁそんなことはいいんだ、ロケットの話に戻ろう。」


 軽い世間話で済まされ、美幸は泣き崩れた。しかし、相川はそんなことを一向に気にせずにロケットの技術の話をしっかりと終わらせて帰っていった。




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